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三井住友海上の不正鑑定疑惑 社員がコンプライアンス求め内部告発→左遷・パワハラ→定年後に提訴

情報提供
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今から四半世紀前に内部告発して以来、定年まで社内の不正を告発し続けた西野大翔氏(61歳、仮名)。都内にて撮影
 三井住友海上火災保険の元社員・西野大翔氏(61歳、仮名)は、今から四半世紀前、まだコンプライアンスという言葉も使われない時代に、常習で杜撰な査定をする鑑定人が自社に損害を与えていると問題提起。しかし会社は事なかれ主義の対応に終始し、その鑑定人との取引を改めない。そこで西野氏は同業他社の株主となり、株主総会を利用して、各社が共同保険で莫大な損害を被る点を指摘するなど、不正の告発を始めた。これに対し会社は、左遷・最低の人事考課・万年昇進なし・仕事取り上げ・監視・暴行といった仕打ちで報いた。西野氏は定年退職した昨年、会社を相手取り、計5749万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴。「悪質な鑑定人の存在を証明し、世間に知らしめたい」という西野氏に、同社の社風も見えてくる本事件の全容を聞いた。(訴状、第一準備書面はPDFダウンロード可)
Digest
  • 傍若無人なデタラメ鑑定人との出会い
  • 告発した途端、四国へ異動「お前を抹殺してやる」上司
  • 同業者の株主総会で告発→「定員外社員」→万年最低評価
  • 監視、暴行、仕事取り上げ…パワハラの日々
  • 「回答は控える」三井住友海上火災保険、「無回答」三和鑑定

傍若無人なデタラメ鑑定人との出会い

原告の西野大翔氏(61歳、仮名)は、1975年に首都圏の国立大学の工学部を卒業後、三井系列の大正海上火災保険(現在の三井住友海上火災保険)に入社した。配属部署は本社損害調査部・火災課だった。

もともと火災保険会社を希望していた西野氏は、使命感をもって働いていた。そんな西野氏は88年4月、大阪の関西損害調査部・火災新種1課に課長代理として赴任。そこで、異様な風景を目の当たりにした。

取引業者である三和鑑定の鐘ヶ江という鑑定人が、机付きで社内に常駐しており、若手社員に傲慢な態度で威張り散らしたり、名前を呼び捨てにしたり、時々頭をひっぱたいたりしていたのだ。

そもそも鑑定人とは、損害保険会社から委託を受けて、損害保険に関わる財物(建物・家財等)の損害額算定、事故原因の調査などを行うのが仕事だ。いわば保険会社にとって、鑑定業者は下請けの立場。本来なら鑑定人の鐘ヶ江氏は、保険会社と対等か、むしろ腰が低い立場なのだが、傍若無人に振舞っていた。

さらに、唖然とする事態に遭遇した。

西野氏が大阪に転勤して数か月後、山陰地方で洪水があり、東芝系列の企業の倉庫の電化製品が水漏れ事故に遭い、数千万円の被害を出した。その査定のため、西野氏は、鐘ヶ江鑑定人と一緒に事故現場に行った。

通常、鑑定人は、事故現場では、現場の図面を書き、どこがどんな損害を受けたのか、査定していく。しかし、鐘ヶ江鑑定人は、図面も書かず、手を後ろ手に組み、ぶらぶらと現場を歩きまわるだけだった。

後日、鐘ヶ江鑑定人が提出した鑑定書は、保険契約者の東芝系企業が出した修理見積書や損害明細書を、丸写ししただけのものだった。

しかもその鑑定書をよく見ると、水漏れした商品の損害額は、小売価格で算定されていた。この東芝系の企業は小売店に卸す問屋なので、仕入価格で算定する必要があるにもかかわらずだ。

そこで西野氏は、再度調査するよう言った。すると鐘ヶ江鑑定人は、「こんなもんだ」と言うばかりだった。最終的には、顧客から「保険金が高すぎるのではないか」と指摘され、鐘ヶ江氏は鑑定書を改めていたという。

告発した途端、四国へ異動「お前を抹殺してやる」上司

さらに同年6月14日には、栃木県矢板市のシャープの工場で、雹(ひょう)により被害額10億円の水漏れ事故が発生した。こうした保険金額の大きい契約は経営に影響を及ぼすため、複数の保険会社が分担する「共同保険」の形をとるケースが多い。

このシャープの事故も共同保険で、大正火災保険が幹事社になっていたため、西野氏と鐘ヶ江氏が、損害調査に赴いた。そのとき、現地で、共同保険会社の1つ安田火災(現在の損保ジャパン)の担当者と会った際、西野氏はこう言われた。

「鑑定人が鐘ヶ江鑑定人だとしたら、当社は鑑定料を分担しないかもしれない」

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上司に提出した告発書

この発言は、要するに、幹事社が不適切な査定をしそうなので、自社の引き受け分は独自に損害調査をする、という意味だ。

通常、共同保険は、幹事社が代表して損害調査をするので、このようなことは言わない。つまり、こんな言葉が出てくるくらいに、鐘ヶ江鑑定人のずさんな仕事ぶりに対する不信は、業界内に広く浸透していた。

その後も、損害額の大きな事故になると、必ずといっていいほど鐘ヶ江鑑定人に発注が集中した。少額事故の場合は、どの鑑定人を依頼するかは担当者が決めていたが、大型事故が起きると、決まって上司が鐘ヶ江氏を指定したためだ。

鐘ヶ江鑑定人の目に余る所行をみて、西野氏は、これ以上看過できない、と考えるようになっていった。

「もともと損害保険業は、事故に遭った被災者の生活の安定に寄与することが、社会的使命です。そのため、保険業法には、健全で公平な運営をするよう定められています。このような準公益的な仕事なのに、鐘ヶ江氏は、ずさんな査定によって高額な保険金を支払わせて、会社に損害を与えています。私は会社の利益を守るべく、告発に踏み切りました」(西野氏)

西野氏は、鐘ヶ江氏の不正をなんとかしてほしい、と上司に訴えた。

すると、直接の上司だった久保田課長は、こう罵倒したという。

「お前を査定部門から抹殺してやる」「一生昇進できないようにしてやる」

本社の損害調査部門の管理職に電話すると、こう言われた。

「お前は組織と組織の付き合いというものを知らない」

そこで西野氏は90年10月ごろ、損害調査部の高品部長、高田副部長に対し、意見書(左記画像)を提出して改善を訴えた。その後、高品部長が、三和鑑定事務所と協議をした。しかし、結局、「これからもお互い協力し合って一緒にやっていきましょう」ということになり、現状維持となったという。

91年2月末、西野氏は、四国損害調査部・火災新種課(香川県高松市)に異動が決まった。異動発表の後、西野氏は高品部長に別室に呼ばれ、こう告げられたという。

「君を守ってやりたかったが、本社の意向に逆らうことはできなかった」

同業者の株主総会で告発→「定員外社員」→万年最低評価

高松市に赴任後、西野氏は93年4月1日付で、今度は、本社の東京損害調査部・火災新種課の課長代理に任命された。

そして94年に入り、西野氏は、複数の同業他社の株主となり、株主の権利を行使して、各社に対し、鐘ヶ江鑑定人の杜撰な仕事により、各保険会社も共同保険で莫大な損害を被ることがある点を指摘した質問状を送付し始めた。

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株主の立場で同業他社に送付した告発書。タイトルは「悪質鑑定人業務依頼の差止請求の要求」

すると95年春に、西野氏は仲山課長に呼ばれて、こう聞かれたという

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三井住友海上火災保険本社(〒104-8252東京都中央区新川2-27-2)

訴状。全文は記事末尾からダウンロード可

三井住友海上のCM(同社HPより)

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ysync2013/06/26 11:12

ただ単にいい加減なだけなのか?保険多く払って鑑定人個人にメリットあるんだろうか?出た保険金が上層部の特定の個人に還元される仕組みが会社自体にあったんかね?

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