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日経BP「中高年切り」を現役社員が内部告発 賃金10%以上を一方的に引き下げ、労基法無視

情報提供
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東京・白金高輪にある日経BPの本社。(撮影=筆者)
 日本経済新聞社傘下の出版社・日経BPで、中高年社員を標的とした労働条件の強引な不利益変更が断行されていることが分かった。現役社員が「目的は人件費削減。違法な不利益変更で中高年社員を狙い撃ちしている」と内部告発に踏み切った。同社は2014年7月、会社側が一方的に振り分ける職務に応じて、「E職」と呼ばれる53歳以上の一般社員の処遇を変えられる制度を導入。結果、仕事内容は以前と同じなのに突然10%以上も減給となる例が続出した。労働問題に詳しい弁護士は「労働条件の変更は個々の労働者本人の同意を得るのがあくまで原則」と指摘。社員・組合との交渉を経ず、就業規則への記載もないままでの一方的な不利益変更は、極めて違法性が高い。転職が難しい53歳以上の社員の足下を見るような手口に、数年後に全社員の2~3割が53歳以上となる高齢化を前にベテラン社員の給料をカットし、あわよくば退職に追い込みたい同社の苦しい内部事情が見えてきた。
Digest
  • 2009年にバブル期入社組68人をリストラ
  • 53歳以上の人事制度運用を変更
  • 月給の1割を一方的にカット
  • どの「職務」になるかは人事労務委員会しだい
  • 労働基準法の禁じる不利益変更に該当
  • 「Eの制度運用は会社の専権事項」とは?

2009年にバブル期入社組68人をリストラ

本サイト2010年4月の記事が報じたとおり、日経BPは2009年末、「40歳以上58歳未満」の社員を対象に希望退職者を募集、68人が応募し会社を去った。

社員の年齢構成がバブル期採用組に極端に偏っていた同社では、当時の全社員922人のうち667人が「40歳以上58歳未満」に該当するなど、高齢化が急速に進んでいたのである。

だがそれから5年が経った同社では、中高年社員に対する、さらに過酷なリストラが進行していた。

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日経BP社員のキャリアパスを図式化した概念図。表中の「S1」「S2」「S3」は2012年7月に「S」に一本化された

53歳以上の人事制度運用を変更

同社では専門性の高い一部社員を除き、一般社員(組合に加入する非管理職)の大半が「S」という職制にカテゴライズされる。新入社員は「S0」(エスゼロ)からスタートし、出世競争に勝ち抜いた者が管理職(Manager)を意味する「M」職となるのだ。

M職にはならず、Sのまま53歳を迎えた社員の場合、今度は専任職(Expert)を意味する「E」にカテゴライズされる。

筆者が入手した日経BPの内部資料「人事制度の手引き」には、同社がE職に求める以下の3つの要素が挙げられている。

(1)「ベテランらしい経験と専門知識を生かし、上司の補佐役として主体的に有益なソリューションを提供する人材」

(2)「自らの知識と技能を組織、後継者に伝承し、積極的に後進を育成する人材」

(3)「培ってきた人脈、経験を生かし、自らの力で組織、事業、媒体に貢献する人材」

とはいえ従来の同社では、E職は「非管理職のベテラン社員」という以上の意味合いがさほどなく、S職が53歳を過ぎてEに移行しても、待遇が大きく変わるわけでもなかった。あるS社員の52歳時点の月給が仮に50万円だった場合、Eになってからの月給も基本的には維持されてきたのである。

ところが2014年5月15日、これまでとは全く異なるE職の運用方針が発表され、同年7月1日、スタートした。

具体的には、社員の担当する業務を大きくは「編集・コンサルティング職」「営業・マーケティング職」「共通・技術職」の3職種に分類。さらにこれら3職種を、「各部局でマネジメントの補佐役を担う職務」「現場の中核として力を発揮する職務」「現場の支援もしくは補助を行う職務」の3つに細分化した。E職社員の賃金は、その社員の「職務」が9種類のうちどれに該当するかで変わる仕組みにしたのである。

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日経BP社員に配布された、「新E」制度と賃金レンジ(幅)の関係図。会社側から「編集補助」「営業補助・管理」「定型業務」などの「職務」に分類されると、仕事内容が以前と変わらなくても賃金が下がってしまう仕組み。

月給の1割を一方的にカット

前掲資料では、日経BPがE職の運用を変更する目的は、次のように説明されている。

 「ベテラン社員の経験と知見をさらに活用するために、E(専任職)は職務の内容に応じて処遇を定める運用に変更します。最大の狙いは、ベテラン社員の経験と知見が最も生きる職務を一人ひとり明確に定義することで、個々人が目指すべき方向性を明示して、E全体としてのさらなる活性化を図るとともに、職務の内容に応じてメリハリをつけていく点にあります」

また同社が社員に配布した別の資料には、「全職務を通した賃金レンジの上限・下限は現在と同じ」(後述)であることを理由に、E制度の運用変更以後も「総人件費は現行の運用を続けた場合と変わらない」と書かれている。

だが、今回、日経BPによる不利益変更を告発した同社の現役社員・木下匡さん(仮名)は、「会社は決して認めないでしょうが、本当の狙いは結局のところ、人件費削減だと思います」と言う。

たしかに資料にもあったように、新制度ではE職全体の月給の上限は93万7,500円、下限は43万7,500円(ともにみなし残業手当を含む)とされており、これ自体は、従来と変わらない。

だが、新制度で区分けされた3つの職種における、「現場の支援もしくは補助を行う職務」に割り振られた場合は、月給の上限が劇的に抑え込まれ、

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日経BP労働組合が組合員を対象に行なったアンケート調査では、E職社員の約2割が減給となる「補助業務」に割り当てられている。

新E制度導入に際して、日経BPが労組との交渉を拒否したと明記されている同組合の文書

2015年5月14日付「日経BP労働組合NEWS」。社内の人員構成を尋ねた組合に対し、会社側は「Eは97人」と回答し、「3~4年経つとEが200人を超え」るとも述べている。

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2015/06/16 18:28
2015/06/08 08:00
  2015/06/03 23:05
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