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トヨタ正社員が実名で語る組織的労災隠し(4) 知人が豊田章男社長らを刑事告発、最終的に労災を勝ち取った!

情報提供
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(上)作業中に右膝を負傷したときの診断書。(下)労災保険を使うなと再三にわたり上司から圧力をかけられ鬱状態にされたことを示す診断書。
 トヨタ自動車に勤務する正社員・染谷大介氏(36歳、堤工場勤務)は2014年11 月、自身が経験した会社の執拗な「労災隠し」に憤慨し、本サイトでの実名告発に踏み切った。その内容は、作業中に膝をケガして治療したところ、上司が病院窓口まで出かけて労災を健保に変えようとしたり上司5人が個室に染谷氏を呼び労災申請を取り下げるよう圧力をかけた、というもの。事実の公表に対し管理職は「情報を漏えいしたのか」と染谷氏を問い詰め、15年3月17日には「注意書」まで発し、懲戒処分をちらつかせた。それにも屈せず同年6月19日、豊田労基署宛に「労働安全衛生違反申告書」を提出、8月後半には労災支給が決定した。続いて9月5日、染谷氏の知人が豊田区検察庁に、豊田章男社長と会社を刑事告発。結局、トヨタは10月1日に傷病見舞金を染谷氏に支払った。巨大企業による理不尽な労災隠しに対し、録音等で証拠を押さえ、現役社員が一人で立ち上がって勝利するまでのプロセスを詳細に報告する。
Digest
  • 「会話を録音してるよね……」と課長
  • 「これがトヨタのルールだ」トヨタ労災隠しのてん末
  • ICレコーダー持ち込み禁止、カメラ禁止
  • 救急車でトヨタ記念病院へ「過換気症候群」と診断
  • 機密管理違反だと「注意書」を読み上げ渡される。 
  • 第一弾は豊田労基署へ「労働安全衛生法違反申告」
  • 豊田区検察庁にトヨタと豊田章男社長を告発

「会話を録音してるよね……」と課長

2014年8月1日、台車で部品を運ぶ作業中にビキッと膝に痛みがはしり、トヨタ堤工場で働く社員・染谷大介氏は負傷し、右膝外側々副靭帯損傷と診断された。

職場で就業中に怪我をしたのだから労働災害保険適用が当たり前。しかし、「トヨタにはルールがある」として会社は社員の労災申請を阻んできた。結局は労基署が労働災害と認め支給し、会社もそれに従わざるを得なかったのは当然である。

その「当然のこと」が実現するまでに事故発生から1年以上経過した。そのプロセスを振り返ってみたい。

トヨタ堤工場の社員・染谷大介氏がトヨタの労災隠しの実態をマイニュースジャパンに対し、実名で告発したのが2014年11月19日3回目の記事が出たのが14年12月26日だった。しかし、それ以降も仕事現場では特に大きな変化はなく、彼はそれまでと同じように働いてきた。

ところが15年3月3日、事態は急変する。再び本人から詳しく聞いた。

「その日は二直(遅番)だったので16時15分に工場に出勤すると、16時30分ごろ、GL(グループリーダー)に『課長が呼んでいる』と言われ、一緒に事務所に行きました。

そこには課長がおり、『ちょっと別の所に行こう』と、堤工場にある『組み立て部ハウス』というところの2階応接室に向かいました。

応接室には、工務部課長、別の課長の二人がいました。席につくなり工務部課長が「この話は録音させてもらう」と机の上にICレコーダーを置きました」

染谷氏によれば、このときの会話の概要は次の通りだった。

課長 マイニュースジャパン知ってるね。

染谷 はい。なんですか?

課長 最初、染谷が情報をもらしたのか?

染谷 その質問に答える必要はないと思います。

課長 ここは会社なんだから言いなさい。

染谷 答える必要はないと思います。

課長 あれは会社の機密管理規則に違反している。

染谷  答えず。

「かなりイラだっている様子がうかがえました」

そして課長は話を別の方向に持っていった。

課長 CL(チーフリーダー)との会話を録音しているよね。

ちなみにトヨタの役職は、一番下が一般⇒EX(エキスパート)⇒GL(グループリーダー)⇒CL(チーフリーダー)⇒課長という階層で、課長から非組合員になる。したがってCLは労働組合員の最高位だ。

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染谷氏が上司との会話を録音したことは、これまで3回にわたるマイニュースジャパンの記事では、一切書いていない。

「CLとの会話録音というのは、ヒザをケガした後、8月22日にGLらから来たメール『…労災保険を使うとのことですが、審査が必要となりますので、それまでは、健康保険でお願いいたします。月曜日に●●さん(注:CLのこと)と安全衛生に行きましょう。16時30分です』という指示どおりにCLと話したときのことです。

このときは二人の上司、Cl(チーフリーダー)とGL(グループリーダー)とで話をしたのですが、録音しますよ、と二人に同意をもとめ、拒否をしなかったので録音したものです」

「これがトヨタのルールだ」トヨタ労災隠しのてん末

○2014年8月1日、堤工場で30㎏前後のパレット(台のようなもの)と空箱が数十個置かれた200㎏の台車を後ろに引く作業をしていた染谷氏は、ビキッという音とともに右膝靭帯を傷めた。その日は脚を使わない作業に替えてもらった。

○8月2日 病院に行く。支払い時に上司に電話すると労災保険でなく健康保険でやってと言われたので疑うこともなく健康保険で3割負担をした。診断は、右膝外側副々靭帯損傷。

○8月6日 痛みのため数日休んだ後、この日から出勤。この日以降、仲間や知人に話を聞き、勤務時間中の仕事上のケガなので健康保険でなく労災保険を使うべきでないかと疑問を持ち始めた。

○8月21日 経過観察で病院へ。出かける前にメールで「労災保険に変える旨を」上司に送信した。

○8月22日 有給休暇。上司が何度もメールや電話で「労災をやめてまずは健保にするように」という趣旨の連絡。

○8月25日 工場内の小部屋(安全衛生処置室)に呼ばれた染谷氏は、今回労災を使えないと通告された。「だからぁ~! トヨタのルールとはそうなんだ! あなたも従業員であるならばルールに従うべきだ」と言われたという。

○同日 不安になり早退して病院に行くと、「労災から健保に変えてほしい」と会社から病院へ電話があったことを聞かされた。

○8月26日 小部屋で上司5人が染谷氏を囲み、「これがトヨタのルールだ」と小冊子を出す。仕事上のケガでもまずは健康保険を使い、後に調査するということが書かれていた。その後、現場で上司が15~16人の労働者を集め、同様の趣旨を伝えた。

○8月27日 上司とともに病院に行くと、上司は「トヨタ自動車には独自のルールというのがありまして、それに則って染谷さんの労災保険を健康保険に切り替えさせていただきます」と受付で述べたが、染谷氏は労災にしてくださいと明言。ここで会社と対立した形になってしまった。

以上のような経緯を染谷氏はマイニュースジャパンで明らかにした。その後、何事もなく現場で働いていたが、最初の告発記事が出てから2カ月半あまり経過した2015年3月3日になり、前述のように呼び出されて問い詰められたのである。

ICレコーダー持ち込み禁止、カメラ禁止

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内部情報を漏らしたとして染谷氏は注意書を渡された。ここに「機密事項」という文言が記載されているが、本件における最大の機密事項とは、トヨタによる労災隠しではないだろうか。

再び、呼び出しを受けた3月3日の「組み立て部ハウス2階応接室」に話をもどそう。労災に関して上司と話した時、相手に断って、ICレコーダーで染谷氏が録音したことをとがめ、課長はこう言ったという。

「今後一切、ICレコーダーを工場内に持ち込まないでください

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(左)膝を傷めたことに対する労災申請のための書類。(右)労災申請を止めよと圧力を受けたことにより、抑うつ状態に陥ったため、この部分でも労災を申請している。

トヨタ自動車と豊田章男社長に対する告発状。労災は正式に認められたため、一連の会社の行動は労災隠しにあたる。また病院の窓口まで上司が赴いて労災保険を止めさせる行為などは反社会的だとして処罰を求める内容になっている。

染谷氏による労基署への申告、第三者からの告発があってまもなく、会社は傷病見舞金を支払った。

勤務中にケガをした直後の3日日間分は先に労災が認められた。4日目についても労災申請したところ、支給が決定されたという通知書。つまり、染谷氏の件は完全に労働災害であったことを労基署は認めている。

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sarutoru2016/01/31 16:05

→刑事告発と見舞金支給との間の因果関係は?

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