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トヨタで死んだ 30歳過労死社員の妻は語る(3) 「死んだら、もういらないの?」

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亡くなる1ヶ月前の年賀状。最後の年賀状。
 トヨタ自動車に勤務していた内野健一さん(当時30歳)は、倒れる直前の残業が月144時間にも達し、会社のいう“自主労働”-賃金のつかない業務-で疲労を蓄積させ、2002年2月8日、人生最後の日を迎えた。「持病も、病院通いもない。これで過労死じゃないなら、夫はなぜ死んでしまったのか?」と妻の博子さん(36歳)。労災申請を却下した労基署に対し、博子さんは「労災を認定して欲しい」と裁判所宛の署名を求めるが、トヨタ社員族たちは逃げ、会社側の組合も非協力的だ。「トヨタでの最後の24時間」について、妻の博子さんに聞いた。
◇夫がついに勤務中に倒れる
 「その日、2002年2月8日は、夫は私たち家族と一緒に朝ご飯(夫にとっては晩ご飯)を食べていました。その週は二直(遅番)だったので朝帰りですが、帰りが遅く私たちと一緒に朝ご飯を食べることができたのです。

 でも、一緒に食べてはいけないのです。本来、夜中の1時に終わって帰るので、多少残業があったとしても、朝ご飯の時間は寝ていなければならないのですから。

 その週は帰宅が完全に朝でしたから、朝ご飯をずっと一緒に食べられてしまったのです。子どもはよろこんでいましたよ。

 帰ってくるとまずシャワーを浴びて、朝ご飯を一緒に食べるといっても、その週はもう疲れていて、全部は食べられませんでした。半分ちょっと食べて、『もう行くわ』と子どもに気付かれないようにそおっと寝室に行っていました。

 『とにかく寝たい』
 『寝てるときが一番幸せだ』と言ってました。

 睡眠時間がめちゃくちゃ短いというわけじゃないですけど、寝足りなかったことは確かでした。会社の上司も、ミーティング中に居眠りをしていたと言っていました。

 そして、昼の1時過ぎに起きてごはんを食べ、『ほじゃ、入ってくるわ』と出かけました。その日に限ってパートの休みをとっていた私は、最後の出勤を見送ってしまったのです。

 この時に、引き止めていたら・・。

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会社が調査した内野さん最後の1日。「119番」とあるが、これは会社の私設救急車のこと。
 日付が変わって2月9日、倒れたのが朝4時20分くらい。上司と一緒に机で『申し送り帳』を書いていて、返事がないなと上司が思ったら倒れていた。そのときのイビキは通常のものではなかったと聞きました。

 夫が倒れた詰め所というのは、工場の天井からぶら下げてつくってあるような小さな事務所です。そこから下ろすのに時間がかかってしまったそうです。

 夫が倒れたことを知ったのは、5時くらいです。変則勤務の夫を少しでも寝かせようと、いつもリビングの電話の音が寝室で聞こえないようにしていたので、会社からの電話を受けられなかったのです。

 連絡がいろいろ回って、私の母が自宅までやってきて、ようやく知ることができました」
◇“私設救急車”でトヨタ記念病院へ運ばれる
 「倒れた夫は、トヨタ記念病院に送られました。会社が後に提出した『当日の詳細』という当日の記録に『救急車で運ばれた』と書いてありますが、119番の救急車じゃないです。会社の救急車なのです。

 工場には、もともと会社の消防車と救急車が用意されているのです。ある程度の設備があれば民間のものでも救急車と認められるようですね。でも、見かけはまったく普通の救急車と同じ。一般の救急車もトヨタ車ですから当たり前です。

 ですから、私も普通の119番の救急車と思っていました。

 救急救命士ではないですけど、頭動かしちゃいけないとか脈をとるとか、心臓をチェックするとかの仕事がありますよね。でも、実際には、社員でもなくて門番を兼ねている人が救急車に同乗したのです。設備はその車に備わっているかもしれないけど、それを使えない人。救急車が走行中に揺れているからと、脈をとることすらできなかったのです。

 ですから、誰も救急手当てしていないはずです。このことについては、会社に質問を出していますが、未だに回答がありません」
 倒れた人間がいて119番を呼ばなかったことに問題はないのだろうか。しかし、仮に倒れた直後に応急処置をして近くの病院に運んだとしても、それで助かっていたかどうか立証できるかはわからない。したがって、裁判でこの件を問題にするのは難しいのではないか、という担当弁護士の判断もある。
 「それに、20分もかかる病院に行くでしょうか。着いたときにはDOA(Dead On Arrival)=到着時心肺停止。普通は心肺停止した人は病院に入れてはだめなんですね。事件ですから、警察がこないと。そういう問答があったそうです。

 救急車に同乗した人も何もわからずにパニックになっていたようで病院に入れるしかなく、ICU(集中治療室)に入れられました」
◇通夜で人事の人に退職金の話をされた
  「私が到着するまでは、手動で心臓マッサージを一応していてくれたんです。本当はもうダメだったのですが、夫のお母さんが『博子が到着するまではお願いします』と頼んでくれて・・・。

 会社の人も病院に来ていましたが、うつむいた感じで何も言えなかったです。みんなわかってるんですよ、あまりにも忙しかったことを・・。私が何をいっても反応できませんでした。

 2月10日に通夜。葬式は2月11日でした。その時はばたばたし、挨拶でまったく手も頭も回りませんでした。

 お通夜の夜に、人事の人が退職金がどうのこうの、といって書類をもってきて、それがショックでショックで・・。「退職」という感覚が全然なかったですから。

 好きで死んだわけじゃないのに。

 死んだらもういらないの?

 使い捨てなの?

とショックでした。つらかったです。

 夫はこんなに一生懸命に働いたのに。なんで通夜に退職金のことで言いに来るの・・。あとで聞いたら、葬式代などで大変な人もいるためだと聞きましたけど。

 組合の人だったと思うのですけど、通夜の日に10万円くらいのお金を持ってきました。悔しかったですね。亡くなったこともまだよくわからなかったのに。

 葬儀場でも悲しんでいるヒマないですよね。親戚の焼香順を決めてください。祭壇の大きさはどうします。お返しの品はどうします。そして挨拶。夫のお母さんは倒れてしまうし・・。子どもはちょこちょこ走り回って水こぼしているし、いろんな人に連絡せなあかんし・・」
◇飲み屋もろくにない「発展しない」町
 葬儀が終わってから、労災申請しようと思い、内野さんは会社からさまざまな書類をもらった。
  「堤工場の人事部の方が窓口になって対応してくれたんですけれど。誠意をもってやってもらいました」
 その書類をもとに、亡くなった年2002年3月6日に豊田労働基準監督署に申請したが、2004年12月に却下。そのあとは愛知県の労働局に再審査を請求しても2005年3月に却下されてしまった。

 すぐに再審査を国に請求したものの、結果がなかなか出ないため、ついに2005年7月に国を相手取って裁判を起こしたのである。豊田労働基準監督署による労災申請却下の判断を覆して欲しいというのが訴えの内容だ。
 「亡くなるまでの半年は、異常な働き方で思考が止まったような表情になってしまいました。病気もなかったのに、夫の死が職務とは関係ないといわれれば納得できません。これは、家族や会社のために頑張ったということを、認めないということです」
 内野さんが労災の認定を求めて裁判を起こした想いは、この言葉に集約されている。とはいうものの、内野夫妻の親戚関係をはじめ、周りはトヨタ自動車関係で働く人が多く、「活動するのは、精神的につらい部分もある」と言う。

 確かに取材で訪れた豊田市周辺は、町の様子からして違う。トヨタの看板が目立つのは当たり前としても、人口35万人の都市にしては、中心市街地とか“旧市街”にあたるものがない。車で市内を走り回ると、どこまで行っても、田舎だか都会だかわからないような町が続くのだ。

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トヨタ本社 周辺は立派な道路が走るが、人通りは極端に少ない。
 たとえば、筆者が知る限りでは、豊田市よりもはるかに小さな、岩手県盛岡市や長野県松本市が醸し出す雰囲気がない。街を囲む緑の山々、桜並木や柳が建ち並ぶ河畔の遊歩道。昔ながらの蔵造りの古い喫茶店。旧市街から駅前に行けば、けっこう近代的なビルが建ち並ぶ。豊田市には街の風格というものが感じられず、正直な実感として殺伐としたものを感じる。

 殺風景な町の「豊田市豊田町一丁目一番地」にトヨタ自動車の本社がある。もともと拳母コロモ という地名だったのを豊田市に変えてしまった。車で市内を回っていたら、トヨタ系列の結婚式場もあった。

 社員は車で通勤するため、飲食店も発展していない。その代わり、パチンコ店が目立つ。そもそも、変則勤務なので、帰りにどこかに寄るなどということは難しい。

 愛知万博のときは会場の駅まで行く電車はあったものの、この辺りは電車が少ない。その代わり、道路は立派で目立つ。内野健一さんが働いていた堤工場周辺にも立派な道路は通っている。

 完全に自動車の町、トヨタの町である。

◇署名したら夫がクビになると思っている奥さんたち
 この町で、内野さんは、「労災の認定を認めて欲しい」という名古屋地裁宛の署名を集めているが、なかなか難しいという。
 「トヨタ一色の町で署名をお願いしても、トヨタ社員の奥さんは書きません。署名したら夫がクビになる

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豊田労基署ゴルフ接待記事(しんぶん赤旗)。労働基準監督署と企業の癒着を示している。これで公正な判断を下せるのか。

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