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原田信助はなぜ命を絶ったのか―7 新宿署痴漢冤罪自殺事件いよいよ証人尋問へ 事件のカギにぎる15人の証人たち

情報提供
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信助さんが亡くなった当日から、母親の原田尚美さんは、関係各所に連絡して事件の真相を探ろうとしている。以下、原田さんが記録しつづけているメモを掲載する。
 09年12月10日夜、JR新宿駅の階段で痴漢と間違えられて女性の連れの大学生から暴行を受けた原田信助さん(当時25歳)は、110番通報した。ところが暴行事件でなく痴漢を働いた被疑者として新宿署で取調べられ、結局「痴漢の事実なし」と警察は記録を残して原田さんを明け方に釈放したが、嫌疑が晴れたことを本人に告げず、疑いをかけられたままと思った原田さんは、即日、鉄道自殺した。母親の尚美さんが息子の死の真相を知ろうと動き始めると、新宿署は特命捜査本部を設置して急遽供述調書などを作成して痴漢事件の被疑者として故人を送致(不起訴)。違法捜査だと尚美さんは11年4月に国家賠償請求訴訟を起こした。弁護団は15人の証人尋問を申請し立証計画を提出した。いずれも疑惑に満ちた事件のカギを握る人物で、全員が法廷で証言すれば解明に役立つはずだ。事件の焦点を報告する。
Digest
  • 物語の前篇(違法捜査)と後篇(隠蔽のための捜査)
  • 自称被害女性は最重要証人
  • 鼻骨骨折したのに鼻血が写っていない学生X
  • 死人と「話し合いで解決し」と供述した学生Y
  • 西口交番→新宿署→死後の捜査・・担当した7名の警察官
  • 最重要の警察官3人の証言は不可欠
  • 警察組織と捜査に詳しい第三者の証言も

物語の前篇(違法捜査)と後篇(隠蔽のための捜査)

謎と疑問だらけの事件は、いってみれば前編と後篇に分かれた長編映画のようなものである。原田信助さんが亡くなる09年12月11日午後9時3分までが前編、母親の尚美さんが真相を探ろうと警察署を始め関係各所に何度も問い合わせた数日間はインターミッション。そして、捜査不備を取り繕う(隠蔽)ために警察が特命捜査本部を設置した12月14日から書類送検した翌10年1月29日までが後編にあたる。

この事件の特徴としては、新宿駅西口交番から新宿警察署に任意同行を求められた信助さんが、ICレコーダー(連載第1回記事中頃)でやりとりを続け、署を出て自殺するまでの一部始終が録音されていること。

さらに、信助さんが死亡したあとに急遽、警察が作成した供述調書や再現報告書などの膨大な書類が裁判所に提出されていることだ。通常、警察や検察が所有する証拠はなかなか開示されず、不十分な証拠で裁判が進行するのが日本の現状であるにもかかわらず、かなり大量の証拠類が提出された。

こうした証拠資料やこれまでの15回の口頭弁論を踏まえて、原田尚美さんの弁護団は、事件の本質を次のように見ている。

《本件は、被疑者とされた男性が取り調べの直後に自殺した後に、警視庁新宿署が警察庁に経過報告をした後、特命捜査本部を結成して、自称被害者は「人違い」としている死亡している被疑者について、起訴できないことがわかっていながら、時間と経費の無駄としか言いようのない捜査が行われている。

(事件発生当日から翌日にかけての)捜査終了直後、新宿署からの帰途、原田信助さんが自殺するという予想外の出来事が起こった。その翌日には母親の原田尚美さんから息子の死亡の経緯や取り調べ状況などを問われた。

そのままでは新宿署の警察官らの対応の仕方が原因で信助さんが自殺に追い込まれた疑念が母親の尚美さんに深まり、警察組織に対する責任追及や社会的非難が寄せられない状況になった。

そのため警視庁では、新宿署がいったん終わらせた信助さんを被疑者とする迷惑防止条例違反(痴漢事件)の捜査を行ない、信助さんを犯人らしく仕立て上げることで、捜査・事件の処理場の重大な過失に対する責任追及や非難の矛先を警察組織からそらすことにした 》

死亡後における一連の警察組織の行動は、予想された遺族からの国賠請求訴訟に対抗するためだった、ということである。

あらためて事件の概要を整理しておく。

新宿署 痴漢冤罪・暴行・自殺事件

2009年12月10日午後11時ごろ、念願かなって転職した職場の歓迎会からの帰宅途中、原田信助さんがJR新宿駅の階段を登り始めたところ、直前にすれ違った女子大生が「いまお腹を触られた」と言い、連れの男子大学生2人は信助さんを背後から突き落とし暴行した。

信助さんは携帯で110番通報し、かけつけた警察官によって交番に連れて行かれ1時間半聴取、さらに新宿警察署に任意同行された。暴行事件の被害者として話を聞いて貰えると思ったら、痴漢事件の被疑者としての取り調べが数時間に渡って行われたのである。

女子大生の証言と信助さんの服装が違うことなどから、「痴漢の事実がなく相互暴行として後日呼び出しとした」「乙が現認した被疑者の服装と甲の服装が別であると判明」と新宿署は「110番情報メモ」記録し帰宅を許した。

信助さんは、新宿署を出て地下鉄東西線の早稲田駅に向かい、列車に飛び込み死亡した。事件直後には、被害者とされる女性の被害届も供述調書もなく、信助さん本人の自白調書もなかったのに、警察は急遽調書を作り、彼の死後の2010年1月29日、痴漢容疑(東京都迷惑防止条例違反)で検察庁へ書類送検(本人死亡のため不起訴)した。

母親の原田尚美さんは2011年4月26日、東京都(警視庁)を相手取り、1000万円の国家賠償請求訴訟を提起した。

新宿署が検察に送った膨大な証拠類が裁判所に提出されたが、供述内容が変遷していたり、あたかも信助さんが生きているかのような供述内容になっている。また、男子学生の一人は鼻骨骨折し鼻血が出たというが、服装の乱れも血痕もない事件直後のカラー写真も提出されている。複数の事件目撃者が語る人物とまったく違う風貌でもある。

 ○原田信助さんの国賠を支援する会
 〇原田尚美さんのブログ「目撃者を探しています!!」

原田尚美さんのツイッター

自称被害女性は最重要証人

疑惑だらけの本事件には、多数の人物が登場する。事件に立ち会ったJR職員もいるので、これら全員が証言台に立てば真実解明に役立つが、訴訟相手が警視庁(東京都)であるため、原告はあえてJR関係者を証人として求めていない。

とはいえ、証人尋問を要請されている15人は、いずれも事件のカギを握る人物である。原告が提出した「立証計画」や、検察に送られた証拠類、これまで取り交わした準備書面などを参考にしながら、それぞれの登場人物の紹介・役回りと証言の必要性を検証していこう。

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事件2日後の2009年12月13日は、新宿警察署に電話して事情を聴いた。また、17日には新宿署から電話があるなど、何度も連絡し合っていたことがわかる。一連の尚美さんの行動を見て、国家賠償請求をするかもしれないと警察が考え、その後の体裁を整えるために一連の“捜査”をしたのではないかと尚美さんの弁護団は見ている。

原田信助さん亡きいま、最重要の証人は、自称被害女性であり、連れの男子大学生2人であることは疑いの余地がない。

供述調書など警察官が作成した証拠書類は、あまりにも疑問点が多く、なおかつ弁護団から、警察官が本人の同意なしに作成したのではないか、まったく別人を写真撮影しているのではないかとの疑惑が出されているのだ。そうなれば、証拠類や警察官の証言だけでは真実を解明できない。したがって、この自称被害女性の出廷は認めなければならないだろう。これを認めるか否かで裁判長の意向がはっきりする。

疑問1 痴漢事件はあったのか? 供述調書と写真は本人のものか?

110番通報メモによると、「本署同行としたが、痴漢の事実が無く相互暴行として後日地域課呼び出しとした」「痴漢の事実が無く」「乙(自称被害女性)が現認した服装が別であることが判明」などと記載されている。

要するに、原田信助さんは痴漢事件に関係なく、そもそも事件そのものが存在しなかったと警察が明白に記録しているのだ。そして自称被害女性は

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信助さんが電車に飛び込んだ地下鉄早稲田駅は、警視庁牛込署の管轄なので、尚美さんはこちらにも問い合わせをしている。東京メトロは「ライン」と言って、ホームと線路の接触面は、すべてビデオで撮影できるシステムになっているはずだが、当日、信助さんの姿はビデオに映っていないと説明された。

新宿署の副署長らと面談が決まり、確認することなどをメモしていた。

何度か電話でやりとりした後の2010年1月11日(事件から約1か月後)に、新宿署副署長と尚美さんは面談。このとき痴漢の容疑は晴れたが相互暴行につては捜査中であることが述べられた。では、なぜ被疑者死亡のまま東京地検に送致したのか。

亡くなった原田信助さんも長時間にわたるICレコーダーで状況を残している。事件のあとから真相を探る母親の尚美さんも、主要な会話はほぼ録音している。

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ysync2014/03/04 14:34

これ、真実しりたいよなぁ。

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