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早稲田大学紛争の劇的ビフォー&アフター 5年雇止を撤回、賃上げ10%、非常勤講師3千人に無期雇用の展望開く

情報提供
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『ブラック大学 早稲田』(同時代社)マイニュースジャパン連載をまとめた早稲田大学紛争の初期の様子や、前代未聞の“不正選挙”などを詳述。本稿では単行本が出版された後の結果を伝える。
 非常勤講師を5年で雇止めにしようと目論む日本大学や上智大学では、非常勤講師たちが抵抗を続けている。きっかけは、2013年4月施行の改正労働契約法により、契約年数が5年に達した有期契約労働者は無期契約を申し込む権利を得たこと。多くの大学は権利行使を妨害する動きに出たが、早稲田大学も例外ではなく、契約期間の上限を通算5年とする就業規則を急遽制定。しかも就業規則制定のための過半数代表選挙を、非常勤講師らに知られないようコッソリ実行した。低報酬にあえぐ非常勤講師がだまし討ち的選挙で職さえ奪われようとしたのだ。断崖絶壁に立たされた彼らは泣き寝入りせず、早稲田ユニオンを結成し闘い、3年後に大学から120%の回答を引き出した。そのプロセスは本サイトで連載したが、結果を伝えていなかったので報告する。早稲田紛争のビフォー&アフターだ。(記事末尾で新就業規則ダウンロード可)
Digest
  • 断崖絶壁に立たされた“非正規”が一発逆転
  • 給料大幅減、そして5年でクビ
  • 専任教員と非常勤講師の年収は10倍の格差
  • 「だまし討ち選挙」から闘いは始まった
  • 早稲田ユニオン結成で闘いが拡大
  • 次から次へと問題発覚
  • 4つの刑事告訴、民事訴訟、労働委員会に救済申し立て
  • 非常勤講師3000人に無期契約の道 報酬10%アップも
  • 残された課題と早稲田大学紛争の波及効果 

断崖絶壁に立たされた“非正規”が一発逆転

非正規労働者が同じ立場の人たちと交流して情報を交換し、何かあった場合に共同で行動するのは難しい。

それは大学で学生に教える非常勤講師も同じである。1年契約で授業を担当する彼らは、毎年簡単な契約書にサインし、更新していくのが普通だ。事実上自動更新で、10年15年と継続し働き、低報酬ながら無期契約に近い状態の人が多かった。

専任教員とちがい、専用の研究室もなくデスクもない。控え室という大部屋で授業の準備・待機するのが普通だ。大学からのお知らせはメールボックスで受け取る。

だから、同じ学部同じ学科に、自分と同じような立場の教員が何人いて、だれだれさんがどの授業を担当しているのか。顔と名前が一致しないということもある。

つまり、非常勤講師の場合は、横の連携があまりない。そんな状態で、解雇、雇止め、担当コマ数(授業数)を減らされる・・など生活を脅かす難題が降りかかったらどうなるのか。

今回のレポートは、ある日突然に5年で雇止めと担当コマ数(授業数)大幅減=報酬大幅減を通告された、早稲田大学に勤める数千人の非常勤講師たちの起死回生ドキュメンタリーだ。

本サイト連載をまとめた『ブラック大学 早稲田』(同時代社) で示した経緯と、出版後に明らかになった結果は、孤立させられ理不尽なあつかいを受ける非正規社員たちに希望を与えるだろう。

給料大幅減、そして5年でクビ

2013年春、早稲田大学で働く非常勤講師たちに郵送もしくはメールで「お知らせ」が届いた。文書のタイトルは「非常勤講師および客員教員の雇用に関する変更について」(3月25日付)。

そこには「雇用契約期間の上限を通算5年とする」と書かれており、平たく言えば5年でクビということだ。

それまで早稲田大学には、非常勤講師のための就業規定がなかった。それなのになぜ、突然に規則が決められたのか。しかも、一律に5年で雇止めとは・・・。

それだけではなかった。非常勤講師たちは授業担当数(コマ数)をある程度多くしないと生活がなりたたないので、早稲田大学だけで10コマを超えて授業を担当する人もいた。ところが担当授業数も4コマまで減らすと通知には書いてあった。

当時、同大学の非常勤講師報酬は一コマの月額は49歳以下2万8000円、50歳以上月額3万100円だった。これは、ある授業を一つ担当した場合の一か月の収入ということだ。

この計算だと、10コマ担当していれば月収28万円~30万1000円であり、4コマに減らされると、月収11万2000円~12万4000円に激減することになる。

なお、この当時は「出校手当」という名目で担当科目数に関係なく月額6000円が講師給与に加えられていた。

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専任教員の年収平均1350万円に対して非常勤は超定収入。2013年3月25日通知の非常勤講師給与の実情。

専任教員と非常勤講師の年収は10倍の格差

少し古いデータだが、05年から06年の首都圏大学非常勤講師組合など複数の組合の調査「大学非常勤講師の実態と声2007」で、当事者たちの生々しい実態が浮かび上がった。

それによると、年収250万円未満の非常勤講師が約44%を占める。まさに高学歴ワーキングプラーであり、全国でおよそ9万人いる専業非常勤講師たちの生活は、早稲田紛争が始まったときも2018年の今もそう大きく変わらない。

専任教員の義務的業務は4コマの授業を担当することのみ。もちろん実際には、カリキュラム編成や、教授会出席、研究業務などを行っているが、早稲田大学専任教員就業規則で「義務」とされているのはこれだけだ。

そして専任教員の平均年収1350万円(団交における清水敏常任理事=当時の発言)。ところが、非常勤講師が同じ4コマの授業を持ったとして年収は132万〜151万6800円。その格差は実に10倍に達する。

「社会保険や福利厚生などを考慮すれば、早稲田の場合は非常勤と専任ではコマ当たり実質年収にはさらに広がる」(早稲田で長年教える非常勤講師)という。

平成29年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況(厚労省発表)によれば、フルタイム労働者の正規社員・正規社員以外の賃金格差は、もっとも格差の大きい50代前半ですら、年収は約2倍。早稲田大学の格差の異常さが分かろうというものだ。

しかも、非常勤講師の場合退職金もなく、年金は個人加入の国民年金なので、生涯年収に換算すると、その差は20倍にすら達するという計算がある。

非常勤講師の中には、国内・海外を含め博士号を取得している者が多く経験豊富な人も多い。一方、専任教員でも博士号はおろか、大学院歴さえなく、学士号しか持っていない者もいるので、この格差は「学歴」や「業績」など、合理的には一切説明がつかない。

「だまし討ち選挙」から闘いは始まった

理不尽な差別に加えて、非常勤講師の職すら奪おうという突然の5年雇止め事件の発生だったのだ。

5年上限の就業規定通知がとどいた6日後の2013年4月1日から改正労働契約法が施行されたのが根本にある。

期限を区切って契約する有期契約労働者の通算契約年数が5年に達すれば、労働者は無期雇用転換を申し出る権利を得た。申し込まれれば、使用者は申出を受け入れなければならない。

ただし、無期契約に転換する以外の労働条件は、それ以前とまったく同じでも許される。

当初、多くの大学は、まるで非常勤講師を専任教員に転換しなければならないかのように勘違いし、非常勤講師たちが安定的な雇用を確保できる無期契約の申し出を妨害しようと試みた。

早稲田大学も、それまで存在しなかった「5年上限」付きの非常勤講師就業規定を設定し、

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早稲田大学紛争まっさかりの2015年2月段階の争点と課題。(首都圏大学非常勤講師まとめ)

2016年3月に首都圏大学非常勤講師組合、早稲田ユニオンと大学との間で交わされた包括的合意書の骨子。

問題発覚から約2年8か月へて得られた東京都労働委員会での和解をつたえる号外。『控室』(首都圏大学非常勤講師の機関紙)

左の「現行」とは2016年時点の給与。紛争前の2013年の非常勤講師1コマ月額給与は、49歳以下2万8000円、50歳以上3万100円だった。闘った結果、49歳以下3万3800円、50歳以上3万6110円にまでアップした。

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早大図書館偽装請負2018/10/20 23:18
ギモン等あれこれ2018/10/20 18:29
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マイニュースジャパン連載記事をまとめた単行本 『ブラック大学 早稲田』(林克明著 同時代社)

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