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「雑酒」を「第3のビール」と持ち上げて定着させるマスコミ報道

情報提供
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売れ行き好調のアサヒ「新生」。 表示は「その他の雑酒(2)」でも、報道されれば「第3のビール」。
 麦芽を使わずに作られたビール風飲料「第3のビール」。「第3のビール」と言えば「ああ、あれね」と思い浮かぶのではないだろうか。では「その他の雑酒(2)」では?日本の法律上でもビールの歴史上でもビールとは定義されないものを、第3のビールと呼んでいるのは、日本のマスコミだけだ。

『週刊エコノミスト5/31』(毎日新聞社発行)の巻頭インタビュー「2005年の経営者」に、アサヒビール社長の池田弘一氏が登場している。インタビュアーは『エコノミスト』編集長の西和久氏だ。

 インタビューの冒頭、西氏はこう切り出す。

「『第3のビール』は大手4社が出そろい、市場を形成しつつあります。」

 これに対して、池田氏は次のように応じている。

「雑酒の新商品『新生』を4月下旬に発売して以降、わずか10日間で270万ケースを売上げ、近年の当社の新商品としては最高の滑り出しです。(中略)我々としては、発泡酒と雑酒と合わせて2ケタ増にしたい。とくに、雑酒はナンバーワンを狙います。」

270万ケースと言えば、2,700,000×24=6,480万本。「新生」、そんなに売れていたのか、あの味で(失礼)!でも安いから自分も飲んでいる。

それはさておき、このインタビューの中で編集長氏が「第3のビール」と呼んでいるにもかかわらず、ビール会社の社長が「雑酒」と応じていることに注目して欲しい。

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左:朝日新聞5月14日
右:毎日新聞5月17日
いずれも、「いわゆる」という意味のカッコをつけず、第3のビールとして報道している。

このインタビュー記事で顕著になったように、これまで各ビール会社がおこなった各種宣伝や広告の中で、そもそも酒造メーカーがみずから「DraftOne」や「のどごし<生>」や「新生」を称して「第3のビール」と表現したことは、僕が調べた限り、なかった。

 各社のサイトを見ても、麦芽を使用せずに製造したビール風飲料を「第3のビール」などと表現してはいない。もちろん発泡酒を「第2のビール」ともしていない。

また、一般的に販売されている商品には「その他の雑酒(2)」という表示がされている。

にもかかわらず、「第3のビール」という呼称がマスコミの中では一般的だ。たしかに見た目はビールに似ていますけど。

だが待ってもらいたい。「ビール」という呼称は、そんなに簡単に使っていいものなのか。

調べてみると、ドイツでは1516年、ヴィルヘルム4世によって「ビール純粋令」が制定された。ビールの醸造には大麦、ホップ、水のみ用いることができるというもの(16世紀半ばに、酵母も加えられる)で、現在でもドイツ国内ではこれに準じたビール製造が行われている。これ以外の原料から作ったものを「ビール」と認めないという頑固さは、フランスの「シャンパン」や「カマンベールチーズ」などに通じるものを感じさせる。

キリンビールもアサヒビールもサッポロビールもサントリーも、各社とも自社サイトでこの「ビール純粋令」を紹介していた。本物の「ビール」がどういうものか、造り手は知っているのだ。

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日経新聞5月28日
カッコつきで「第3のビール」。これはまだましだ。
 しかし、マスコミは「第3のビール」と持ち上げる。

記事検索をかけると、日経新聞で最初に「第3のビール」という呼称が登場したのは、2004年4月13日の朝刊「第3のビール快走低価格アルコール飲料、市場を下支え」との記事だ。サッポロビールとサントリーが3月に発売したことを受け、早くも「『第三のビール』ともいえる格安のアルコール飲料が好調な出足を見せている。」と報じている。

紙面でこの呼称を使ったことのある朝日新聞・読売新聞・毎日新聞に「第3のビール」とは何かを問い合わせてみた。

朝日新聞社広報の回答

「厳密な定義はありません。あえて言えば『ビールテイスト(ビールの味わい)で、原料に麦芽や麦を使っていない新アルコール飲料』とでも申しましょうか。ただし、この定義は万能ではありません。たとえば、いち早く商品化したサッポロビールでは『ビールテイスト』という表現すら使わず、『新しい味』『第3の生』などと称しています」

-中身よりも雰囲気を大事にする、ということのようだ。

読売新聞社広報の回答

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グルだ2008/02/01 02:51
第三の男2008/02/01 02:50
問題は税率2008/02/01 02:50
tinkletree2008/02/01 02:50
酒好き2008/02/01 02:49
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マスコミが実態を歪めて報道することは、よくある。その多くは、官僚の意向に沿った表現を、記者クラブで発表される資料に基づいて使うためだ。恐ろしいのは、示し合わせたように、各社横並びで一律で間違って同じ表現を使い、世論を誘導するところである。下記がその例。
■銀行の「倒産」を「国有化」と表現。
■少女売春を「援助交際」と表現。
■「US=Japan Structural Impediments Initiative」を「障壁」を無視して「日米構造協議」と表現。
■「deregulation」(規制撤廃)を「規制緩和」と表現
(編集・渡邉)