蔵囲利尻昆布だし。1年(左)、10年(真ん中)、2年(右)
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数ヶ月間、蔵で寝かせた昆布は、磯臭さや雑味が減少して美味になる。だが、利益がすぐに出ない、カビが発生するといったリスクから、「蔵囲昆布」を取り扱う業者は少ない。奥井海生堂(福井県敦賀市)の北海道利尻産の天然天日干し昆布は、温度・湿度を整えた昆布蔵で数年間も昆布を寝かせ、旨味を磨く。この昆布でとっただしは体全体で感じるような身に染みる美味しさで、京都の一流料亭も惚れ込む。18年のヴィンテージ昆布もある。
【Digest】
◇蔵で長年寝かせた蔵囲昆布
◇水の硬度で昆布だしの味が変わる
◇水は最大の調味料
◇昆布による簡単レシピ
◇天然と養殖、天日干しと機械乾燥
◇昆布とワインの共通点
◇昆布がなければ明治維新は起きなかった?
◇蔵で長年寝かせた蔵囲昆布
昆布の生産地はほとんどが北海道だ。その昔、北海道から1000キロ以上離れた昆布の最大の消費地であった関西まで運ぶのは大変なことだった。
船で運ぶには東北地方の太平洋側の荒れた海では難しいので、日本海側の静かな海を通って敦賀港などに北海道の昆布などが陸上げされた。この船を北前船という。
陸上げされた昆布などの商品は琵琶湖の北側の海津や今津に運ばれて船に乗せられ、大津や堅田を経由し、関西へ運ばれていた。江戸時代にはこのような丸子船と呼ばれる船が1400艘もあったようだ。
北海道で夏に収穫された昆布が敦賀に船で運ばれてくるのは晩秋だ。もうその頃には敦賀では雪が降り始める時期である。雪の多いこの地方では昆布などの荷物を冬期に琵琶湖まで運ぶことはその時代は不可能だった。そのため昆布は蔵で保管され冬を越して、春になり出荷されていた。
この数ヶ月間、蔵で昆布が寝かされている間に新昆布の磯臭さや雑味が減少し、美味しい昆布になったのだ。このように蔵で寝かせた昆布を
蔵囲昆布
という。昔はこの美味しい蔵囲昆布が多く出回っていたのだ。
ところが時代とともに交通機関が発達してきて、冬でも関西のみならず全国に昆布が流通するようになったので、蔵囲昆布は少なくなっていった。仕入れた昆布をすぐに売れば利益になるが、蔵で寝かしている間に利益はでない。その年の冬の気候や蔵の中の温度や湿度によってはカビが発生してしまい、商品価値がなくなってしまうリスクもあるため、蔵囲昆布を扱う昆布業者は少なくなってしまった。
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奥井海生堂(昆布/福井県敦賀市)
◆住所:福井県敦賀市神楽1-4-10
◆TEL:0770-22-0493 FAX:0770-22-6780
◆E-mail:kaiseido@konbu.co.jp
◆営業時間:9:00~18:00
◆定休日:日曜日、祝日
写真は、奥井隆社長

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その蔵囲昆布を福井県敦賀市にある奥井海生堂では今でも扱っている。それも、1年ものから一番古いもので1989年の18年ものとあり、京都などの一流料亭でも使われている。
社長の奥井隆さんは「蔵囲は利尻産の天然天日干しの昆布だけを使っています。他の種類の昆布は長年蔵囲しても、塩分が濃くなり過ぎるなどして年々味がよくなることはないです」と言っていた。
10月に私は敦賀の奥井海生堂に見学に行き、奥井社長から昆布のことをいろいろ教えてもらった。その時、奥さんの奥井光子さん(専務)から2年ものの天日干し天然利尻産昆布の蔵囲昆布だけで、約60度で約1時間煮出した昆布だしを飲ませてもらった。今まで味わったことのないような美味しさだった。
高級食材の松茸もマグロもフカヒレもカニも美味しいことは美味しい。しかし、この昆布だしは次元が違う美味しさだ。高級食材は口の中で美味しさを感じるが、この昆布だしは体全体で感じるような身にしみる美味しさだ。言葉ではとても表現できるような美味しさではないが、日本人のDNAに組み込まれているような味わいであった。
昆布のだしのとり方は鍋に水を入れて昆布を入れ、沸騰直前に昆布を引き出す方法が一般的だが、約60度で約1時間煮出す方法が一番美味しいようだ。
◇水の硬度で昆布だしの味が変わる
蔵囲の昆布をいただいて帰り、家に帰ってさっそく昆布だしをとってみた。しかし、奥井さんの奥さんに作ってもらったような美味しいだしが出なかった。やり方が悪いのかと思い、何回か挑戦してみたが旨味が薄く、美味しく出来なかった。
もしかして水の硬度の違いかと思い、調べてみると敦賀の水の硬度は約40であった。私の家では丹沢の湧水を使っているがその硬度は約80だった。水の硬度はカルシウムとマグネシウムの濃度の合計で
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硬度の違う水による昆布だしの比較。長寿水ではだしの色が琥珀色で澄み(左)、丹沢の湧水では白く濁った(右)。
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蔵囲昆布の熟成蔵(左)と天日干ししている天然利尻昆布(右)

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