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マツダの25歳部品バイヤー、過労自殺の背景 パワハラ&残業申請禁止され

情報提供
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25歳の優秀なバイヤーを過労自殺に追い込んだマツダ。
 大手自動車メーカーのマツダ本社で働いていた25歳の男性社員が社宅の自室で自殺し、遺族が損害賠償を求めた裁判で、兵庫地裁神戸支部はマツダに約6400万円の支払いを命じ、先月(2011年3月16日)、判決が確定した。入社4年目のDさんに何があったのか。判決で認定された事実関係によれば、Dさんは担当するエンジン部品が取引先の強硬な姿勢で出荷停止に陥り厳しい再開条件を突きつけられる一方、指導力がない上司との間で板挟みとなり、残業申請の禁止や持ち帰り残業の強要、頭ごなしの叱責といったパワハラから、うつ病を発症していった。(判決文はPDFダウンロード可)

◇時系列
 自殺発生は2007年4月で、判決は今年2月28日付け(兵庫地裁神戸支部、中村隆次裁判長)だった。会社側が適切な支援をせず安全配慮義務を怠ったことなどが理由で、遺族側の主張がほぼ全面的に認められた。原告である両親はマツダに対し、慰謝料など約1億1000万円の支払いを求めていた。以下が時系列でまとめたものだ。

2004/03大学卒業
2004/04マツダ入社
2005/04エンジン用ガスケットのバイヤー
2006/11エンジン用フィルターのバイヤー
2007/03/11頃うつ病発症
2007/03/28頃うつ病重症化
2007/04/02死亡(自殺)
2008/04/02労災申請
2008/05/15対マツダ損害賠償請求訴訟の提起(兵庫地裁神戸支部)
2009/01/29労災認定
2009/03/27労災の給付基礎日額に不服があり審査請求(時間外労働時間の算定に対する不服)
2009/10/14労災補償保険審査官が上記不服を認める
2011/02/28対マツダ訴訟の判決(勝訴、約6400万円の賠償命令)
2011/03/16対マツダ訴訟の確定(マツダが控訴せず)

 Dさんは04年3月に近畿地方の国立大学経済学部を卒業、翌4月に正社員としてマツダに入社した。裁判資料によると、入社後は研修を経て04年8月から購買本部第三部品購買部エンジン部品グループに所属し、05年3月まで他のバイヤーの補助を担当。2年目の05年4月からエンジン用ガスケットのバイヤーとなり、06年11月から死亡するまではエンジン用フィルターのバイヤーとして働いていた。勤務地は、広島にあるマツダ本社事務本館の1階。

 はっきりと物事を主張する性格で、英語に堪能、直近の実績評価(年2回)は2回連続して「同一職務等級中、上位30パーセント以内」に入り、死亡直前には職務等級の昇級が決定。また、07年度の新入社員教育のファシリテーターとして、事務系・技術系約40人のクラスを担当することも決まっていた。

◇背景 厄介な取引先
 当時Dさんが担当していた取引先は、オイルフィルターなどの濾過部品が2社、樹脂部品が11社あり、入社3年目の社員としては、取引先数、部品数ともに標準的な数だった。ところが、このうちの1社、エンジン用フィルターのほとんどを納入するソゲフィ社(判決によると本社は英国)が非常に厄介な取引先で、同社との間で生じたトラブルをきっかけとして、Dさんが苦悩していく。

 バイヤー業務とソゲフィ社の厄介さについて、判決には以下のようにまとめられている。Dさんが置かれた背景を知る上で重要な記述なので、少し長いが引用する。引用中にあたり、「被告」は「マツダ」に置き換えた(これ以降の引用箇所も同じ)。なお、日本にはソゲフィ社の窓口はなく、英国と直接やりとりする必要があった。

 購買本部においては、従業員は、入社2年目から担当バイヤーとして独立して業務に従事するが、もともとバイヤー業務は、多くのサプライヤーとの間の日々の調整、交渉において、細かなトラブルや行き違いが日常的に発生するため、経験が必要とされ、担当一人が独立当初から品質問題などを含めすべてをこなすには難がある。
 特に海外メーカーは、一般的に、(1)納入不安、(2)品質問題、(3)情報の遣り取り(コミュニケーション)の面で難があるものであった。
 そして、ことソゲフィ社については、本社がイギリスであるため、時差等の関係で、直接のコミュニケーションがとりにくいほか、同社との取引に関与した従業員の印象では、品質面においては、日本的な品質管理の重要性を理解せず、マツダの要求する水準の情報や回答を得られず、問題が恒常的に発生し、また、納品面についても、ある日、突然、出荷を止めるといったことを通達してきて部品を取決めどおりに納入しないことがあり、そのほか、マツダからの問い合わせに対し、無回答、無反応であったりと、ソゲフィ社ほどいうことを聞かないサプライヤーはおらず、取引をするに難の多い会社である。
 Dがバイヤーとして同社を担当していた時期、マツダでは、同社をめぐって、(1)誤品納入問題、(2)エコタイプフィルターの不具合問題、(3)納入不良改善目標未達継続問題、(4)品質選別工程の中国移管問題、(5)出荷停止問題といった問題が発生していた。

 判決文をもとに、具体的に見ていこう。

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マツダに対する損害賠償請求訴訟の判決文冒頭。

◇発端 誤品納入問題
 Dさんがエンジン用フィルター担当になった06年11月、マツダのディーラー向けに出荷されるソゲフィ社製の交換用オイルフィルターで、ラベルの貼り間違い問題が発覚(誤品納入問題)。高油圧用エレメントのラベルが貼られた箱に、低油圧用エレメントが入っていた。誤納入された個数は判決からは分からないが、一部は市場に出回っていた。

 ソゲフィ社の単純ミスであることから、担当バイヤーであるDさんは、部品の回収や在庫品の入替えにかかった費用の全額をソゲフィ社が負担すべきとして交渉にあたった。しかしソゲフィ社は、マツダ側にもチェック漏れなどの責任があったと主張。最終的にマツダ側は

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Dさんの置かれていた状況が簡潔にまとめられた部分。判決文から。

裁判所が認定したDさんの勤務時間表。自宅における残業時間は把握されていない。判決文別紙から。

Dさんの死後、遺族をさらに苦しめることになる上司の発言。判決文から。

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Samm2011/04/28 20:13会員
2011/04/27 19:43
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