画像1:明治大との1年単位の契約関係を示す文書。明大広報によると、明大では非常勤講師のことを兼任講師と呼んでおり、その給与は、39歳以下が写真のように講師給1号俸となり、1コマ(1週2時間)当たり月額3万800円。40歳~49歳が講師給2号俸となり、1コマ当たり月額3万1100円。50歳以上は講師給3号俸で1コマ当たり月額3万1400円
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正規・非正規の均等待遇が全く進まない日本の労働市場。その格差がとてつもなく大きい組織の1つが、大学だ。明治、立教、成蹊、明治学院など8大学で教壇に立つコールさとう氏(本名=佐藤壮広、44歳)は、非常勤講師として週10コマを教えているが、年収は200万円台にとどまり、社会保険にも加入できない。佐藤氏はその悲哀を、歌を通して学生や専任教授たちに訴えかけているが、そのコール(呼びかけ)に対するレスポンス(応答)はまだまだ少ないのだという。同氏に大学内でまかり通る搾取の実態を聞いた。
【Digest】
◇悲哀を歌う非常勤講師
◇線香の一本も出ない使い捨ての存在
◇羊のような学生たち
◇「早く決まるとイイね」立教大教授
◇悲哀を歌う非常勤講師
震災のショックもさめやらぬ4月14日、東京都内の池袋で約1,000人が出席する労組の集会が大々的に開催された。そこには当サイトで掲載した
ブルームバーグや
IBM、
JALの労組などが参加し、不当労働問題を報告。
約2時間の会合も残り20分に差し掛かった時、司会者が「次にミニコンサートに移ります」と言い、思わぬキャリアの持ち主が登場した。大学非常勤講師をしているコールさとう氏(本名 佐藤壮広=たけひろ、以下、佐藤氏)だ。
佐藤氏はジーンズ、Tシャツにギターという姿で壇上に上がり、「春が来た」と、ビートルズの「Get Back」の替え歌、そして最後に、「非常勤ブルース ひとコマなんぼのおれの生活! アルプス1万尺 おれはひとつき3万弱」というさびの「非常勤ブルース」という持ち曲を歌った。(以下の写真クリックで非常勤ブルース再生可)
筆者は1月の記事以降も大学非常勤講師の取材を続けているが、顔を出してこの問題を歌いあげる人物は、日本中でこの人をおいてほかにいないと思い、同氏を取材した。
佐藤氏は現在44歳。立教大学文学部を1991年に卒業後、修士課程に進み、1995年から博士課程で学んだ。大学院で学んだことは、現代哲学と宗教学という。1997年からは、現地を見たい、という思いから、日本古来の文化が残存する沖縄で2年間暮らした後、東京に戻り、その後、満期退学。そんな佐藤氏が非常勤講師を始めたのは2001年からだ。東邦大学の人類学が初めての科目だったという。
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コールさとう氏 |
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「授業は2コマ受け持ち、1コマ当たり月額2万5千円。それがスタートでしたね。通常、非常勤講師になるときは、『どこかで非常勤のキャリアを積んでいないと雇いません』という大学が結構おおいんです。そのなかで、東邦大学は、非常勤の経歴のない若い人を優先的に採用する方針をとっていて、感動しました、その見識に。非常勤講師を丸10年していて、数少ない、いい話です」(佐藤氏)。
非常勤講師という搾取のシステムを形成しているという意味では、東邦大もほかと一緒だが、それでも恩義を感じて感謝しているところに、佐藤氏の人柄がにじみ出ている、といえそうだ。
その後、佐藤氏は2001~2003年にかけて国際基督教大学(ICU)社会科学部の非常勤の助手をした。ICUは専任一人に対し、助手が1~2人つくシステムになっている。助手の給与は一学期当たり17~18万円、月額換算で5万円程度だ。
「その後、2004年以降は徐々に非常勤講師のコマが増えてきて、2006年には週14コマを受け持つようになりました。科目は人類学や文化論、宗教学で、大学は江戸川、恵泉女学園、国士舘、成蹊、大正、明治、明治学院、立教大。1コマ当たりの給与はいずれも月額2万5千円~3万円程度でした」
そんな佐藤氏も非常勤講師として苦労してきた。例えばこんな目にあったこともあるという。
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立教大学 |
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◇線香の一本も出ない使い捨ての存在
それは母校である立教大学での出来事だった。
「ある日、学内の掲示板で、お世話になっている教授の母親が亡くなったことを知ったんです。掲示板には『この度、文学部の何々先生のご母堂がご逝去されました。お通夜は何日、告別式は何日です』と書いてあります。それを見て、ふと、寒い気がしてきました。
もし自分の親が死んでも、学内に張り出されることはありません。その時、ここの共同体は、一つの村なんだな、と思い知りました。日本文化論の話になりますが、村の人間関係をつくっていく上で、冠婚葬祭は重要な役割を果たします。つまり、自分は、この立教大学ムラのなかの、外から働きにきている一介の雇われ人でしかない…。
自分が病気になろうが、親が死のうが、香典、線香の一本も出ない、そういうなかで自分はやっている…専任の教員たちには、喜びも悲しみも共有する共同体があるが、自分はそこから確実に排除されている…そう思った時に…涙が出ました……」
ほかにもこんなことがあったという。それは都内の駿河台にある某マンモス大での話。.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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画像4:翌年度の非常勤講師を認める「承諾書」。一年単位の更新。「承諾」という上から目線の言葉を使っているところからして非常勤のしがない待遇をよく表している |
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画像5:国士舘大学の給与明細。1コマ当たり月額2万3500円。社会保険料と私学共済掛金の欄は空欄 |
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画像6:大正大の交通費の申請書。非常勤講師が受け取る金は月額給与と交通費のみ |
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