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海自輸送艦おおすみ事故、新事実発覚で浮上する「死人に口なし」責任転嫁工作疑惑 海自艦側の”あおり航海で追突”が真相か

情報提供
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国賠訴訟の審理で開示された広島海上保安部作成による「おおすみ」艦橋録音の文字起こし(2014年3月作成)。国交省や自衛隊の報告書には記載がなかったやりとりが多数見つかった。前方の釣り船が自分からよけると思い込んで接近を続け、衝突した“あおり航海事故”だった可能性を伺わせる。
 5トン足らずの釣り船「とびうお」の後ろから、8900トンの巨大な自衛隊艦船が接近、ぶつかった海自輸送艦「おおすみ」事故(2014年1月15日午前8時ごろ岩国沖付近の瀬戸内海で発生、「とびうお」船長ら2人死亡)。常識的にみれば自衛艦の追突事故で、自衛隊の責任が重く問われるはずだ。しかし「釣り船が急に右転した」という、にわかに信じがたい理屈で自衛隊が免責され、釣り船のほうが悪者にされてしまった。この奇妙な「釣り船右転説」の矛盾と破綻を決定的にする新事実が、広島地裁で続く国家賠償請求訴訟で明るみになった。法廷に開示された捜査記録のなかに「おおすみ」艦橋(指揮所)内の会話を詳細に記録した文書には、「おおすみ」が、前を行く釣り船は自分でよけると過信したまま汽笛も鳴らさずに接近、そして衝突した状況が、生々しく記録されていた。死人に口なしとばかりに責任転嫁工作がなされた疑いがある。
Digest
  • 艦橋の会話記録
  • 理解困難な会話内容
  • 記録から抜け落ちていた発言
  • 「こっち見とったんやないかな」
  • 釣り船は「おおすみ」に気づいていなかった
  • 崩壊する「とびうお右転説」
  • 工事船船長の証言に疑問
  • 国側代理人「C船長には会ったこともない」
  • 「釣り船、左後方から衝突か」という大誤報
  • 中国新聞への質問状
  • 疑惑の工事船C船長証人採用へ
(これまでのあらすじ)

事故発生は2014年1月15日午前8時ごろ、広島の南、米軍岩国基地にほどちかい瀬戸内海上で、8900トンの海上自衛隊輸送艦「おおすみ」(8900トン)と釣り船「とびうお」(5トン未満)が衝突した。釣り船は転覆、4人の乗員うち船長ら2人が死亡した。事故は「おおすみ」が前を行く「とびうお」の後方から近づき、衝突する形で起きた。常識的に考えれば自衛艦の追突事故であり、追突したほうの責任が大きい。だが国土交通省運輸安全委員会と海上自衛隊が出した調査結果はちがった。

「おおすみ」は釣り船の後ろから接近したが、衝突の危険はなかった。衝突したのは事故直前に「とびうお」が急に右転し、自分から「おおすみ」にぶつかっていったからである―――いわば「釣り船右転説」だ。

かくして海上自衛隊の責任は不問に付される。

 右転などしていない、する理由もないと納得できない遺族は、2016年、国を相手取り国家賠償請求訴訟を起こす。法廷で国が展開した主張もやはり「とびうお右転説」で、国にはいっさいの責任がないと全面対決となった。

裁判審理のなかで数かずの矛盾が浮上する。釣り船「とびうお」が急に「右転」した事実を裏付ける客観証拠は出てこない。そればかりか、「おおすみ」艦橋(=軍艦の上甲板上など高所に設けられた指揮所のこと)内の会話記録に基づいて釣り船の方位をみていくと、むしろ「右転」はなかったという結論になってしまう。

訴訟記録や新聞記事で明らかになった事実を検証し、筆者はひとつの仮説にたどりつく。

左前方の釣り船「とびうお」に接近しつつあるなかで、釣り船が自分から進路を譲るだろうと「おおすみ」は高をくくっていたのではないか。

釣り船「とびうお」は右転などしていない、自分からよけるにちがいないと過信したまま「おおすみ」は後方から接近、衝突した。それが事故の真相ではないか。――この仮説に筆者がたどり着いたのは、2018年秋のことだ。

それからさらに1年以上がたち、裁判審理のなかで、この仮説を強く裏付ける証拠の存在が発覚した。広島地方検察庁が保管する海上保安庁の捜査記録が裁判所の職権で開示された。そのなかに、事故当時の「おおすみ」艦橋内の会話を詳細に文字起こしした文書があった。戸次克仁海上保安官の作成による「自衛艦おおすみ艦橋音響等記録装置音声一覧表」。作成時期は2014年3月25日付となっている。

 重要な証拠とは、この一覧表だ(以下「海保記録」と記述したい)。

一覧表、すなわち「海保記録」に添付された戸次保安官の報告書によれば、「おおすみ」艦橋に設置されている音響等記録装置(ビデオカメラ2台)の音声とビデオ映像のデータを、海上保安試験研究センターで鮮明化する処理を行い、同年1月17日に広島海上保安部艦艇待機室で3時間半をかけて聞き取り、書き起こした、とのことである。

「おおすみ」艦橋の会話記録自体は、国土交通省運輸安全委員会や海上自衛隊の調査報告書にも引用されており、すでに公表されている。音声データも、きわめて聞き取りにくにものの裁判に提出されている。

だが、捜査記録の開示によって判明した海保記録には、これまで公にされていなかった重要な発言がいくつも含まれていた。

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国交省運輸安全委員会の調査報告書(2015年2月公表)に記載された「おおすみ」艦橋の会話記録(左)と、海上自衛隊の調査報告書(2016年1月公表)に記載された会話記録(右)。釣り船が急に右転したのが事故原因だという調査結果に照らすと、会話の流れに不自然さがある。

艦橋の会話記録

内容を比較するために、まず従来公表されていた会話記録をみてみたい

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輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」の航跡図。釣り船を「おおすみ」が追いかける格好で事故は起きた。衝突現場の西にある島が阿多田島(左)。「おおすみ」が所属する海上自衛隊呉基地。同型艦の「しもきた」が停泊中。

クレーン船C船長が事故を目撃した阿多田島の現場(上左)と当時の写真(上右)、工事の要領を記載した図(下)。漁港の桟橋工事中で、クレーン船の操縦座席から事故現場のある沖(赤灯台の方向)は、真左から左後ろの位置にあった。どこまで詳細な観察ができたのか疑問がある。

「とびうお」の操縦席。GPSを使った航海装置を搭載していた(海上保安部によればデータは水没により復元不可)。装置の取り扱い説明書によれば、目的地を入力して航路を案内する航法が可能だ。運輸安全委と海上自衛隊の調査は、「とびうお」の航路を推定計算する際、こうした航法の種類や数値の誤差をいっさい検討していない。

先行する釣り船を追いかける形で接近しながらも60メートルの間隔で安全に後方を交差できる状況だった、衝突したのは釣り船の右転が原因だ――と結論づけた運輸安全委の調査報告書と模型による再現(左)。捜査関係者によれば、先行していたのは「おおすみ」で釣り船が後ろから接近、衝突した可能性が高いという、事実と正反対の報道をした「中国新聞」。意図的に嘘の情報が流された疑いはぬぐえない。

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