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アメリカで働く(2) 私がニューヨークで社員デザイナー職に就くまでにしたこと

情報提供
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ニューヨーク・マンハッタンのミッドタウン地区オフィス街にて
 ファッションデザイナーといえば、多くの人が憧れる職業の1つである。日本のアート系大学出身者は、ニューヨーク(NY)の厳しいビジネスシーンでいかに職を得て、生き延び、稼げているのか。「アメリカへの日本人留学生数は年々減少傾向にあるそうですが、主な理由は、夢がわからない、海外に出てリスクをとりたくない、という若い人達が増えてるからではないでしょうか。そういった迷える若い人たちが進路を考えるサンプルになれたらよいな、と思っています」――自身も迷える学生だったASUKAさん(30歳)に、京都の田舎にある芸大を2008年に卒業してから、NY州立ファッション工科大を経て、2013年にNYでデザイナーのポジションを得るに至った奮闘の手記を寄せてもらった。  
Digest
  • ファッショングラフィックアーティストとは
  • アーティストビザを取得
  • 上層部の入れ替わりに翻弄され…
  • デザイナーの業務プロセス
  • 商業デザインのジレンマ
  • NY社員デザイナーの給料相場と給与交渉
  • 入社1年以内で、年俸2万ドル以上の昇給
  • 京都市立芸大で、デザインへの方向転換を決意
  • TOEFL専門クラス→NY州立ファッション工科大へ
  • NYで、親の支援も打ち切られ「苦学生」に
  • 日本を離れて思うこと
  • 今後の目標として

ファッショングラフィックアーティストとは

私は現在、「ファッショングラフィックアーティスト」という職種で、米系のアパレル会社『A.V. Denim LLC』に勤務して、約1年半となります。ファッショングラフィックアーティストとは、PC上で、コンピュータソフトウェアを用いて、ファッションアイテムのデザインと仕様書を、デジタル情報として作成するポジションのことをいい、グラフィックデザインの経験がある人間が望ましい、とされています。

※A.V. Denim LLC=本社・ニューヨーク。北米、西欧、アジア市場に向け、主に「Vigoss」「Driftwood」というレーベルでジーンズ、ジャケット、ベスト、シャツ、ニット、Tシャツなどのデニムを製作、販売。社長はユダヤ系アメリカ人起業家のDavid(30代)で売上高は約3千万ドル。

私のメインの仕事は、ブランドの特徴でもある、エンブロイダリー(刺繍)と、刺繍に石やメタルなどを加えたエンベリッシュのデザインです。その他、バイヤーやカスタマー向けの、e-mailのデザインやバナー、スタイルシートなどもデザインします。

ほかに、時計や商品に付けるタグやブランドのロゴのデザイン、ボタンなどハードウェアのデザインも手がけています。また、会社のウェブサイトのフロントデザインも担当しました。デザインの対象は、このように幅広いです。

製造工程にも関わります。米国と中国の、支社および工場を行き来し、商品デザインの修正と、製造工程の管理も担当しています。基本的に、デニム一本に対して一人でデザインを担当しますが、例えばビンテージスタイルのジャケットなど、構造が複雑なものは役割分担し、チームでデザインに当たります。

アーティストビザを取得

この仕事に就くには、通常、アートやデザイン分野での学位が必要です。そのほか、技術力を証明するための、完成度の高い学歴・職歴のポートフォリオは、できるだけ多く用意します。私の場合は、アーティストビザ(O-1:特殊技能保持者ビザ)を取得してから、就職活動に臨みました。

今の会社の採用面接では、事前に2時間ほどの刺繍のデザインの課題が与えられ、2時間内でやり遂げる、というものがありました。テストで提出したデザインは、実際に商品として使われることになり、すぐに採用していただくことになりました。

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週極の給料明細。給料は「ペイチェック」という小切手で、税金諸々を差し引いた額が、週ごとに支払われる。

まずプロジェクト単位で仕事をし、その後、フルタイム社員として雇用されました。ファッション業界は働きたいと願う人も多く競争率の高い職場です。

この仕事をしていく上では、まず技術ありきで、その上に創造性やチームとのコミュニケーション力も大切です。ビジネスレベルの英語力は絶対に必要です。

給料は、経歴や、面接での評価によって、初任給の額も人によって大きく異なります。相場や、年俸交渉、その準備についての詳細は後述のとおりですが、現在の私は、まだ業界全体からみれば高給取りとはいえません(左記参照)。

上層部の入れ替わりに翻弄され…

入社当初は、本当に大変な思いをしました。当時のディレクターがかなりのくせ者で、社長や他部門のディレクターとのディレクション(デザインの方向性、今期はどんなものを出すか)についての論争が絶えませんでした。

結果、各部門の上役が競い合うように入れ替わり立ち代わり、デザイナー達に自分の言う事をやらせようとして、毎日、方向性が変わるような混乱が日常となっており、それがピークに達した頃に入社したのです。従って、しばらくはその荒波に翻弄されることになりました。

日本の企業では考えにくいかもしれませんが、それが日々、普通に起きていました。今日の指示に従って作ったデザインが、2日後に、もともとの指示を出してきた同じ人間に破り捨てられ、罵倒される、ということも何度もありました。

そのうえ、メインの3ブランドに加えて、他部門(メンズ、時計、マーケティング)の刷新により、これら3部門の仕事も同時にこなさなければいけない状況で、毎日の帰宅は深夜近く。このディレクターは数ヶ月のちに解雇されることになりましたが、今思えば、私が入社したのは嵐と地殻変動のまっただ中だったようで、精神的にずいぶんとタフになり、時間管理の方法や方向性変更の際の柔軟な対応も身に付いたと思っています。

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オフィス内のショールーム(Vigoss レーベル)

一年以上経った今では、だいぶ社内も安定し、自分の裁量で動けるようになるほど立場も固まってきたので、仕事の自由度は格段に上がり、上からのディレクションもクリアになりました。

デザイナーといえど、社員デザイナーの場合、結局は上層部の混乱といった“嵐”の中でどう現場の舵をとるかの判断力や、チームを動かす人間力、そして物事が計画通りにいかない中での忍耐力が問われることを痛感しました。

デザイナーの業務プロセス

この1年半で手がけたデザインは300点以上になり、使用ソフトウェアはイラストレータとPhotoshopで、2Dのデザインを作成します。デザイナーたちは普段、NY本社でデジタル制作されたデザインを、中国の支社と工場へ、オンラインで送信し、まずは刺繍と装飾部分のみのサンプルを、スキャンイメージをメールまたは郵送で受け取り、それらをもってミーティングし、商品サンプル化するか否かを判断します。

サンプル化が決定したデザインの仕様書を、現地の生産管理の担当にメールで報告し、最終的な全体のサンプルを仕上げるという行程を、各デザイナー達がそれぞれ受け持っています。

一日のスケージュールは、9時ごろ出社、10時ごろ小ミーティング、13時ごろに1時間のランチタイム、15時ごろにミーティング、18時に業務終了、が基本です。18時に帰れる日もあれば22時くらいまでリサーチをやる日もあります。有給休暇は、1年目は1週間、2年目からは2週間です。

商業デザインのジレンマ

仕事をする上で私が常に心がけていることは、プロフェショナルでいること。常に高い集中力を維持し、最高水準のアウトプットを継続すること。会社に雇われている以上、自分のデザインは会社のアセットだと自覚すること。自分のデザインについて精神的に執着しすぎないこと。世の中のトレンドを意識して常にインプットを欠かさないこと。トレンドをつかんだ上で自社(ブランド)のカラーと少し“自分”を上手に出すこと。

私は社員デザイナーですので、勤めている限り、会社を儲けさせるデザインを生みださなければ意味がないとも思っています。本来、クリエイティブな人種がなるはずのデザイナーですが、 大量生産に向けた商業デザインにおいては、自分の自由なクリエイティビティーを出す場が制限され、こんなはずではなかった、というジレンマに陥ることは、商業デザイナーなら誰でもあるのではないかと思います。

ですので、そういうプロジェクトの場合、仕事は仕事、として割り切るようにしています。ファッションというのはどうしても嗜好品のカテゴリに大きく属するものなので、ジュエリーのように、身につけた人が特別な気分になれるようなものを生み出すよう、心がけています。

NY社員デザイナーの給料相場と給与交渉

給料の額は、その人が面接でどう評価されるのか、で初任給の額が決まるため、人によって異なります。企業規模によってばらつきがありますが、NYのファッション業界の支給額は、平均的な初任給で、

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  2015/04/05 16:35
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