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ドローン最大手DJI 元社員が語る「年収1.5倍になったけど、ありえないことが起きる日々」――躍動感ある職場、魑魅魍魎の社内政治

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日本人社員は、日本法人(本社・品川)に所属し、日本オフィスでの開発環境+出張で深圳(深セン)本社での開発プロジェクトに参画する
 未来の大企業候補であるユニコーン企業数は、1位米国510社、2位中国167社、3位インド59社。日本は世界13位の6社だけだ(2022年2月、『CB INSHIGHTS』)。日本企業の相対的地位が加速度的に低下していくなか、今後は欧米企業だけでなく、台頭する中国企業で働く機会や「高待遇の求人」が増えることが予想される。2006年の創業以来、中国の技術革新の象徴となっているのが、そのうちの1社にあたる、ドローン最大手DJIだ。従業員数は世界12,000人以上、うち日本法人で約200人。コロナ禍を経て辞めるまで5年前後勤務し、日本人としてDJI本社(深圳)の新製品開発プロジェクトに参画した技術職の元社員に、急成長中国企業の現場実態について聞いた。
Digest
  • 「カメラのノウハウ・技術を日本から学びたい」
  • 日本の開発部門はソニー出身者が一番多い
  • 「中国人だけでやりたい」本音
  • 組織:日本人より先に辞めちゃう本社の中国人技術者達
  • 本社中国人社員の中にもGoogleやFB閲覧可の人もいた
  • 言語:英語で仕事ができると言われて入ったのに…
  • 人材の焼き畑農業をやっている
  • 「スピード感、躍動感があり面白い」充実感
  • 魑魅魍魎うずまく社内政治のストレス
  • 「今日、政府の人が来るから」中国共産党との関係
  • リンクドインを採用に使う人事
  • コロナ前は毎月のように深セン出張
  • 技術職は年俸1千万円超が普通
  • ボーナス半額にされたり臨時ボーナスが出たり
  • 基本給+月60時間分見込み残業代
  • 360度評価も導入
  • ロゴ入りTシャツ支給「有名チームのユニフォーム感覚」
  • 愛知県のトヨタ≒深センのDJI
  • 新社屋「天空の城」が稼働
  • 残業よりも、休日が移動で潰れるほうがイタい
  • 日本と中国のカレンダー差「日本オフィスは休みすぎ」

■DJI(ディー・ジェイ・アイ)

 中国名は、「大疆(ダーシャン)創新科技」有限公司。ビッグ・フロンティア・イノベーション・サイエンス・テクノロジーという、ベンチャーらしさ満点な名付けである。科学技術革新で大いなる新境地を拓く、の意。2006年創業のドローンメーカー。当初は飛行制御装置を供給する部品会社だったが、2012年にドローン『ファントム1』を発売。2013年には小型カメラを、米企業ゴープロ制から自社製に切り替えた。2015年に『ファントム3』(3軸ジンバルでぶれない映像を撮影可能)が大ヒットし、世界ブランドとしての地位を確立、現在では民生用ドローンで約7割の圧倒的世界シェアを持ち、農業用や人が乗るドローンの開発も手掛ける。「UIのよさが特徴で、操作の自動化技術によって使いやすく、安全性も高い。むしろコントローラーの使い勝手や緊急着陸機能に問題を抱える日本製のほうが危ないというユーザーの意見もある」(元社員)

「カメラのノウハウ・技術を日本から学びたい」

公式サイトによると、DJIジャパンの従業員数は「200名」(グローバル12,000人以上)。組織の人員構成は、どうなっているのか。

『ファントム4 ProV2.0』

「日本法人に所属する社員は、全200人中、開発系の技術職が約60人。マーケが約30人。バックオフィス系(知財、経理、人事、IT…)が約10人。これら計100人が品川で、残りが埼玉でアフターマーケット(販売後の修理など)をやっている、というのがざっくりした内訳です」(元社員、以下同)

外資メーカーの日本法人といえば、「海外販売支店」の位置付けで営業職が中心、というイメージが強いが、DJIは世界シェア7割の独占企業で、日本企業の同等製品は1ケタ価格が高いとあって勝負にならず、営業努力は不要。よって、アフターサービスのほうに最大のマンパワーが割かれている。日本法人は、日本語を話せることを採用の条件としているため、中国人であっても日本の顧客対応で支障はない。

今年移転するDJI新本社「天空の城」は、アップルの新本社と同じ建築事務所「Foster + Partners」が設計(DJI公式サイトより)

「アフターマーケットの人たちは、日本オフィス全体の忘年会で集まるときに顔を合わせますが、ほとんど中国人社員なんです。一方で、開発系の技術職60人程度は、日本人が半分弱はいます。5~6年前は日本人のほうが多かったのですが、どんどん辞めてしまって、いまでは日本語を話せる中国人のほうが少し多いくらいになりました。開発系の中国人技術職は、まずソニーなど日本企業に就職してキャリアを積んでから転職してきた中途採用が多く、インターン採用で日本の大学に通う中国人も新卒で採っていました」

直近では、国籍問わず「外国籍の方は、日本語能力試験N2以上合格した方」を応募条件にして、新卒(大学院卒)でもカメラ関連のエンジニア職のみ募集している(2022年度)。

■経済安保とDJI

DJIは、米中間の経済安全保障議論の末、情報漏えい・人権侵害・軍事利用のリスクから、米国が、ファーウェイ等とともに国内の利用禁止リストに指定。さらに2020年12月、米商務省は禁輸リストにDJIを追加した。その結果、DJI社は許可なく米国から技術や部品を輸入することまで禁じられた。売ることも、買うことも、できなくされたのである。その2ヶ月後(2021年2月)、DJIのカリフォルニア州R&D部門の拠点は、閉鎖となった。

 2013年までは米国企業『ゴープロ』の部品をドローンに搭載していたDJIだが(その後、自社開発カメラに切り替え)、今後は使用できなくなった。米国は同盟国にも同様の措置を促しており、日本政府も、情報漏えいリスクがあるとして、政府調達からDJIを排除した(「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針」)。

「DJIの海外における開発拠点は現在、日本だけになりました。日本法人設置の目的は、DJIがドローンの活用分野の中でも『空撮』を重視していることと関係しています。ドローンは高性能カメラを搭載しますが、カメラの世界シェアからもわかるとおり『光学』の分野はまだ日本企業が強いので、そういった技術やノウハウを、技術者を介して取り込み、学びたいのです」

日本人技術職は、全員が日本法人採用で、日本法人に所属し、円で給与をもらう。入れ替わりも多いが、日本法人所属の開発技術職60人ほどのうち、半数程度が日本人で、出身は、やはりカメラメーカー(ソニー、パナソニック、日本サムスン、キヤノン、ニコン、オリンパス、富士フィルム、リコー、HOYA)や人材派遣会社などからの転職が目立つという。

日本の開発部門はソニー出身者が一番多い

「日本人が、本社の製品開発で常時20~30人関わっていて、これは日本で採用した中途の技術職で、出身は元ソニーが多かったです。理由は、先に来た人が社員紹介制度で引っ張ってくるからチームごと移籍してきたり、芋づる式に増えて、10人以上は見ましたし、優秀な人が多かったです。

日本人の技術職は、コロナ前は定期的に深圳(深セン)の本社に出張し、数日滞在して、本社側の開発チームやプロジェクトマネージャーとコミュニケーションをとり、作業を日本に持ち帰ってプロジェクトを進めていました。コロナ後は隔離期間現地2週間とビザ(日本国籍パスポートでは2週間滞在できる)の都合もあり、ほとんど日本からのリモートです」

深セン本社で採用したほうが移動時間もかからず効率がよいと思うが(サムスン等は普通に本国で日本人技術者を雇用している)、この方法をとっている理由の説明は特になかったという。

「ビザの問題と技術者本人や家族の問題が大きいと考えられます。中国企業の本社勤務になるので、日本企業の現地駐在と異なり特別手当が出るわけでもなく、日本の社会保障制度からも外れてしまう。いくら中国が経済大国となり生活水準が上がったとはいえ、大方の日本人やその家族は、敢えて本社所属で現地に住みたがらない、というのが一番の理由と考えられます」

日本法人には、結果的に中国にアレルギーのない日本人か、何かしら中国と関係するバックボーンを持つ人が集まりやすい。

「たとえば、中国から日本の大学に留学して、ソニーなどの日本企業に新卒で就職してからDJIジャパンに転職してくるケース。この場合、中国籍とはいえ家族やパートナーも日本にいて、生活基盤が日本にありますから、中国人でも日本法人で採用し、日本オフィスで働きます。日本人と同様に、出張ベースで本社のプロジェクトに参加したり、日本ローカルのプロジェクトにも入ります」

「もともと、最初は『鍋蓋型』組織と言われていて、フランク・ワンCEO以外、残りは全員フラットに近いものでした。その後、社員数が増え、ファーウェイの制度を取り入れて、今のシンプルな組織に変えたそうです。開発拠点は、東京(品川)、上海、西安、そして北京にもありました。社内で、拠点ごと、個人ごとに、競争させるというのが昔から中国の皇帝のやり方だそうです」

プロジェクト単位と、拠点ごとのマネジメントラインによるマトリクス的な組織は、コンサル会社にも似ている。日本法人は、開発拠点の1つでもあるが、実態としては、CEOがいる深セン本社に、新製品の開発プロジェクトは集中しているという。

「中国人だけでやりたい」本音

開発業務においては、日本人以外に、外国籍の社員がどのくらいいるのか。

「開発は9割以上が中国人だと思います。残りが日本人と韓国人。欧米人は、あまり見たことがありません。大事な会議は中国語で行われるなど、外国人が馴染めない文化というか、入ってきても長く続かない、というのもあると思います。ITベンチャーのように多様性を重んじるというよりは、中国人中心でやりたい、というのがぶっちゃけた本音なんだと思います。スウェーデンの『ハッセルブラッド』というカメラ会社を2017年1月に買収しているので、スウェーデン人は、日本の開発メンバーと同じく、必要な時に出張で深センの本社に来ていました」

本社は、新卒採用で入社した中国人ばかり、という組織になっている。

「対外的には、アップルのようなグローバル企業のイメージで売り出していますが、内情は、思いっきりドメスティックだと感じます。私が関わったプロジェクトでは、本社開発の人たちは中国を出たことがない人が多く、普段の実務を一緒にやるのは新卒入社の20代の中国人ばかり、でした」

■多様性なき東アジア企業の強み

フランクCEOは、浙江省・杭州市の出身。地元・杭州市からほど近い、上海市にある華東師範大学を3年で中退し、約1200キロ離れた香港科学技術大学電子工学系に入学、2年制の大学院修士課程を、5年かけて修了。その在学中に起業したのがDJIで、香港科学技術大学発のベンチャーということになっている。そのためか、深セン市は広東省に位置するが、浙江省や上海出身など地元人脈も目立つという。

技術やノウハウを取り入れるため、外国人を傭兵としては使うが、本流に入れるつもりはない。あくまで中国企業として、発展したい。これはサムスンやトヨタについても言えることだが、製品はグローバル化しても、社員はローカルなまま巨大化してゆき、それが独特のカルチャーとなって他社と差別化され、強みを形成していたりする。この多様性のなさは、移民の国ではない「東アジア企業」の特徴で、移民出身者が普通に起業してCEOに就く米国GAFAとは、真逆である。

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組織:日本人より先に辞めちゃう本社の中国人技術者達

日本法人は、①日本企業が蓄積してきたノウハウを技術職(日本人・中国人)を通じて吸収すること、②中国人留学生の採用、③日本市場での販売&アフターサービス、の3つほどの目的で設置されているようだが、日本にあるからといって日本的な価値観が尊重されることはない。創業者のフランクCEOに海外留学経験はなく、ドメスティックなキャリアを持つ人物だ。

「DJIジャパンは日本法人ですが結局、会社のなかは中国なんです。中国人は郷に入っては郷に従えではなく、自分達のルールを現地に持ち込みますから。極端に言うと、中国から出たことのない中国人たちは、日本も中国の一地方くらいにしか思っていないイメージです」

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立命館大学のロボティクス学科公式サイトでも、卒業生の筆頭として紹介されている日本法人代表の吴韜(Wu, Tao)氏

日本法人の代表取締役である吴韜(Wu, Tao)氏は日本留学組で、立命館大学 理工学部ロボティクス学科 卒→大学院理工学研究科卒→オムロン技術本部5年→DJIジャパン設立とともに代表取締役就任、というキャリアだ。日本企業からの、人を介した技術移転を体現している人物、といえる。

「組織としては、その下に、開発部門のセンター長、マーケティング部門のセンター長、アフターマーケット部門のセンター長…と、各部門長がマネジメント層として配置され、その下の『リーダー』以下は全員、フラットな一般社員層となり、ランクも不明で、違いはわかりません。給料は前職プラスαだから、同じような役割で仕事をしていても、給料が高い人も低い人もいて、バラバラ。開発部門の仕事はプロジェクトベースで、日本法人と深セン本社の両方のプロジェクトに並行して関わることもあります」

この体制で、実際に、日本の技術やノウハウを、うまく吸収できているのだろうか。

「技術やノウハウは、プロジェクトを進めていくなかで、人から人に移って吸収されるわけですが、本社の中国人技術者のほうが、日本人よりも先に辞めちゃって

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DJIオリジナルジャンパー。この収納袋に入るくらいの薄地で、UVカット仕様。社員に毎年支給される。深センでは皆が知っている有名企業なのでステータスがある。

上:DJIロゴ入りの社員手帳。下:DJIロゴ入りTシャツ。いずれも毎年支給される。

ブランド・ステートメントは「THEFUTUREOFPOSSIBLE」。未来を切り拓きたい、夢を追い求めるプロジェクトに参画したい人向け。

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 2022/06/25 17:44
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