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アメリカン・エクスプレス、法人向けに全集中「営業先が変わり、必要スキルも変わりました」

情報提供
サムネ本人写真
率直に実情を語るインタビュイー(元社員)

シティグループ(ダイナースブランド)の撤退で、国内唯一の外資系カード発行会社となったアメリカン・エクスプレス(アメックス)。社員数は日本で計2千人余りいる。コロナ禍で個人向け営業部門を廃止してPIPによる人員削減を断行、法人向け営業部門に丸ごと吸収するという大胆な戦略転換を進めた。その結果、必要とされる人材のスキルセットも変化し、働く環境も変わったという。アメリカン・エクスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに30代で入社し、最近まで10年超にわたって勤務した元社員(退職時はマネージャー職)に、じっくり聞いた。

Digest
  • まだ20年余り…高いステータス感売りに拡大
  • 空港、紹介、コストコで拡大
  • 「ポイント=資産や収入」というグレーゾーン
  • 「業務上横領」「脱税」になりうるリスク
  • 卸会社にAMEX加盟店になってもらう
  • 組織再編で空港・コストコ・リファラル→法人営業に
  • 短時間勝負「マシーンタイプ営業」は不要に
  • TL以上から英語力必要、マネージャ以下は不要
  • 「AMEXPO」「社内公募」…社内転職奨励も実績は少数
  • プルデンシャルとアメックスの違い

American Expressのカードを作りませんか――。空港でよく見かけた勧誘部隊であるが、最近はすっかり見なくなった。

「個人向けの対面営業部隊は、私も在籍していましたが、コロナ禍の2021年に組織ごと廃止になって、法人向け営業のGCS (Global Corporate Services)という組織に吸収されました。コロナによって空港で不特定多数に接触できなくなったのと、あまりに法人向け営業が成功したからです」(元社員、以下同)

もともとグローバルでは、法人だけを相手にしてきたのがアメックスで、個人向け営業は、世界中で、日本含む数か国でしかやっていない、レアな戦略だった。だが、個人を攻める営業戦略が順調だったため、コロナ禍まで続いていた。

まだ20年余り…高いステータス感売りに拡大

アメックスが日本で本格的に展開を始めたのは、2000年に国産カードブランドJCBと提携してからだ。JCBが使える店で、ほぼAMEXも使えるようになり、日本国内で利用できる店が一気に増えた。JCBのほうは、海外でアメックスの加盟店ネットワークに頼りたかったので、提携関係が成立した。

カードブランド(グローバル決済ネットワーク)=AMEX,JCB、VISA、MASTER、Diners。

アクワイアラー(加盟店管理)=JCB、三井住友カード、三菱UFJニコス、クレディセゾン、UCカード…。

イシュアー(カード発行会社)=AMEX、三井住友、楽天、オリコ、クレディセゾン、JCB、UC…。

※この、人海戦術で膨大な数の小売店と契約しなければならない「アクワイアラー」業務(近年ではPayPayのローラー営業が記憶に新しい)で、JCBとAMEXが2000年に提携したことで、日本国内でもAMEXを使える店が増えた。

※顧客対応を行うコールセンターは、イシュアー(カード発行会社)が運営しているため、その対応品質はイシュアーによって異なる。

「まだ日本で本格展開して20年余り。もともと、社内では『ブランドを作り上げる』をキーワードに、年会費をちゃんと貰って、メンバーシップ制のプレミア感と高いステータス感を売りに参入し、利用者を増やしてきた歴史があります。わかりやすくいうと、ヴィトンやBMWが好きな層が、ターゲット顧客でした」

アメックス法人カード
American Expressビジネス・カードのラインナップ

したがって、個人向けプラチナカードが年会費13万円もする。ゴールドカードでも約3万円と、業界でもっとも高額。発行元(イシュアー)がアメックスのオリジナルカード(非提携)は、無料では使わせず、最低7千円以上の年会費をとる。そして、料金に見合ったサービス体制を作り、顧客接点であるコールセンターも外部委託せず、自社で訓練した直接雇用の正社員だけで対応する。

「旅先で、飛行機が欠航になるなどトラブルになったときの対応など、コールセンターで働いている人たちは、本当に真面目に、お客さんのことを考えて動きます。プラチナ担当チーム、トラベル担当チームなどの専門で分かれ、贈答の相談があれば『バラの花100本』など要望に応じて手配します。ようは、JTBのハイクオリティー版。リアル店舗はないけれど、コンシェルジュが電話で対応します」

たとえば、国内最大手の三井住友カードは、コストカットの結果、ろくに電話がつながらなくなり、挙句、コロナ禍でコールセンターを「予約制」に移行。即時対応をやめてしまった。その代わり、年会費無料のカードを連発する。安かろう悪かろうで、AMEXとは真逆のポジショニングをとっている。

「顧客が、他社と比べて高所得・高資産層で優良。だから、顧客のなかに別荘を買いたいという人が一定数いて、『ヒルトングランドバケーション』とタッグを組んでいるのも、そういう共通点があるからです。現在では、カード利用が普及した時代の変化に合わせて、プレミアムサービスというよりも、『日々の仕事や生活のバックアップをさせていただきます』というかんじになりました。楽天やセゾンなど、年会費無料の『提携カード』も増えました。ただ、AMEXのコールセンターは、プロパーカードの会員向けで、楽天AMEXなど提携カード利用者は対象外です」

空港、紹介、コストコで拡大

カードを利用すると、原則100円につき1ポイントが貯まる。このポイントを航空会社のマイルに移行すると、特典航空券と引き換えられる。そのメリットを訴求しやすいため、会員獲得の勧誘活動は、空港が第一の主戦場だった。第二の入り口が、既存会員を介して紹介してもらうリファラル営業。そして第三が、1999年に日本参入した小売業コストコ。

コストコはボリュームディスカウント業態の低価格路線なので、高級志向のAMEXとは一見、顧客層が異なる。一方で、会員制のアメリカ企業という点ではシナジーがあった。「クレジット決済はAMEXのみ利用可」とし、入り口でAMEXの勧誘が行われるなど、提携関係にあった。両社の提携はグローバル規模のもので、米国では独占契約が2016年まで16年間、続いた。

「コストコの社長とアメックスの社長が、仲が良いから、と社内では言われていました。今は提携関係が解消されています」

アメックスの入会特典として、4千円のコストコクーポン(買い物券)が貰え、2~4年目にかけて毎年5千円分のクーポン付与などをエサに、コストコの入り口で熱烈勧誘していたが、2018年1月31日で終了。逆に現在では、コストコで利用できるカードブランドはMastercardのみとなり、AMEXで決済できなくなった。さんざんコストコの店頭で勧誘しておきながら、戦略が変わると突然、使えなくするあたり、外資らしさがでている。

「ポイント=資産や収入」というグレーゾーン

そういった経緯のなかで、コロナ禍に突入し、大きな転換点を迎えた。人通りがあるところにブースを置いて勧誘する、という営業活動が、感染防止の観点から禁じられ、仕事ができなくなった。

一方で、以前から細々と続けていた法人向け(B to B)の営業が、うまく回りだしていた。

「この数年で、法人カードをいかに使ってもらうか、という戦略に転換しました。B to B部門で、歯科医・獣医をターゲットにした営業が大成功したんです。たとえば歯科医や獣医が経営する医療法人が医療機器を買うと、単価が数千万円になることもあります。毎月の消耗品も、数百万円という額。これらが、現金や口座振込みでした。それを全てカード決済してもらう提案をして決済額を増やし、アメックスの手数料収入を増やそうとしています。ポイントがつきますから、経営者の側にも、明確なメリットがあります」

この提案の本質は、オーナー経営者である医師がアメックスカードで決済した際に付与されるポイントが、実質的に医師個人のものになる点にある。これは、実に大きなインセンティブだ。カード払いで付与された莫大なポイントは、そのまま医師の小遣いになったり、

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