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「100ミリシーベルト未満のリスクは不明」 リスク評価の責任放棄した食品安全委員会

情報提供
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7月26日の食品安全委員会での記者会見。右端が座長を務めた東北大学大学院薬学研究科の山添康教授
 放射性物質の健康影響評価を検討していた食品安全委員会が7月26日、「健康影響が見出されるのは生涯被ばく100ミリシーベルト以上」という評価書案をまとめた。だがWHOなど国際機関では、放射性物質のリスクは「これ以下なら影響が出ないという安全値は無い」とされる。今回の評価書案は、蓄積被ばく量100ミリシーベルトを超えない限り健康影響は見出せないとすることで、将来の補償問題において100ミリ未満の被害者を切捨てようという政府・東京電力側の意向に沿ったものと言え、外部被ばくとの合算や子供と大人の区別もつけないなど、明らかに被害者に不利なものとなっている。全9回のワーキンググループの会議すべてを傍聴した筆者が、問題だらけの議論の実態を報告する。
Digest
  • 「生涯被ばくで100ミリシーベルト」のあいまいさ
  • 被ばく基準の省庁縦割りの打破を期待したが…
  • 100ミリシーベルト未満のリスクは切り捨て
  • 「リスク評価になっていない、資料集レベルだ」リスク評価専門家
  • 「採用した論文の評価が恣意的だ」疫学研究者
  • 子どもの影響も明言を避ける
  • なぜ腰砕けの評価になってしまったのか?

「生涯被ばくで100ミリシーベルト」のあいまいさ

「福島では、外部被ばくで生涯で100ミリシーベルトを超えるだろう。さらに今回食品からさらに100ミリシーベルトまで許容すると200ミリシーベルトになってしまう。是非見直してほしい」

「生涯100ミリシーベルトを上限にしてもらえば、年間1.25ミリシーベルトになり、現在の食品基準は少なくとも1/5になると期待している」

 8月2日に行われた説明会では、今回の評価書案に対して 「食品の暫定基準がきびしくなる」と期待して賛同する意見と、「逆に基準は甘くなる」と批判的な意見が出された。

7月26日に決定された評価案は「健康影響が見出されるのは、生涯における蓄積の量で100ミリシーベルト以上。自然放射線や医療被ばくなどは除く」というものだ。

これで食品の暫定基準は緩和されるのか、厳しくなるのか?実際にはどちらにもなりうる可能性を持っている。

平均寿命を80年と考えると、1年間当たりの量に換算して1.25ミリシーベルトになる。現在のセシウムの暫定基準値は、3月22日に厚生労働省が決めた年間5ミリシーベルトとなっているため、単純に考えると1/4になる。ほかの核種からの被ばく分や、外部被ばくの分などを差し引くと、もっと厳しくなるはずだ。

また、食品からの被ばく許容量も地域によって違ってくる可能性もある。福島と東京では外部被ばくの量に違いがある。福島の人たちの食品は、より厳しい基準を適用すべきという考えにも適用できる。

しかしその一方で、現在が緊急時だとして事故の1年目には多少の被ばくをしても総量100ミリシーベルトにならなければ影響が出ない、と判断されてしまうなら、期限を決めて緊急時の暫定規制値をもっと甘くすることも可能だ。

本来ならば、トータルの被ばく量上限が1生涯100ミリシーベルトで、その内食品からの被ばく量はここまで、といった形で振り分けがなされるべきだ。しかし実際の評価書では、振り分けるかについてさえ全く示されておらず、なんとも中途半端な評価案になっているのだ。

被ばく基準の省庁縦割りの打破を期待したが…

今回の9回にわたって行われたワーキンググループの会議を、筆者は全部傍聴した。最初はもっとまともな評価がされるのではと期待していたからだ。というのも今年3月にまとめられた食品の暫定規制値についての評価が、あまりにもむごすぎた。

暫定規制値自体は、原子力安全委員会の防災指針に基づくもので、その根拠は国際放射線防護委員会(ICRP)の緊急時の管理基準によるものだ。

たとえばセシウムについては年間5ミリシーベルトまで許容するとなっているが、なぜ5ミリシーベルトなのかの根拠がどこにも書いていないのだ。そのほかのヨウ素やウランやプルトニウムなど基準値を足し合わせていくと、年間17ミリシーベルトの被ばく量になってしまう。平時の一般人の基準が年間1ミリシーベルトなので、その17倍も食品だけからの内部被ばくで許容することになってしまう。

今回のワーキンググループ第3回目の中で、座長の山添康東・北大学大学院薬学研究科教授が「これまでICPRの管理基準という、根拠が不明な数値だけが先行していましたが、今回はできるだけその根拠となる研究にまでさかのぼってリスク評価を行います」と言われたときには、そのとおりだな、とうなずいた。

また専門委員の東京大学大学院医学系研究科・遠山千春教授からは「食品由来の内部被ばくだけを評価するというのは不可能に近いので、とりあえずは外部被ばくも含めたトータルの線量で健康影響が出ないと思われる最大の線量を決める。その後一定の割合を食品由来に振り分けるようにすべきだ」という意見も出されたが、それも素直に同意できた。

福島第一原発事故以降、国が定める被ばく基準は、省庁毎の縦割りになっている。厚生労働省は食品からの被ばく線量だけ、文部科学省は学校敷地内での外部線量だけ、環境省は海水浴場の被ばく線量、などと、それぞれの基準がばらばらに作られている。

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放射線被ばく許容上限値の決め方。三重大学勝川俊雄准教授のブログより

その結果、基準が増えるほど全体の被ばく許容量が上がっていく、という奇妙なことになっている。まずは全体の許容値を決めて、その範囲内でそれぞれの被ばく量に振り分けるというのが、本来のあるべき姿だ。

少なくとも当初、食品安全委員会はそうした課題にチャレンジしようとしていた姿勢がうかがえた。

しかし結果は、見事期待はずれに終わってしまった

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100ミリシーベルト以下のリスク推定モデル。(中日新聞4.22記事より)食品安全委員会の評価書案では100ミリシーベルト以上または以下でのリスクについて評価していない

子どもの感受性を示したグラフ。小出裕章氏の講演会資料より

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boshi2011/08/07 11:54

うわぁ.

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たちより2011/09/15 16:17
臼井よしき2011/08/07 11:44
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