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聴覚障がいの元社員がトヨタを提訴「会社側が無断で労災補償申請書に虚偽記載し、有印私文書偽造された」

意図的に体当たりされて負傷→「歩行中、右肩と右肩が交錯し受傷」

情報提供
修正済み「衝突再現写真」
トヨタ工場内で同僚から体当たりをされてケガをしたと訴える元社員の竹沢晴敏氏(40歳、写真向かって左)。日ごろからパワハラやいじめがあったという。写真は、前方ドア内側で作業をしていたときに体当たりされた様子を再現したもの。

11月21日、元トヨタ社員の竹沢晴敏氏(仮名40歳)が、トヨタ自動車を相手取って400万円の賠償請求訴訟を名古屋地裁岡崎支部に提起した。在職中、同僚に体当たりされて右肩挫傷(全治10日間)したとき、トヨタが労災関連の申請書に、偶発的な事故であるかのように「事実をねじ曲げた内容を書き(中略)有印私文書偽造罪(刑法159条1項)に相当」(訴状)と認識したことなどが提訴の理由。「肩の痛みも勿論ですが、心の痛みはもっとつらかった」との思いを抱き続けて4年余、今年3月に愛知労働局で紛争のあっせんを申請。トヨタと竹沢氏は合意書を交わし解決したかに見えた。だが、あっせんの場で不審な点を感じた竹沢氏は労基署に開示請求して文書を入手。その書類を見た竹沢氏は、あぜんとした——。

Digest
  • まったく身に覚えのない文書が書かれていた
  • 「事実と違う申請を無断で提出したから合意は無効」と主張
  • 核心は、意図的な体当たりによる負傷か、ただの接触事故か
  • 「お前、給料以外に障害手当もらってんだろ?」とパワハラの過去
  • 突然体当たりされ転倒してしまった
  • トヨタは「今後裁判の手続きの中で弊社の考えをお伝えさせていただきます」

聴覚障がいも持つ竹沢氏は、2004年、障がい者枠でトヨタに採用された。「上司は酷く叱り、怒鳴り、そのうえ背中を殴ることも頻繁でした」と、竹沢氏は在職中に差別発言やパワハラ、いじめを受けていたと言う。2018年2月、仕事中に同僚から体当たりされ転倒して負傷。上司にも訴えたが、十分に話を聞いてもらえないまま同年12月に退職した。

まったく身に覚えのない文書が書かれていた

愛知労働局においてトヨタ自動車と合意書を交わした5か月後の今年(2023年)8月、豊田労働基準監督署は、請求を受けていた様式5号(労災保険の療養補償給付つき請求書)を開示した。

そこには、かつて竹沢氏が同僚に体当たりされてケガをした様子が、こう書かれていたのである。身に覚えのない自身の署名・捺印まで記されていた。

≪高岡工場〇〇〇〇〇〇〇課に所属する受傷者は、右リアドアシーラー工程にて、前車テール作業者が次車に移動する為に右リアドア作業中の横を歩行中、右肩と右肩が交錯し受傷した≫

「傷害を受けるほどの暴力行為だったのに、偶発的な事故のように事実をねじ曲げた内容が書かれていました」(竹沢氏)

あまりにも事実と違うので竹沢氏はあきれ果てたという。上の文面を読んでも、ラインの前方で作業していた作業員が、後ろで作業していた竹沢氏のほうへ歩いてきて肩と肩が交錯したと書かれているだけで、ケガをしたリアリティがまるでない。

(修正済み)様式5号
労基署に開示請求して出てきた労災申請の書類「様式5号」。本人の署名捺印があるにもかかわらず、竹沢氏はまったくこの書面の存在を知らされず、《怪我をしたのは、他の社員が歩行中に肩に接触しただけ》という趣旨が記載されている。これを見た竹沢氏は、怒りに震えたという。

彼が疑問を感じたのは、2023年3月、愛知労働局での「あっせん」の場だった。労働局のAあっせん委員が竹沢氏にたずねた。

「これは、あなたが書いたものですか?」

何を聞かれたかよくわからず、竹沢氏はとまどった。Aあっせん委員はさらに

「労災保険の申請用紙にご自身の名前を書いたり押印した記憶はありますか?」と質問した。

竹沢氏は「見たこともありません。まして書いたこともありません」と返答する。

このとき、「あっせん」に参加していた補佐人(竹沢氏は障害をもつため手話通訳と補佐人がついていた)がA委員に尋ねた。

――申請用紙とは、様式5号のことですか?

「そうです」

様式5号とは、労災保険の療養補償給付を請求するときに使用する申請用紙である。

竹沢氏と補佐人は、当然のことながら様式5号を見せてほしいと要求した。

しかし、守秘義務を理由にその場では応じてもらえなかったという。

「事実と違う申請を無断で提出したから合意は無効」と主張

自分のケガのことなに、その申請書を見られないのは納得がいかなかったが、和解したいと考えた竹沢氏は、合意書をトヨタと交わし、一応この件は終了した。

なお、守秘義務条項が付されているため、合意内容は不明である。

修正済あっせん申請書.jpg ‎- フォト 2023-04-27 12.55.17
工場内で負傷した件で愛知労働局に紛争のあっせんを求めて竹沢氏が書いた申請書。同じ事故なのに、会社が書いた書類(様式5号)とは、まったく内容が違う。赤線は筆者。

しかし、自分が見たことも署名した覚えもない文書があると知り開示請求した結果が、前述のとおりだった。

様式5号は、原則として本人が書くことになっているが、会社が代行して速やかに労災の手続きに移すこともある。

したがって、必ずしも本人が書かなければならないということはない。だが、その内容を本人に確認することは必要だろう。

会社が書く場合、本人ではないから微妙な違いは生じてもおかしくはない。だが、開示された書面では、核心部分がまったく書面提出の主体者であるはずの竹沢氏とまったく違っている。

意図的な体当たりで負傷したのに、ただ工場内を歩いていて肩が交錯したなどと、「事実を捻じ曲げた内容を書き、豊田労働基準監督署に原告には無断で提出した」(訴状より)と竹沢氏は憤っているのだ。

そればかりか、この様式5号の記載と提出は、「有印私文書偽造罪(刑法159条1項)に相当する」(訴状)と竹沢氏は主張する。

刑法(私文書偽造等)

第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。

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トヨタ宛ての合意解除通知書。事実と異なる書類(様式5号)をもとに労働局の紛争調停(あっせん)に持ち込み和解したのだから、合意を解除する権利があると竹沢氏は考えている。

トヨタ自動車高岡工場。この中で負傷事故がおきた。

本人が知らないまま、トヨタが事実と違う内容の書面を労基署に送ったことに対して行政処分を求める書面を竹沢氏は提出した。

トヨタ代理人から送られてきた通知書兼警告書。この文書を送られたことも竹沢氏が訴訟に踏み切った理由のひとつである。

2023年11月21日付の訴状。本稿と関連する「様式5号」問題の部分を掲載した。赤ペンと黄色いマーカーは筆者。

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