早稲田大・非常勤講師の給与明細が語る“大学内搾取”の構造
早稲田大学非常勤講師X氏の給与明細。コマ数は週二回。一コマ当たり一日90分で、報酬は一コマごとに月3万100円(90分当たり7525円)。交通費に当たる出校手当を含めると報酬は月6万6200円 |
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- “搾取”の拡大装置
- 博士号とっても乞食になる現実
- 早大文学部講義の5割が非常勤講師
- 「学問は分からない…」元産経学部長
“搾取”の拡大装置
大学院で博士号を取得し、有名私立大学で講義する身でありながら、年収200万円~300万円の苦しい生活を強いられているのが「非常勤講師」と呼ばれる人たち。各大学の専属教員とは別の、年間契約で雇われている講師のことを言う。民間企業でいうところの、非正規の契約社員である。
筆者がそのことを知ったのは、「だから教授は辞められない―大学教授解体新書」(川成洋編著/ジャパンタイムズ/1995年10月5日出版)という本のなかの、「使い捨てられる非常勤講師たち」(竹添敦子著)という章を読んだのがきっかけだった。
そこには、非常勤講師は1コマ当たり2万円程度の講師料、研究費は自腹、学会費も出張費も全額自己負担といった具合で、専任の教授と比較して「待遇に圧倒的格差」があることが縷々述べられていた。さらにこんなふうに書いてあった。
「非常勤生活も10年を迎えたところが、(略)方向転換にはぎりぎりの年齢で、心身ともに疲労がたまり、研究の継続に疑問が生じる。(略)ライフスタイルの再検討を迫られる時期なのである。(略)年齢が重なれば重なるほど、世のすべてからはじき出されたような気分になってくる」。
それを読み、筆者は、劣悪な環境のなかで、高い志を持ち学問を続ける人たちがいることに深い敬意を抱くとともに、どの大学もたいそうな建学の理念を掲げておきながら、その実、大学内で理不尽な格差社会を生み出していることに、唖然としてしまった。本来、学問の府というのは、そうした世の中の理不尽さを糺す人材を輩出するところであるはずなのに、その大学の講義の場自体が、理不尽な“搾取”の場と化しているのである。
“搾取”を土台とした大学――そこを出た人たちが中核をなしていく社会は、政治、経済、文化、科学、教育、家庭など社会のありとあらゆる分野で、搾取を「再生産」していき、格差を推し進めることになりはしないか。大学は、未来の社会の鏡であるがゆえに、心配、と言わざるを得ない。そう考えた筆者は、非常勤講師の実態を取材した。
博士号とっても乞食になる現実
今回取材したのは早稲田大学文学部などで非常勤講師をしているX氏だ。X氏は50代、男性(顔写真や本名、X氏本人と特定できる個人情報などは本人の希望により伏せている)。X氏の主な経歴は、東京大学文学部を卒業後、欧州の大学の大学院などを経て博士号を取得。現在は、早稲田大学など三つの私大で非常勤講師をしている。
X氏の早稲田大学でのコマ数は週二回。1コマ当たり一日90分で、報酬は1コマにつき月3万100円(一日90分当たり7525円)。交通費に当たる出校手当を含めると報酬は月6万6200円となる。
駒澤大学の非常勤講師の給与明細。非常勤講師には、「共済年金」「雇用保険」や、「住宅手当「期末手当」「残業手当」などは一切ないことが一目瞭然 |
X氏はほかに、駒澤大学で週2コマ、都内の女子大で週3コマの授業を行っている。報酬は駒澤大が一コマ当たり月3万1500円(90分当たり7875円)、通勤手当を含め二コマで月収6万4760円。女子大は一コマ当たり月2万5000円(90分当たり6250円)で、三コマで月収7万5000円。
しめてX氏の非常勤講師としての収入は月20万5960円、年収247万1520円となる。週7コマの授業は、専任の大学教授と変わらないばかりか多いくらいである。
ちなみに非常勤講師には、共済組合の社会保障や各種手当はつかない。
それは画像2のX氏の駒澤大学の給与明細をみると一目瞭然である。右記画像のように、
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2010年度早稲田大文学部「非常勤講師」講義リスト(赤字が非常勤講師の講義)。全リストは記事下からダウンロード可
早稲田大学の専属教員の募集要項。応募資格は、「博士学位取得者もしくはそれと同等以上の研究業績があること」とある。これが、学歴の低い学部卒の教員増殖の一因となる。(独立行政法人科学技術振興機構のHP内にある、研究者人材データベースの求人公募情報検索より抜粋)
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とりあえず非常勤は組合に入ろう。
自分が学生の頃からひどい待遇だとは聞いていたが、たしかに搾取と見ることができるな
早稲田に限らず、安い
大学の、一番身近な格差構造。社会保障がどうこう言ってる先生も、この問題について話してるのを見たことはないな。
年収250万円で研究費が自腹、これは酷い労働環境だな。
大学全体ですね。年収250万ならマシな方ですかね。 RT @YamaguchiToshi: 「早稲田大・非常勤講師の給与明細が語る“大学内搾取”の構造」/ MyNewsJapan
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読者コメント
専任教員になりました。長い道のりでした。でもなぜ自分が専任になれたのかは、分かりません。そりゃ、博論も書きましたし、留学も行きました。科研費も取りましたし、賞ももらいました。ただ、私と同じかそれ以上の業績のある同世代にも、非常勤の人は大勢います。人事が運次第だからでしょう。まずテーブルに乗る(たまに面接に呼ばれる)のは大前提ですが、そこからは運ゲーの要素が強いです(ウェーバー曰く、サイコロ賭博)。
それでも早稲田の非常勤講師料は格段に良かった。施設やIT利用の配慮もあった。他大学の非常勤はずっと劣悪だった。非常勤暮らし、長くつらかったな。支えてくれた妻に感謝。
知り合いが芝浦工大の非常勤講師をしています。最近組合に入って「もう少し教える授業数を増やして欲しい」と交渉したところ、組合バッシング。すごい戦いになっているらしい。あ、当然社会保障費や雇用保険はナシです。当初、交渉も拒否されたらしい。これって法律違反でしょ?不法なことしてる大学っていっぱいあるみたいだよ。
非常勤にも派閥があって、その政治がすごい。小保方みたく、実力なし、コネありの人大杉。日本語教育とか、素人同然の人が教えているし。
まず非常勤と専任じゃ業務内容が全然違う。
前者は授業のみ、後者はそれにプラスして膨大な雑務。
まあ給料格差ほどの差はないように見えるけど。
てか専任が取れないってことは、研究分野が悪いか、講義能力が無いんだよ。
周りを見ても、きっちり講義(教育)をする気のある人間はぱくろんから5年くらいで専任決まってるし。
>あ 非常勤で劣悪な環境にあっても、みな死ぬ気で研究して論文書いて発表してますよ。研究費がないからそれこそ生活費削って研究継続してるんです。
>通りすがり 専任には責任担当上限コマ数がありますから、そうはならないと思います。問題は授業構成なんですよ。1つの教室に100人も200人も詰め込んで開講コマ数を減らし、人件費を抑制しようとする大学です。
大学教授なんざまったく同じ業務をしても給与は1000万円だぞ。これこそが日本の今かかえる大問題。企業でも似たようなことが起きている。ネガティブなコメント書く奴は非正規の立場になればよく分かるだろう。しかし想像力のないバカ多すぎ。
でも、そんなこと言うと、専任のコマが増えて、非常勤は首を切られるだけ。
それに、大学は講義よりも、研究や学務の方が数倍忙しいよ。授業に対する報酬としては妥当だと思うが。
週4コマで月給10万円以下、年収120万円以下。所属先の研究室の教授に月1万円でデータ解析を1日約10時間(非常勤以外)。データと時間が吸い取られるがままで使い捨てられるのか不安な日々です。
薄給すぎて学生への教育の意欲が落ち気味。
ひとりあたり1コマ30円ぐらいの換算になるので、その程度の対応しかやる気がなくなる。
2011年4月24日投票の東京都目黒区議選(定数36)で、民主新人で立候補した蓮舫行政刷新担当相の夫で早稲田大学講師、村田信之氏(44)が落選した。893票を獲得したが、候補者55人中42番目だった。
大学院時代には専任の職を得るために一生懸命学会発表を行い、それなりに論文を書き続けました。おかげでドクター修了後専任の職にすぐにつけました。非常勤をしていても院生時代よりは収入は多いのですから、がんばって業績を作り続け専任を目指さないと非常勤オンリーになります。専任になれば講義以外の仕事も多く、単純にコマ数で比較はできません。
高給取りの上級マネージャーが大学の講義を非常勤でいくつも担当しています。たしかに記事ようなケースはしばしば見られますが、当記事の指摘は、非常勤講師担当のうち、何%が”純”非常勤講師担当なのかについてデータがないと根拠が薄弱だと思います。当記事は大学内搾取について鋭いメスを入れるものですので、ぜひ追加記事を!
バカ高い授業料はどこへ消えているのか??私大職員と教授陣のリストラなり給与カットは必須だろう。
まず 「非常勤」=「派遣」という意見が違う。彼らの多くは他の職業を持っている。いわば派遣ではなく副業である。
格差格差、可哀想可哀想だけが先行した記事にしか見えないのは私が大学関係者だからだろうか。
彼らの給料が(専任教員よりも)安い理由を少しでも考えて貰えたらと思う。
デリバティブの損出で154億をみずほBに肩代わりしてもらっているから安い?同大の親、曹洞宗・宗務庁が資金の出し惜しみが原因か・
年頭の言葉:世の中の不条理を正したい・・・
テレビ局、役所、大学・・・非正規労働者の不条理をこそ第一優先で正さなければならないと思います。
世の中に広く認知されるための拡散を!
民間企業も同じと思うが。正社員と派遣社員。やることは同じ。
大学はもはや現代日本の身分制を表現している場所であるとしか言いようがない。
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