「金はないがやる気はある」人向けドイツMBA――授業内容と、その付加価値
「チートシート」と呼ばれる、テスト時に持ち込み可能な用紙。コーポレートファイナンスという科目で、テスト時に筆者が利用したもの。A4用紙1枚のみ・裏表記載可能の形式。1枚にどうまとめるかを考えるので、意外に講義の復習にもなった。授業で使われた全スライドを小さくコピペして収める強者もいた。 |
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- インタビュー:インドMBAの付加価値
- インタビュー:慶應ビジネススクール(KBS)での付加価値
MBAの付加価値とは?
「金はないがやる気はある」筆者がドイツでMBAコースに入学するにあたっては、「そもそもMBAって本当に役に立つのか?」という問いがあった。前回(準備編)に引き続き、今回の記事は、その問いに対する答えを模索するものである。
MBAに対する評価は日本では様々だ。筆者が新卒後に所属していた会社でも、MBA留学を就活時には全面的にアピールされたが、いざ入社すると枠がかなり少なくなり、その必要性がなさそうに感じた。コンサルティング会社在籍時も、MBAホルダーが活躍できているかというと、必ずしもそうでもない、との意見をよく聞いた。世の中には、MBAのことを"The Most Baka Associate"と揶揄する人もいるぐらいだ。
筆者は高校時代からMBAに興味を持ち、2001年ぐらいから『イフ外語学院』のホームページでMBAに関する記事を読み漁ったり、講談社現代新書『MBA―アメリカのビジネス・エリート』などの書籍を読んで、MBAに関する情報を仕入れていた。実感として、今ではMBAはバブル時代〜1990年代前半ほどの勢いはすっかりなくなった。
筆者の就活時はリーマンショック前(2006・2007年)で、外資系金融およびコンサルに人気があり、MBAに行くよりも外資系企業の厳しい仕事を通して成長した方が良い、という雰囲気があった。2018年現在では、優秀なビジネスマンはスタートアップで稼ぐ方が良い、という風潮が強くなっている。
実際のところMBAで学ぶ価値は何なのか?友人へのインタビューとあわせ、筆者の通うエスリンゲン応用科学大学(Hochschule Esslingen)のMBA、慶應ビジネススクール(KBS)およびインドの大学のMBA(本人の希望により、学校名は伏せた)など、「本場の米国ではないMBA」から何を学び、どう活かせるのかについて生の声をまとめると、以下の結論となった。
「ドイツMBAの付加価値」
・安定性のある製造業に特化したMBAを修了することで、その業界に入り込みやすくなる、もしくはそこへキャリアチェンジしやすくなる。
・ヨーロッパでも信頼性の高いドイツのMBAを取得することで、ヨーロッパのみならず米国・カナダなど先進国の製造業への就職(就労ビザ取得)機会が得やすくなる。
・英語のMBAでもドイツ語習得は必須なので、ドイツ語ができればドイツの労働市場に入り込みやすくなる。
「インドMBAでの付加価値」
・超競争社会を勝ち抜いてきたインド人の上位層と人脈を作ることができる。
・日本人卒業生が少なく、他の国のMBAホルダーと差別化できる。ユニークさのアピールになる。
「インド・ドイツMBA(非英語圏海外MBA)で共通する付加価値」
・外国で物事を素早く処理する力など「サバイバルなスキル」を身に付けることができる。
・日本人メリットを活かし、かつ英語を使いこなす仕事につきやすくなる。
・日系企業の海外駐在員の仕事につきたい場合、その可能性を高めることができる。
「国内MBA(例:慶應ビジネススクール)の付加価値」
・日本で働き続ける上で、KBSのような国内ブランド力があるスクールを出ると就職・転職時にも給与やポジションを上げる機会がある(国際大学MBA、一橋大学MBAもこれに当てはまるかと思われる)。
・日本人であれば、母国語である日本語によりビジネスに必要な知識(ファイナンス、マーケティング、戦略など)を深く理解しやすい。
・日本社会の中で、人脈を築くことができる。
インドMBAの卒業生にMBAの付加価値について実際に話を聞くと、ドイツMBAと似ているな、と思えるところが多々あった。一方、KBSは日本国内に特化したプログラムで、海外に出るにはアピールしにくいが、日本国内で確実にキャリアを築く上では価値がある、と思えた。
日本国内で海外MBAをアピールするには、『Financial Times』や『The Economist』などの有名サイトによるグローバルランキングで上位に挙がる学校でない限りは、やや苦しいところがある。その意味では、筆者のMBAスクール自体は、日本ではアピールになりにくく、実務経験とドイツ語を知っているという付加価値を組み合わせるべきだと考えている。
筆者の場合、ドイツ現地で就活をしている最中であるが、外国人として苦労するところが多々ある。ドイツでは、日本人は「単なる外国人の一人」でしかない、ということを実感している(ドイツ現地での就活については次回記載予定)。
ドイツMBAのメリットとして、かなり安い学費でMBAプログラムを受けることができ、その上で製造業およびIT分野でキャリアのレバレッジが図れることが挙げられる。
また、ドイツMBAはヨーロッパ先進国のルールに則って取得した修士号となるため、ヨーロッパ地域での就職のアピールのみならず、アメリカおよびカナダでの就業機会を広げることも期待できる。
というのも、たとえば筆者の同級生のインド人は、卒業後にカナダへの就職を考えている。その背景は
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アウディ社に工場見学した際にもらった、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)のカード。ドイツ語訳ではSortieren(整理)、Saubermachen(清掃)、Sichtbarmachen(可視化=清潔)、Standardisieren(標準化=清潔)、Sicheren(安全化=躾)と全てドイツ語でもSで始まるようにうまく翻訳がされている。
アウディ社のネッカースウルム工場・ショールーム訪問時の写真。巨大工場の中身を見学することができた(もちろん工場内は写真撮影禁止)。自動車産業というものを肌で感じ取ることができる。工場見学は事前申し込みをすれば英語でのガイドをつけてやってくれるとのこと。
モンゴルでの5S:余談であるが、筆者がモンゴルにいた時、エルデネットという町でカーペット工場を見学した際、日本の5S(モンゴル語ではキリル文字で5Cと表記する)を見ることがあった。ドイツだけでなく、モンゴルでもJICAの支援により導入されて、広く世界で今でも取り入れられている経営手法であると言える。モンゴル語では、日本語の呼び名をそのまま使っている。整理=Сэири、整頓=Сэитон、Сэисо=清掃、Сэикэцу=清潔、Шицукэ(Сицукэ)=躾と表記されている。
コーポレートファイナンスの授業でのゲストスピーカーによるデータサイエンスの講義内容の一部を日本語訳したもの。データサイエンティストに必要な要素について。データサイエンティストに数学・統計およびプログラミング知識が必要であるが、そのほかにもコンサルティング的な要素が必要となる場面があるとのこと。このコンサルティング的な分野に、MBAホルダーが貢献できる機会があるのではないかと説明があった。
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