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東芝“御用労組”訴訟 最高裁での東芝敗訴が示した「社員の声を殺す」ユニオンショップ協定の闇

情報提供
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東芝・御用労組と18年間にわたって闘い続ける西氏(実名、42歳)
 経営と一体化した企業別労組は「終身雇用」「年功序列」と並び、日本的経営の特徴とされる。ユニオンショップ協定で「組合から抜けられない」状態とし、御用労組を通じて経営側の考えを社員に押し付け、働く者の権利を主張させない仕掛けだ。東芝小向工場で働く西氏(実名、42歳)は95年に東芝の御用組合「東芝労組」と決裂して以来、社内で自らの組合の存在を認めさせるため、裁判闘争を続ける。07年に最高裁で勝訴したが、いまだ東芝は対外的に東芝労組以外を認めない。また西氏による別件訴訟でも、東芝に対し県労委、中労委、地裁、高裁と4回連続で、西氏の組合への謝罪文提出が命じられたが、東芝は拒否を続ける。東芝や東芝労組、電機連合等への取材に基づき、御用組合の闇をお伝えする。(最高裁、地裁、高裁判決はPDFダウンロード可)
Digest
  • 御用組合を合法化した労組法の一文
  • 250万円の和解金と労組の二重籍で合意
  • 最高裁で東芝、東芝労組が完全敗訴
  • 県労委、中労委、地裁、高裁で謝罪文を命じられ拒否する東芝
  • 司法判断を無視した「唯一交渉約款」
  • 東芝、東芝労組、電機連合「無回答」
  • 与野党の政治家が黙認する“連合利権”

御用組合を合法化した労組法の一文

原告の西氏(実名、42歳、名前は本人の意向により伏せる)は、高校卒業後の89年に東芝に入社した。その後、一貫して同社の小向工場(神奈川県川崎市内)で勤務している。職務内容は、防衛や気象などのレーダー、無線機などの試験調整を担当した。

西氏の仕事は、いわゆる工場のライン作業ではなく、特別注文の製品を何人かで手分けしてつくるというもの。そのため、勤務時間は、フレックスタイム制で、コアタイム11時~13時45分、あとは月末までに一日平均7時間45分の勤務に達すれば、自由に勤務できた。

東芝で順風に過ごしてきた西氏だが、95年に入り、社内の労働環境に疑問を抱くようになった。

フレックスの労働時間の算定が、30分単位になっていることを知ったのだ。これでは29分以下の労働時間は切り捨てられてしまう。

さらに、西氏は、作業着の着替えの時間が、勤務時間外であることに疑問をもった。次の判例を知ったためだ。ちょうどこの年、三菱重工長崎造船所で、従業員の着替えや安全具の着用時間を、会社側が労働時間外としている事に対し、従業員が賃金の支払いを求めた裁判の福岡高裁判決があり、「着用時間は労働時間に含まれる」という判決が下ったのである(その後、最高裁で確定

この二つの疑問点を、西氏は職場の上司に言った。だが、改善されなかった。

そこで、所属する東芝労組の小向支部に質問状を出した。すると、「話を聞きたい」ということになり、東芝労組の専従の執行委員長や書記長と会った。西氏は、疑問点を会社に訴えても会社側が何も対応してくれないことを説明した。

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東芝小向工場・研究開発センター。川崎市HPより

すると翌日、西氏は小向工場の勤労担当者に呼ばれ、こう言われた。

「何の不満を持っているのか?」

西氏は説明したが、その担当者は、例えば作業着について、こう言ったという。

「勤務時間中に着替えるとすれば、他の人が作業している時に、作業していないことになるので、処分する」

前述の福岡高裁判決が出ているのに、処分するというのはおかしい。そう思った西氏は、もう一度、東芝労組に相談した。すると、こう言われた。

「会社は、間違ったことは、していない」

労組と会社の一体化ぶりに失望した西氏は、「この労組にいても、しょうがない」と思い、脱退し、近所にあった全国一般労働組合全国協議会神奈川(以下、神奈川地連)に加入した。

すると東芝労組は、西氏の脱退届を受理ぜす、西氏に対し、脱退を思いとどまるよう、説得しはじめた。

また、西氏は、会社に対し、団交を申し入れたが、会社側は、東芝労組が西氏の脱会届を受理していないことを理由に、団交に応じなかった。

東芝労組が西氏を引きとめたのは、なぜか――。それは、「ユニオンショップ協定」という、“法の抜け穴”によるものだ。

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上の赤線部が労組法でユニオンショップを合法化している箇所。下は電機連合HP。ユニオンショップについて説明している

ユニオンショップ協定とは、会社が指定する労組に加入することを、雇用条件とすることをいう。

要するに、東芝労組に入らなければ、東芝に採用されない、という協定である。

だが、前記のように、東芝労組と東芝は一体化している。そんな御用組合に入ることを余儀なくされた社員は、結果的に、「団結権、団体交渉権、団体行動権」を、事実上、奪われてしまうことになる。

しかし、ユニオンショップ協定は、法律に基づいている。

労働組合法第七条には、「使用者は次の行為をしてはならない」として、労働組合への加入・結成、組合活動を理由に、解雇又は不利益な取扱いをすること、又は労働組合に加入しない、もしくは労働組合を脱退することを雇用条件とすること、と規定しながらも、最後に、次の一文を付け加えている。

 「ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。」(同法第七条第一号より)

この一文を根拠に、ユニオンショップ協定をつくり、御用組合を組織している会社は多い。東芝をはじめ日立、三菱電機、富士電機、パナソニック、富士通、NEC、OKI、ルネサスなどが加盟する、連合系の組織「電機連合」の中で、社内に複数の労組のある組織は一つもない、と西氏はいう。

「とくに東芝小向工場の労組の書記長や委員長は、電機連合の幹部になるケースが多い。そのプライドのせいなのか何なのかわからないが、当時、東芝労組を脱退することを、必死で止められました」(西氏)

250万円の和解金と労組の二重籍で合意

その後、西氏は、東芝が団交に応じないのは、不当労働行為に当たると主張し、救済命令を、神奈川県労働委員会に申し立てた。

さらに、川崎南労働基準監督署に対し、30分単位の労働時間の算定によるサービス残業の実態を、告発した。

翌08年2月、同労基署は、東芝小向工場に対し、是正を求める勧告を出した。これによる残業代の支給対象は、東芝内で5万人に達した。そのことがマスメディアでも報じられた。

この是正指導のためか、同年5月、東芝が全面降伏の形で、東芝と神奈川地連は和解した。和解内容は

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一次~三次訴訟に大別した「東芝“御用労組”訴訟年表」

最高裁判決文。東芝、東芝労組の完全敗訴だった

上は、東芝の直近の有価証券報告書(2011年4月1日~2012年3月31日)の18ページ目。東芝労組以外を認めていないことを示している。下は昨年10月の東京高裁判決後に作成したビラ

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読者コメント

2015/08/08 10:07
鶴岡宏2015/08/06 22:52
岳昭2015/07/21 22:29
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