毎日・朝比奈豊社長は、業界紙のインタビューの中で、ネットの有用性を認めた。毎日の経営陣は、すでに電子新聞の導入を想定しているようだ。
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折込チラシの一世帯あたりの配布枚数が前年割れを続けるなか、新聞社が偽装部数(押し紙)を販売店に買い取らせてABC部数をかさ上げし広告収入を得るビジネスモデルが崩壊しつつある。毎日新聞は、販売網の崩壊を想定し、朝比奈社長が有料の電子新聞を意識した発言をするようになった。だが、課金に耐えうる商品は持ち合わせていない。ジャーナリズム活動によって成長したわけではなく、セールス団による異常な拡販活動と押し紙によって巨大化してきた組織だからだ。電子新聞の契約を、洗剤などの景品で釣って獲得できるはずがなく、電子新聞にはチラシを折り込むこともできない。既存新聞社には、いばらの道しか残されていない。
【Digest】
◇紙媒体から電子媒体へ
◇販売網の切り捨て
◇「押し紙」相殺システムの崩壊
◇「押し紙」の相殺システム
◇大新聞が受ける電子化のダメージ
◇強大部数が命取りに
◇紙媒体から電子媒体へ
新聞専門誌の『新聞通信』(1月1日)新年号に、毎日の朝比奈豊社長のロングインタビューが掲載された。このインタビュー記事から、毎日が生き残りをかけて電子新聞へ切り替える構想を持っているらしいことが読み取れる。
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--電子新聞についてはどのような考えをお持ちですか。
朝比奈:これは紙の新聞をとる人のための付加価値サービスであれば良いのでしょうが、簡単なことではありません。日本経済新聞が電子新聞を始めるようですが、新しい道を切り開き、そこから様々なヒントが生まれるのだと注目しています。
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販売関係者に配慮したのか、電子新聞については控えめな発言になっているが、後に紹介するように、インタビュー全体を読めば電子新聞に本腰を入れる方針であることが感じ取れる。
電子新聞の有料化に成功するための絶対条件は、情報の質である。ネット上には無料の情報があふれているわけだから、差別化された情報を提供しない限り、読者は金を払ってまで電子新聞を読まない。
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人目を避けて、コンテナ型のトラックで回収される「押し紙」。 |
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米国の『ウオール・ストリート・ジャーナル』が電子・有料化に成功したのも、経済情報という専門性があるからだ。日経がそれに追随するのも、経済紙が持つ同じメリットが追い風になると判断した結果だと思われる。
(ただ、日経の情報は専門家から見れば物足りないという声もある。)
毎日はさすがにネット社会で商品化できる報道とは何かを見抜いているようだ。実際、昨年の11月に共同通信との提携を発表した際に、朝比奈社長は、
「記者クラブに拠点を置きながら、官公庁や企業の発表は共同通信も活用し、分析や解説に力を入れる脱発表ジャーナリズムを進めたい」(アサヒ・コム)
と、話している。電子新聞には言及しなかったようだが、朝比奈社長は紙よりも電子新聞を想定して「脱発表ジャーナリズム」を宣言したのではないか。
共同通信との提携発表から約1ヵ月後、『新聞通信』の同社長インタビュー記事では、ネットへの方向転換が打ち出されている。たとえば、次の発言である。
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朝比奈:例えば、紙の新聞とは別の媒体をつくった場合、現在のような広告モデルでの無料のものは考えにくく、新たな収益として考えるのであれば、やはり課金モデルになるでしょう。それにはお金を払っても読みたい記事、商品価値のある記事を書く記者の数が勝負となります。
--記者の質が今以上に問われる時代になってくるということですね。
朝比奈:そうです。その商品価値を生む記者を、全体をスリム化させながら育てることは難しい経営課題ですが、そうした記者が多いほど、毎月お金を払って読む価値のある新聞になります。記者独自の取材を生かした記事を多く書くために、通信社や地方紙の協力に大いに期待しています。
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毎日といえば「ネット憎し」のイメージが強いが、インタビューの中で朝比奈社長はネットの有用性をはっきりと認めている。次の発言である。
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朝比奈:共通した発表の情報は今も大事ではありますが、その情報価値が落ちてきていることを感じます。例えば、厚生労働省が何かを発表した場合、今はネットやテレビでその情報に触れる人が多く、翌日の新聞で初めて知る人は少ない傾向にあります。詳しく内容を知りたい場合も、ネットで厚生労働省のサイトにアクセスすれば、そこで発表内容が資料付きで分かります。メディア環境が大きく変わってきたということです。
ネットがなく、テレビの影響があまり強くなかった時代では、新聞が発表記事を書くことで大きな商品価値を持ちました。しかし、今は発表の情報を無料で見ることができるようになりました。さらに民主党の新政権になり、記者クラブのオープン化が進んでいます。フリーのネットジャーナリストなど、多くのメディアが発表内容を伝えることで、新聞はこれまでとは違うレベルでニュースを捉える必要性が出てきたということです。
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◇販売網の切り捨て
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毎日労組の機関紙『われら』(09年3月5日)に掲載された手記。タイトルは、「補助金カットは『撤退戦』」 |
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毎日の電子新聞への傾倒とセットになったもうひとつの動きが、販売店の整理統合である。改めて言うまでもなく、電子新聞が普及するにつれて、新聞販売網は不要になる。
それゆえに電子新聞の構築は、販売網の整理・統合と同時進行する。毎日が販売網の切り捨てにかかっているというのが、販売店サイドの見方である。
たとえば昨年、わたしのもとに相談に来られた毎日新聞の店主さんが、自店の経営の実態を次のように話した。
「新聞の卸代金を払えなくなり免除をお願いしたところ、『支払いできる額だけでいい』と言われました。そこで毎月、未払い金を累積させることになってしまいました。ところが未払い金を後で請求されるのではないかと心配になり、担当員に相談したところ、『払えないのであればやめてくれ』と言われました」
毎日の社員からも、すでに販売網に見切りをつけているのではないかと思われる発言も飛び出している。たとえば毎日労組の機関紙『われら』(09年3月25日)には、販売局員の次のような手記が掲載されている。タイトルは「補助金カットは『撤退戦』」である.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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折込チラシの出稿が24ヶ月連続で前年割れになったことを伝える『新聞情報』(09年10月22日)の記事。 |
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