Caa:不良企業
(仕事2.5、生活1.3、対価2.8)
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半期末になると、社長から「お疲れ様でした」というメールが、全社員に届く。営業のある部署では、まだ期の半分以上の売上が計上前で追い込み仕事の真っ只中だが、SE出身の黒河社長はその辺はお構いなしだ。
ただ「本日、決算の報道発表をします」といったメールをいちいち出して現場とコミュニケーションを図ろうとする姿勢は、「これまではなかったことで、変えようという意志は感じる」と社員には概ね好評である。
2003年7月に就任した黒川博昭社長は、イントラ上に自身のホームページを開き、「社員とのオープンなコミュニケーション」の実践を試みている。その一貫として、現場の声をダイレクトに聞くために、社長宛に誰もがメールを送るよう促した。
その結果、こんなことが起きた。ある社員が、自分の所属する部門の問題について、内部告発的な内容のメールを黒川社長に直接送った。黒川社長は、送り主の上司にあたる管理職にそのメールをそのまま転送し、「どうなっているのか」とやってしまった。当然、問題提起した社員の実名入りだったので、その社員は仕事がやりづらくなり、結局、この件をきっかけに他部署に異動、つまり飛ばされる結果となった。それを知らされた黒川社長は、メールの転送が、安易で軽率な行動であったことを、全社メールで謝ったという。
顧客から来たクレームも、自身のHPにどんどん載せる。その顧客の営業担当者は立場がないが、これもオープン化の一貫。社内では、これらの手法がモチベーションを上げる効果があるのか疑問の声もある。
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同社において、仕事と生活は、バランスをとるべきものとは全く考えられていない。「会社のなかに、個人の生活がある」というイメージが共有されている。個人の生活のなかに仕事がある、などと考える人は、富士通ではやっていけない。
公式には、「完全週休2日制、年間休日124日、有給休暇20日(初年度)」ということになっているが、伝統的なカルチャーは、全社的に「休みは悪」。
特に、同社の売上・利益を支える「ソフトウェア・サービス」事業のSI(システム・インテグレーション)を担当するSEは、仕事柄、休みが取りにくい。データ移行作業は、企業が休みの土日や連休に行うため、盆と正月も働くのが当り前だ。待ち時間も発生するので、年末年始に顧客先のマシン室で年賀状を書いている、といった光景も実際にある。
営業のほうが休みは取り易いが、やはり年末年始やお盆に休めないことが多い。ある営業マンは、直近の3年間、年末年始の連休がなかった。何をするのかというと、担当顧客先で休まず働くSEをねぎらうために、差し入れを持っていくのだ。それ以外には特にすることがなく時間を持て余してしまうが、セールスとデリバリーの合理的な役割分担論よりも、浪花節カルチャーが優先され、差入れは当然の慣習となっている。
連続休暇は、最大1週間まで。それを超えることは、新婚旅行でも許されない。プロジェクト期間中の日々の仕事は、「終電まで」が基本。残業は、SEの場合、部門にもよるが、実際に150時間やって、つけるのは100時間まで、といった感じである。労使間の36(サブロク)協定では一応、「3ヶ月で300時間、年間900時間まで」と決められているが、限度を超えて働く社員も多い。
3ヶ月程度のプロジェクト期間中に、3~4日、顧客先に泊まることもよくあるし、夜中でも電話で呼び出され、現場に駆けつける。とにかく、システムを正常に動かすのが使命。夜中でも平気で電話が鳴るため、「うつ病」に悩まされる人も多い。
しかし、会社としてケアする体制は十分に整っていない。「このままでは殺される」と思って休もうとすると、反抗者と見なされてしまう。上司の言うことは絶対で、「口答えするな」というカルチャー。「そんな甘い奴は現場に来なくていい」「オレもずっとそうやってきたんだ」と言われるのがオチだ。
長時間の座り仕事なので、椎間板ヘルニアになってしまうSEも多い。部長や課長のなかには、立てなくなって手術している人もいるという。それでも、入院先の病院からメールで現場に指示が来るのも当り前なのが、同社のカルチャーだ。
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年収推移
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生活を無視して「モーレツ社員」となることを義務付けるカルチャーは、営業マンでも似たり寄ったりである。
17時過ぎに顧客からの電話が鳴る。「この資料、ちょっと量が多いけど明日までに作って」。富士通の営業マンは断らない。徹夜して完成させるのが社風。客側もそのことを知った上であえて富士通に頼み、自分らはさっさと帰る。「IBMなら断るでしょう」(20代後半営業マン)。
部長が帰るまで部下も帰らない、という空気が流れており、多くの職場では、みんなで一緒に残業。たまに21時ごろに“早め”に帰ろうとすると、「非常に申し訳ない」という顔を作って帰らねばならない。
営業マンの場合、残業は平均で月に50~80時間くらいが普通。サービス残業ではなく、働いた分は原則、残業代として認められる。ある若手社員は、最高で月140時間つけた経験があるという。
いくら働いても休みの取りにくさは変わらない。有給休暇は、年に1日か2日しかとれない人が多い。取得できなかった有休を20日程度は翌年に持ち越せるが、結局消化できずに、毎年20日ずつ有休が消えていく。つまり、本来は給与を貰いながら約1ヶ月分まるまる休めるはずの日々を、まるまる働いている。
ストレスが原因でうつ病になったり、ガリガリに痩せてしまったり、皮膚病に侵されたり、といった営業マンが実際にいる。同社においては、「会社以外の人生」に対する配慮はほとんどないようである。
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勤務地は、基本的に選べない。新卒で入ると、最初の赴任地は地方と東京で半々といったところだ。東京のいわゆる有名大学卒の新人は東京に配属される傾向が強いという。最初に東京に配属になると約10年は東京のまま、というケースが多い。
転勤は、人事権を握る部長との人間関係に大きく左右されるが、地方に転勤になると出世コースから外れたと見られるため、懲罰的な意味合いが含まれることも多く、本社に帰るのは難しい。
家庭との両立という点では、女性の総合職で出産後に育児早退プランを使っている人は「あまり聞いたことがない」。現場の第一線から離れてバックオフィス系の業務に退いて育児と両立する社員はいるが、完全に戦力としては見なされなくなってしまう。第一線への復帰は難しい。
2002年1月には、全社的にフレックス勤務制度が休止されたため、個人の生活に合わせて柔軟に勤務することはますます難しくなった。業務命令として上司が「徹夜しろ」と平気で言うカルチャーなので、女性は体力に自信がないと、やっていけない。女性は新入社員の1割程度と、そもそも少ないが、こうした環境の下、5年で半分程度が辞めていくという。マネジメント層には、女性はほとんどいないのが実態だ。
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残業代はかなりつけられる(20代後半の明細) |
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対外的には非公表だが、富士通は、管理職の昨冬のボーナスを、関係会社も含めて、一律で6割もカットしている。それでも飽き足らず、
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意思決定カルチャー他 |
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