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高卒公務員家庭の私が、奨学金を得て私大医学部を卒業し、30代で年収3500万円の勤務医になるまで――命を支える手術のキーマン・麻酔科医という職業

情報提供
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「自分の子供には、なれるなら医者になってほしい、ただ諸手を挙げて勧められるものでもない。同期は医者になってから2人自殺した…」
 両親とも高卒で地方公務員、2人兄弟の普通の家庭に育ち、都会の有名進学高出身でもない――。そんな、ごく普通の環境で育った青年が私大医学部に入ると、周りは、金持ちばかり。ガソリンスタンドでバイトをしていると、冷やかし半分の同期が外車でやってきた。だから、自然とお金にはコンプレックスを持った。それから十数年。一人前の医師となり、ワーカホリックに限界まで仕事を入れ、勤務医ながら年収は3500万円に。自分なりに信念と誇りをもって働けるようになった30代の今、5千万円の学費は返したいが、両親は「子供の教育は親の義務だから」と受け付けないという。医師になるまでの話から、医師全般、なかでも、麻酔科専門医がどのような仕事なのか、年500件超の手術麻酔をこなすバリバリ第一線の現実について、表も裏も、率直に話してもらった。
Digest
  • 国立大には落ちて…
  • 最初に受かった私大が6年で5千万円
  • 奨学金400万円を受け
  • 外科医→麻酔科医へ方向転換
  • 外科との違い、麻酔科医のキャリアパス
  • 年500~600の手術に立ち会う
  • 心臓手術は15種ほどの薬剤を使う
  • テーブルデスはないが…トラブルシューティングが重要
  • やりがいはDtoD、「個人名で外科医から信頼を受けること」
  • ステータスと給与は反比例する
  • 週2で年収1千万円が可能――医師バイトの相場
  • 給料が安い大学病院――8年目でも600万未満
  • 診療科による相場――麻酔科医は手術のキーマン
  • 「オンコール」は自宅待機料6万円/24時間
  • 物理的に限界まで働くと3500万円
  • 麻酔科医の未来――「麻酔看護師」の参入はあるか
  • 周りは金持ちでコンプレックス抱き…
  • 麻酔科は地味なポジション
  • 起きている患者と接する時間が少ない
  • 医療は持つのか――生活保護、ジェネリック、不要検査…
  • 医学部同期で2人自殺――メンタル面に留意

国立大には落ちて…

父が市民病院の事務や保健所の仕事をしていて、「医療系はいい、薬剤師になれ」などと言われ、中学時代から医療に関わる仕事を、意識はしていました。

高校時代に、「検案」(検視)を専門とする法医学の本に出合って影響をうけ、法医学の研究をしたくて、医学部の受験を決めました。一般に広く「検視」と呼ばれているものは警察官が行うものを指し、医師が医学的見地から行うものは、耳慣れませんが、「検案」と呼びます。

現役で、第一志望は、北海道大学(旧帝大の1つ)医学部でしたが、落ちました。そして、私大は、3校受かりました。現在では、下位の私大医学部でも早慶の理系学部より難易度が高くなりましたが、私が受験した20年ほど前は、早慶よりも私大医学部下位のほうが難易度が低かった時代でした。

難易度が上がったのは、この20年の間に、私立大学が学費を下げて優秀な人間を入れようという動きが相次ぎ、受験者数が急増したためです。順天堂大が劇的に学費を下げて、話題になりました(※2008年度に、2970万円→2080万円に890万円も値引きした)。

順天堂大医学部は、1995年偏差値58→2015年68と、20年で10ポイントも上がった。上げ幅が一番大きかったのは東京慈恵医科大で、56→74と18ポイントのアップ。東海大は57→61、藤田保健衛生大は53→60に上がった。(駿台予備校全国模試の合格ライン偏差値)

医学部の難易度としては、国公立は東大・京大・阪大の3大巨頭があり、東大理Ⅲが日本一の難易度である。国公立は科目数が多く、トータルな学力が必要。国公立50校の真ん中あたりが東大理Ⅰと同じくらい、とされる。トップとボトムの格差も私大ほど大きくない。

私大30校は上下の偏差値格差が大きかったが、医学部人気と学費値下げによって、志願者が急増。2015年度は私大医学部全体の志願者数が約11万人と、2001年度の約5万人から、14年間で2倍強に激増した。その結果、下位が底上げされ、格差は収れんに向かった。トップ定位置は慶応大で、国立大医学部トップと遜色ない難易度。上位は慈恵医科大、順天堂大、自治医科大あたりが続く。いまや最下位でも早慶の理工学部より偏差値は上とされる。

 ただ、東大理Ⅲが、オウム真理教の中核メンバーを2人(富永昌宏・石川公一)、慶応医学部も2人(林郁夫・芦田りら)輩出していたことで、心が病んだ偏差値エリートの弊害がクローズアップされ、1999年から東大理Ⅲに面接が導入された(2008年度から廃止、2018年度から復活予定)。

最初に受かった私大が6年で5千万円

医学部は、学費が高い順に日程が早くて、合格発表後に、入学金をすぐに払い込まないと落とされてしまうんです。

私が最初に合格した私大医学部は、6年間で学費が約5千万円、うち初年度に1200万円+学債500万+寄付(「無理です」と伝えました)を納める必要がありました(当時)。

弟(大卒で現在はメーカー勤務)もいましたし、親にとっては、一番教育費がかかる時期でした。「とても払えない」と言う親の前で、私は泣きました。第一希望ではないにせよ、せっかく勉強して、医学部に受かったのです。

もはや浪人して、国立大を受け直すしかないか…と思っていたところ、「5千万の目途がたった、お金で1年の時間を買いなさい」と、何とか、かき集めてくれました。そのあとの日程で、結局、藤田保健衛生大学医学部と、東海大学医学部も受かりました。

奨学金400万円を受け

同期は約100人で、これはどの医学部も似たような人数です。現役で入ったのは、私を含め10人ほど。2~3浪は当り前でした。(※現役比率は2割未満が一般的。上位大ほど現役比率が高めの傾向はあり、慶応医学部は2015年合格者の58%が現役生、逆に川崎医科大は3浪以上が54%を占める)

同期を見わたすと、医者一家はもちろんのこと、親族が政府系の要職についていて家柄がよいなど、6~7割は「金持ちの御子息」。自分は、6年トータルで奨学金400万円を借り、残りはアルバイトをして、生活費を稼いでいました。

6年ストレートで卒業するのは6割くらい。卒業できない人、ずっと留年して親が学費を払い続けている「主」みたいな人もいました。

留年させる度合は、大学によって違います。聞いた話では、順天堂大は95%がストレートで卒業しますが、これは、全寮制で共同生活をするなかで、教え合ったり、救い合ったりするカルチャーがあり、それが校風、カラーとして定着しているためだそうです。

国立大も、8~9割はストレートで卒業して医者になります。もともと学力のバランスがよい、優秀な人が多いためでしょう。自分はストレートで卒業し、国試も通りました。

外科医→麻酔科医へ方向転換

医学部には、法医学を志して入ったので、大学6年次に、有名な法医学の教授のところに出向き、2泊3日で研修させてもらったんです。実際の司法解剖も、見せてもらいました。

血液型の研究で、血痕からDNA鑑定をする。研究は、100回やって1回成功するか、という確率の低い世界で、一日中、死体と向き合っている仕事でした。そのとき、「生きている人を診たい」と思ったんです。

それで、祖父が心臓病で亡くなったこともあって、心臓外科医に興味を持ち、方針転換しました。卒業後は、外科に進むと決めました。当時は新研修医制度に移行する前だったので、各診療科のローテーションはありません。

自分の卒業大学の医局には残らず、門戸が開かれている別の大学の医局を探し、心臓外科の見学に行き、実際の手術を見学。その際の麻酔科医が的確な動きをしていて、患者の命を支えているのは麻酔科医なんだな、と。

研修医の2年間は、様々な外科を見て回り(消化器外科、整形外科、呼吸器外科…)、そのうちのどこかの外科に行きます、ということにして、その大学病院で研修医をしました。

麻酔科と外科は手術室で、一体となって動きます。「麻酔科標榜医」という厚労省の認定資格があり、取得するには、「2年以上、麻酔科専門で働く」もしくは「300例以上の全身麻酔を行う」というのが申請時の条件になります。これがないと麻酔科医を名乗れません。

麻酔の経験は外科に行っても役立つので、麻酔を学び始めました。そして、片足を突っ込んだら、麻酔科標榜医の取得を目指すようになり、どっぷりはまって、今に至ります。

外科との違い、麻酔科医のキャリアパス

外科は「花型」なのですが、OJTで先輩医師に教えてもらうしかないので、一人前になるまでの下積み期間が長いです。麻酔科は、患者からは見えない地味な仕事ですが、麻酔科医がいなければ手術もできません。

麻酔科医のキャリアパスとしては、順番に、標榜医→認定医→専門医→指導医、です。

2年の初期臨床研修を終え、次の2年で標榜医(国)と「認定医」(日本麻酔科学会)をとり、計5年の臨床経験で、日本麻酔科学会が認定する「専門医」をとれますので、6~7年目に専門医もとれて、独り立ちできました。専門医の認定試験は、約6割が合格します。

外科がチームプレイなのに対し、麻酔科は個人プレーの科です。病院によって異なりますが、麻酔科医2人のチームで手術に臨むことも多いです。

10年目になると「指導医」(日本麻酔科学会)をとれます。これは、専門医をとっていれば、だいたいとれるもの。どれだけ研修医を指導したか、論文を書いたか、などが基準になります。

私は、一人前(専門医)になるまでのキャリアを大学病院で積んでから、今の民間病院(300~400床クラス)に移りました。医局とは関係なく、もともとバイト先として行っていた病院に力量を認められ、請われる形での移籍でした。年1200件の手術をやっているのに、正規の麻酔科医が在籍していなかったので、声がかかりました。

手術は、病院にとって安定的に稼げる、いわばドル箱。麻酔科医は、そのキーマンの1人です。麻酔科医が在籍していれば、緊急手術もできます

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上:②非常勤「オンコール」の給与明細(4日分)下:③隔週当直バイトの給与明細(隔週当直の2回分)

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2016/06/29 20:43
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