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博報堂がアスカから訴えられた64億円過払い訴訟で分かった、大手広告代理店「騙しの手口」――手抜き制作、視聴率改ざん、CM間引き、架空請求…

情報提供
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東京・赤坂にある赤坂Bizタワー。博報堂の本部はこのビルの中にある。
 広告代理店による騙しの手口が明るみに出はじめた。電通が先月、デジタル広告の掲載料金を水増請求していた件で記者会見を開いて謝罪したが、業界2位の博報堂も今年5月と8月、化粧品・自然食品の通販会社アスカコーポレーション(本社・福岡市、以下アスカ)から、過払い金として約64億円の返済を求める2件の訴訟を起こされていたことがわかった。請求項目は、通販情報誌の制作で過去データを流用し手抜きしていた問題から、テレビCMなどの番組提案書の放送枠にビデオリサーチの視聴率を改ざんして書き込んだ問題、1508件のテレビCMを「間引き」した疑惑まで、多岐にわたる。放送しなかった通販番組についても放送料を請求したり(架空請求)、縦枠の新聞広告に横枠用の広告を制作し、そのまま掲載してしまうといった低レベルの問題も発覚。アスカから膨大な量の放送確認書(2010~2014年)を入手して精査した筆者が、「不正のデパート・博報堂」の実態を詳報する。
Digest
  • 博報堂に対して63億円超の訴訟
  • 情報誌の制作の不正請求
  • 視聴率の偽装でCM放送枠を販売
  • CM間引き疑惑
  • 放送確認書の偽装
  • 「番組の休止→料金請求」
  • 新聞広告に見る博報堂の職能レベル
  • 巧妙な騙しの手口
  • 郵政事件と博報堂

電通は、9月23日に記者会見を開いて、過去に111社から約2億3000万円を過剰請求していたことを謝罪した。ITメディアの報道によると、電通は「ネット広告に絡み、不適切な業務が行われていたと発表。広告主に対し広告の運用状況や実績について虚偽の報告をしたり、実態と異なって過剰に請求した例などが含まれ」ていたという。

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アスカの通販雑誌。左が11月号。右が12月号。12月号には、11月のデータが多数流用されている。パクリの典型だ。

昔から広告代理店の内情は闇の中というのが定説で、マスコミは広告収入に依存していることから、そこに切り込むのはタブーだった。ところが、今年6月に東京オリンピック・パラリンピックの招致をめぐる裏金疑惑事件に電通が絡んでいたことを週刊紙が報じるなど、広告代理店の内情が、徐々に表に現れ始めた。

今回、詳報する博報堂の件は、意外な形で明るみに出てきたものだった。

博報堂に対して63億円超の訴訟

発覚の経緯は、昨秋の、博報堂が起こした訴訟に端を発する。2015年10月、広告代理店の博報堂が、化粧品の通販会社・アスカコーポレーション(以下、アスカ)に対して約6億1000万円の支払いを求める訴訟を起こした。博報堂は2008年から、電通と東急エージェンシーを撤退させ、アスカのPR業務を独占的に請け負っていた。通販情報誌の制作から、テレビCM制作、さらに新聞広告やイベントまで多種多様なPR業務を企画・実施してきた。

博報堂の請求額は、これらPR業務の未払い金である。まず最初に、アスカの銀行口座を差し押さえ、次に公正証書への捺印を迫り、提訴に及んだ。アスカが未払い金を発生させたのは、一時的に資金繰りが苦しくなったからだった。

裁判に対応するため、アスカは博報堂との過去の取り引きを精査する作業に入った。それは、膨大な量の書面を1枚ずつ調べる大がかりな作業だった。そして精査が進むにつれ、博報堂による不正の実態が輪郭を現してきたのだった。

今年5月になって、アスカは逆に博報堂に対し、約15億3000万円の過払金返済を求める裁判を起こした。8月には、偽装した視聴率でCM枠を買い取らされたとする社内調査の結果を踏まえ、47億9000万円の支払いを求める新たな裁判を起こした。これら2つの裁判の請求額は、63億1445万円にも上る。

一連の裁判を取材する中で、筆者は、博報堂の全体像に興味をいだくようになり、同社の実態を過去にさかのぼって調査した。その中で、郵政公社が民営化された時期に、郵政4社(日本郵便株式会社、株式会社 ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険、日本郵政株式会社)のPR業務を独占していた事実も知った。博報堂に流れ込んだ金について、総務省の報告書は次のように述べている。

「博報堂には民営化後の平成19年度の同グループの広告宣伝費約192億円(公社から承継された契約に係る部分を含む)のうち約154億円(全体の約80%)が、平成20年度の同247億円のうち約223億円(同約90%)が各支払われている」(『日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書の「別添」・検証総括報告書』、2010年)【博報堂関連の記述は29ページから】

問題は、その経緯だ。新生・日本郵政の幹部を博報堂が接待漬けにしていた。(日本郵政に関する話は本筋でないため、後述する)

情報誌の制作の不正請求

アスカの話に戻る。アスカは通販会社なので、毎月、商品の通販雑誌を制作する。博報堂が、その制作の役割を担っていた。情報誌の制作には、タレントの起用から、商品の写真撮影、キャッチコピー、それにページのデザインなど、さまざまな業務が絡んでくる。ここでは、「情報誌のページ制作」だけに焦点を絞る。

2011年ごろ、1ページあたりの単価は、制作内容の違いによって次のように分類されていた。

【新規ページ】10万円/1ページ。画像も説明文もすべて新規。
【リデザインページ】7万円/1ページ。デザインの50%以上変更。
【リライトページ】4万円/1ページ。文章をほぼ書き直したページ。
【調整ページ】0円/1ページ。データ転用が可能。

実際に完成した情報誌はどのようになっていたのか。

具体例として取り上げるのは、通販情報誌『ASKA』、2011年11月号と12月号である。ページ内訳は次のようになっている。

新規制作ページ:63ページ(完全に新しいページ)
リライト・リデザイン:52ページ(2分の1以上を変更)
表紙:1ページ(完全に新しいページ)

実際に2つの号を比べてみよう。冒頭写真の、左が11月号で、右が12月号である。12月号のこのページは、「新規制作ページ」の条件を満たしていないばかりか、2分の1を変更する取り決めになっている「リライト・リデザイン」の条件すらも満たしていない。記述もほとんど同じだ。手抜き作業の典型である。同じような例が多数見受けられる。

アスカがこの種の契約違反で返済を求めている金額は、約7億7942万円である。

視聴率の偽装でCM放送枠を販売

通販会社にとってテレビCMと通販番組は、有力なPR手段である。この点では、アスカも例外ではなかった。

テレビCMや通販番組を制作する際、広告代理店は最初のステップとして、クライアントに番組提案書を提示する。そこには広告代理店が買い取りを勧める番組枠が、視聴率と共に記されている。博報堂は、この視聴率を偽っていた。直接の訴因となった番組提案書は、49通。以下エクセルファイルが、偽装の一覧である

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偽造の疑惑がある放送確認書。放送局の住所を誤っていたり、書面の発行日とテレビCMの放送日が整合しないなどの矛盾点がある。

博報堂が制作した新聞広告。新聞のレイアウトと広告の仕様が食い違っている。

「事前御見積書」という奇妙な書類。「事前」でありながら、見積もりは、作業が完了した後の日付になっている。

アスカの通販誌に掲載された旅行代理店H.I.S.の広告。H.I.S.には無断で、博報堂の営業マンが掲載の段取りを踏んだ。

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