いくら読んでもわからない、強引な解釈と詭弁にまみれた通知書――「東進」運営会社ナガセが「訴訟テロ」予告②
ナガセの「通知書」には、FC会社での体験を綴った聞き書きに対して、「東進ハイスクールや東進衛星予備校のすべて、もしくはその多く」で起きているかのような書き方であり、虚偽だから削除せよ、という趣旨の、無理があるとしか思えない主張が繰り返されている。代理人の小原健弁護士らからMNJに送られた「通知書」より。 |
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- 「とやかく申し上げるべきことではない」と言うが…
- 「見過せ」ないものは何か?
- FC会社でのブラックな体験談も…
- 原文引用の続き「気の休まる暇のない日々」
- 原文引用の続き「情緒不安定進む」
- 不気味な「“犯人”探し」
- 見出しの解釈
- 「法的な手続き」を予告
◇本件記述③とは何か
「東進」ブランドの予備校多数を運営する株式会社ナガセ(本社東京都武蔵野市、永瀬昭幸社長)からマイニュースジャパン(MNJ)編集部に送られた7月29日付「通知書」は、何度読み返しても言わんとすることがよくわからない難解なものだった。
昨年10月に配信した記事「『東進』はワタミのような職場でした――ある新卒社員が半年で鬱病を発症、退職後1年半で公務員として社会復帰するまで」のうち「本件記述①」~「本件記述⑤」が虚偽でありナガセ社の名誉を毀損している、というのがナガセの主張だ。前回は「①」と「②」をみたが、本稿では残りの「③」〜「⑤」を検証する。
あらかじめ説明しておくと、「東進」の予備校には、主だったものに「東進ハイスクール」と「東進衛星予備校」がある。前者はナガセの直営校で、後者はナガセとフランチャイズ(FC)契約をした会社が経営する予備校のことをさす。記事の冒頭で詳しく説明されている。
「通知書」でナガセが問題にした上の記事とは、FC経営の「東進衛星予備校」に関するものだ。関西地方のとあるFC会社に入社し、講師として働いた経験を持つ元社員が、長時間のサービス残業をはじめとした過酷な労働実態を告発した。「私」という一人称で書かれている。いわゆる「聞き書き」というスタイルのルポルタージュである。
なお、筆者はこの記事の取材・執筆にはかかわっていない。元社員とは面識もなければ、連絡を取ったこともない。
それでは「本件記述③」の解読と検証からはじめたい。17字詰め26行の15頁で構成される通知書の8枚目、「5」と印を打った項にこう書かれている。
【「本件記述③」通知書の引用】
〈本件記事中には、「離職率は年4割超」とのとの小見出しのもと、本件対象者がアルバイトで勤務していたころの先輩が、本件対象者が入社するころには全員が退職しており、年間の離職率が4割を超えていると聞かされたこと、他の先輩が東進衛星予備校を運営する会社について「一体何人辞めさせる気だ」と憤っていたとの事実が記述されています(以下、「本件記述③」といいます)。〉
前回の記事でも触れたが、「本件記述」といいながら、その具体的な個所についてはあいまいな記述しかされていない。やむえず「記述③とは原文のうちのおそらくここだろう」と推測をつけ、以下に引用する。
〈離職率は年4割超〉
入社試験は、エントリーシートでの選考から始まり、出席必須の説明会、筆記、数回の面接を経て、最後に会社の理念に基づいた事業のプレゼンを、社長の前で行いました。このプレゼンの評価が非常に高く、社長直々に「歴代の採用試験プレゼンの中で最も良い出来だった」と高く評価されました。この件も入社の理由の一つになりました。今考えると、褒められて舞い上がってしまったのだと感じます。
私は内定後にアルバイトとして業務に携わるようになったので、実際には入社前年の冬から仕事を始めていました。この時点での業務は、掃除などの雑用と校舎の開け閉め、入校希望者への営業などです。正社員の先輩が3人いたこともあり、アルバイト時点では楽しく過ごせました。
しかし、この先輩方は、私が入社する頃には全員がやめており、後になって、年間の離職率が4割を超えている、と聞きました。別の先輩が「一体何人辞めさせる気だ」と憤っていたことを覚えています。
そしてこの「記述③」について、ナガセは次のような解釈を行う。
【「本件記述③」のナガセ側による解釈1】前回の検証で何度もみた文句が出てきた。−−「東進ハイスクールや東進衛星予備校のすべて、もしくはその多く」である。要するに、東進の「すべて、もしくはその多くで」年間の離職率が4割を超える、といったことを書いているが嘘だ、ケシカラン、ということだ。〈本件記述③によれば、本件記事において、東進ハイスクールや東進衛星予備校のすべて、もしくはその多くでは年間の離職率が4割を超える程度の高率であり、実際、短期間に多くの者が退職しているかのような事実が示唆され適示されています。
これまた、かかる事実は、虚偽であり、通知会社(ナガセ=筆者注)の信用をいちじるしく毀損しております。〉
※強調の赤字は筆者による。以下同じ。
だが、少なくとも筆者の場合、どう読んでも、元社員のいた特定のFC校での話、しかも先輩から聞いた話を書いているとしか理解できない。
「東進」の予備校はたいてい駅前の一等地に開校している。都内でみかけた東進ハイスクール(記事とは直接関係ありません)。 |
「とやかく申し上げるべきことではない」と言うが…
さらに先を読みかけて、すぐにまたひっかかった。「本件記述③」の内容は特定のFC会社について書かれたものである――と認めたような記載がある。先ほどの言い分と少しちがう気がする。
【「本件記述③」のナガセ側による解釈2】
〈そもそも、本件対象者が勤務していた会社における勤務状態については、通知会社が事実を直接体験しているわけではなく、本来とやかく申しあげるべきことではありません。〉
ナガセとは別の会社での出来事ゆえ、勤務状態については「本来(ナガセが)とやかく申し上げるべきことでは」ないと言っている。しごくもっともである。ところが、次を読んでいくとまた首をひねった。
【「本件記述③」のナガセ側による解釈3】
〈しかしながら、本件記事が、あたかも本件記述③中に記述された労働実態が東進ハイスクールや東進衛星予備校のすべて、もしくはその多くに共通するものであるかのごとく示唆して適示している点で虚偽であり、この点でも、本件記事は、通知会社の信用をいちじるしく毀損するものです。〉
「とやかく申し上げるべきで」はないが虚偽だ、というわけだ。東進の「すべて、もしくはその多く」に共通するかのように「示唆」しているから、というのが理由らしい。
「示唆」なんかしていたっけ? と、筆者はもういちど原文の「本件記述③」を読む。そして悩んでしまった。
東進全体での出来事であるかのように「示唆」しているところなど、どこにも見当たらない。
その先にはこんな記述もあった。
ナガセ社の離職率を持ち出している。ナガセの離職率を一顧だにせずナガセを一方的に誹謗するのはケシカランということだ。〈なお、通知会社自体の2014年入社者の離職率は7・8%にすぎず、本件記事は、この点でも「東進」全体の離職率を一顧だにせず(取材すらしておられません。)、通知会社を一方的に誹謗するものであって、とうてい看過することができません。〉
しかし、ナガセを一方的に誹謗した記載などあるのだろうか、と疑問がわく。記事にあるのは、特定のFC会社でのことだけだ。FC会社での体験を元社員が振り返り、「しかし、この先輩方は、私が入社する頃には全員がやめており、後になって、年間の離職率が4割を超えている、と聞きました。別の先輩が『一体何人辞めさせる気だ』と憤っていたことを覚えています」と語ったという事実である。それしかない。
東進全体の離職率が4割である、またはナガセの離職率が4割であるといった読み方に、いったいどうやればなってしまうのか。学習塾としての資質すら疑いたくなる。
ナガセ直営の東進ハイスクールとFC経営の東進衛星予備校が隣接している場所もある。都内で見かけた東進ハイスクール(記事とは直接関係ありません)。 |
「見過せ」ないものは何か?
やっと「本件記述③」を読み終えた。15枚中のまだ9頁だ。先は長い。続いて「本件記述④」のくだりを通知文から引用する。
【「本件記述④の通知文の引用】〈本件記事中には、「予備校社員の1日」との小見出しのもと、インタビュー対象者が実行した業務の内容が記述されています。
この部分の記述には、具体的な日時の記載がなく、通知会社としてもとやかく申し上げることはありませんが、…〉
「とやかく申しあげることは」ないという言い方がまた登場し、結局「しかしながら」として「とやかく」続く
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都内で見かけた東進衛星予備校。数百メートル離れた場所にナガセ直営の東進ハイスクールがある(記事とは直接関係ありません)。
開校まもないことを知らせる東進ハイスクールののぼり旗(都内、記事とは直接関係ありません)。
東進ハイスクールの窓に掲げられた大学合格実績の数字(記事とは直接関係ありません)。
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読者コメント
一般的な読解力では理解できない文章でも、林先生くらいの国語力があれば理解できる文章なのかもしれませんよ。
ナガセが実際に提訴してきた時にはMNJも報復措置として、ナガセ側を虚偽告訴に基づき返り討ち提訴をしてやれば良い。
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