My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ボクシング亀田兄弟が起こした名誉毀損裁判でフリージャーナリストに300万円の賠償――ほぼ同内容『東スポ』記事は問題ナシの判決

情報提供
ReportsIMG_J20160529061523.gif
片岡氏に300万円の賠償を命じた判決の第1ページ。興毅と和毅に150万円ずつ支払え、という内容(記事末尾より全文のPDFダウンロード可)
 ボクシングの元世界チャンピオン・亀田兄弟(興毅・和毅)がタレントの北村春男弁護士を代理人としてフリージャーナリスト・片岡亮氏に対して2,000万円の金銭支払いなどを請求した名誉毀損裁判で、2016年1月27日、東京地裁の中吉徹郎裁判長は、300万円の支払いを命じた(控訴せず確定)。それから3カ月、筆者が、敗訴した片岡氏をはじめ本件を取材したところ、曖昧な名誉毀損の認定基準が改めて浮かび上がった。片岡氏がブログで取り上げた事件は、『東スポ』も取り上げていた。両者の内容はほとんど同じだが、なぜか片岡氏のブログだけが名誉毀損にあたり、『東スポ』の記事は名誉毀損には該当しない、という判断が裁判所で下った。『東スポ』記事には、「JBC職員に密室で怒声」「(亀田側が)報道陣を退去させて“密室状態”にすると」「部屋の外まで聞こえるような大声で会話しており、穏便なものではなかった」などの表現がある。一方、片岡氏は『東スポ』と同じ内容を、簡潔に「監禁」「恫喝」などと表現した。名誉毀損裁判とは何なのか?その、いいかげんな「机上の論理」の実態に迫る。(判決文はPDFダウンロード可)
Digest
  • 使用グローブをめぐる争い
  • 『東スポ』は事件をどう伝えたか
  • 「一般の読者の普通の注意と読み方を基準」
  • 「監禁・恫喝」があったとする視点
  • プロとして抗議の方法に問題はないのか?
  • 重要なのは取材のプロセスではなく表現
  • 記者会見の内容が名誉毀損に
  • 亀田兄弟の完全勝利だが

ボクシングの元世界チャンピオン亀田兄弟(興毅・和毅)が、フリージャーナリストの片岡亮氏に対して2000万円の支払いなどを請求した名誉毀損裁判が終わった。去る1月27日に東京地裁の中吉徹郎裁判長は、片岡氏に対して300万円の支払を命じた。片岡氏が控訴しなかったので、亀田兄弟の勝訴が確定した。

ReportsIMG_I20160529062226.gif
フリージャーナリスト・片岡亮氏。誠法律事務所(千葉県松戸市)にて。

ボクシングの世界王者によるスラップ訴訟との見方もあるこの裁判の判決から2ケ月が過ぎた4月中旬、片岡氏がマイニュースジャパンの取材に応じた。

この裁判では、片岡氏が自分のブログに書いた雑感の色調の強い亀田批判と、それに関連した続報(書き込み)が名誉毀損にあたるかどうか、が問われた。

同時にこの裁判は、ボクシング世界王者の品格を検証する裁判でもあった。

結論を先に言えば、亀田兄弟には、世界王者として恥じるような行為は何もなかった、ということになった。

しかし、両者の係争は最初から平穏なものではなかった。亀田兄弟は片岡氏に対して事前に催告書などで記事の削除を求めることはなく、いきなり提訴に及んだのである。それがルール違反というわけではないが、大半の名誉毀損事件では、提訴に至る前に相手に対して警告が行われる。

だが、この裁判は、亀田兄弟の「先制パンチ」で始まったのである。

ReportsIMG_H20160529062537.gif
亀田兄弟が起こしたトラブルを伝えた『東スポ』の記事。見出しに、「JBC職員に密室で怒声」とある。しかし、中吉徹朗裁判長は、『東スポ』の記事は名誉毀損にはあたらないと判断した。

このような亀田側の激しい攻撃性は、判決後も変わらなかった。亀田兄弟は、ただちに片岡氏の銀行口座を差し押さえ、賠償金300万円の即時支払いを促す徹底ぶりだった。

世界王者がこうした態度に出てくるとは、片岡氏も驚きだった。一般的にスポーツマンには、負かした相手を敬う精神があるからだ。

亀田兄弟は、反則や暴言パフォーマンスなどで知られたキャラクターだからまだしも、亀田兄弟の代理人である北村晴男弁護士(テレビタレントでもある)までがそんなやり方をしてくるとは思わなかった、と片岡氏は言う。

ちなみに銀行口座を差し押さえる場合、差し押さえ対象の銀行口座を特定しなければならないが、亀田兄弟の代理人・北村晴男弁護士は、片岡氏の銀行口座を知らなかったらしく、「数を打てば当たる」の論理で、手当たりしだいに片岡氏の自宅近くの銀行に対して差し押さえの手続きを取った。

そのうちのひとつが的中して、実際に片岡氏の口座の差し押さえが実現した。そして、差し押さえに要した経費までも、片岡氏に請求してきたという。差押えに成功した口座を対象として、それに要した費用を請求することは問題ないが、失敗に終わった口座まで対象にするのは、強引な印象をうける。

片岡氏は元キックボクサーで、特に格闘技関係の記事には、定評がある。熱烈なボクシングのファンで、品性を欠いた亀田一家の言動には、厳しい視線を注いできた。片岡氏が言う。

「キックボクシングの世界には統一されたコミッションがなく、団体が乱立して無法地帯。それに比べると、ボクシングの世界はひとつにまとまっている。ですから日本のボクシング界が、その世界を守ってほしい、という気持ちで、これまで取材し、記事を書いてきました」

使用グローブをめぐる争い

この事件の発端は、2013年9月3日に高松市で行われたIBF(国際ボクシング連盟)世界スーパーフライ級の王座決定戦である

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り8,471字/全文10,035字

ロドリゴ・ゲレロは、KO率が8割近い技巧派のボクサー。(出典’TheBoxingDatabase)

ロドリゴ・ゲレロの対戦相手、亀田大毅。派手なパフォーマンスは有名。(出典’TheBoxingDatabase)

片岡氏の代理人・斎藤栄治弁護士。誠法律事務所(千葉県松戸市)で。

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

糺す2016/06/02 11:38
 2016/05/29 23:24
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本文:全約10400字のうち約8900字が
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい

新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)

企画「言論弾圧訴訟(SLAPP)」トップページへ
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、info@mynewsjapan.comまでご連絡下さい。会員ID(1年分)進呈します。