ユニクロが名誉毀損裁判の主な対象としたジャーナリスト・横田増生氏の『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋社)。
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文藝春秋社から出版された『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生著)に対して、ユニクロが、37箇所に及ぶ名誉毀損があるなどとして、2億2千万円の損害賠償と出版差し止め、そして発行済み書籍の回収まで求めた裁判を起こしてから、4カ月。ユニクロは訴状を提供し取材に答えるなど正面突破の構えだが、文春側は取材にも応じず萎縮している。『ユニクロ栄えて国滅ぶ』など批判的な論文を繰り返し掲載してきた『文藝春秋』はすっかり大人しくなり、高額裁判による口止め効果は抜群に表れた。一方、提訴後に柳井社長に『アエラ』表紙を飾らせた朝日新聞には、“ご褒美”として9月だけでユニクロ全面広告を7面も出稿。今回の訴訟では弁護士に6千万円もの成功報酬を積んでいることも分かった。読者は大手メディアがカネの力でコントロールされていることにどこまで気づいているのか。実態をリポートする。(訴状はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇弁護士報酬6000万円
◇名誉毀損を指摘した箇所(国内)
◇名誉毀損を指摘した箇所(中国)
◇海外進出企業の闇
◇ユニクロ情報の読み方
◇名誉毀損裁判の原則
◇喜田村洋一弁護士の説
東京地裁でユニクロが文藝春秋社(以下、文春)を相手どった名誉毀損裁判が進行している。2011年6月3日の提訴から4カ月。徐々に裁判の性質が輪郭を現してきた。
この裁判は、ジャーナリストの横田増生氏が文春から出版した単行本『ユニクロ帝国の光と影』と、同氏が『週刊文春』に執筆したユニクロについての記事に対して、ユニクロ(厳密には、親会社のファーストリテイリングとユニクロ)が2億2千万円の損害賠償と内容を取り消す新聞広告(中央紙各紙)、さらには単行本の発行差し止めと回収を求めたものである。
◇弁護士報酬6000万円
提訴の直後、わたしは文春を通じて横田氏に取材を申し入れた。しかし、この時点で、被告になっているのは文春だけで、横田氏は訴外であることが分かった。
裁判の当事者ではない横田氏から裁判についての話を聞き出して公にした場合、文春の見解と異なることもあり得るので、戦略上、文春に不利に作用する可能性がある。そんなわけで文春も横田氏もわたしの取材には乗り気ではなかった。結局、被告側の取材はできなかった。
一方のユニクロは、「本件に関する当社側の主張」として、取材者であるわたしに対して訴状(記事末尾に訴状の全文)を送付してきたほか、質問にも書面で回答した。
ちなみに横田氏を訴外にした理由について質問したところ、次のような回答があった。
雑誌・書籍の発行責任はあくまでも文藝春秋社にあると考えております。
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弁護士の成功報酬は6000万円。カネの力でねじ伏せる姿勢が訴状からもよく分かる |
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こんなふうに客観的な事実を並べてみると、ユニクロ訴訟は、サラ金の武富士を皮切りに問題になってきたフリーライターを狙い撃ちした言論抑圧のための裁判、SLAPPと同列に考えることはできない。基本的には、『ユニクロ帝国の光と影』に書かれた内容そのものが不満で、提訴に至ったと考えるのが妥当だ。
ただ、訴状によると「勝訴時に各1000万円の弁護士報酬金の支払いを約した」とあり、文春に請求する2億2000万円の中に高額の弁護士報酬を含めている点は、議論の余地がある。今後、武富士裁判と比較したり、「訴状ビジネス」という批判が上がる可能性もある。
高額報酬を約された弁護士は、次の方々である。
的場徹弁護士
山田庸一弁護士
服部真尚弁護士
大塚裕介弁護士
川口綾子弁護士
片岡祥子弁護士
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ユニクロに対する筆者からの質問と回答。 |
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総計6人であるから、約された弁護士の成功報酬は6000万円ということになる。
この点を別にすれば、ユニクロが名誉毀損とした内容が、事実かどうかという点が、この裁判の最大の関心事になりそうだ。
ユニクロはみずからの「潔白」を立証するために、争点となる名誉毀損的表現が事実ではないという内部資料などを公開する用意はあるのか。
この点について、わたしは次のように書面で質問した。
黒薮:名誉毀損裁判では、被告側に真実性、あるいは真実相当性の立証が求められますが、(原告である)貴社の側から、被告側の記述が誤りであることを示す証拠などを提出される用意はあるのでしょうか?
これに対してユニクロは.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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『AERA』に登場したユニクロの柳井正社長。このところメディアの注目を集めている。 |
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水増しされ、破棄されているという内部告発があるユニクロの折込チラシ。 |
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真実性の証明責任・証明の程度についての判例解説。出典『メディア判例百選』(有斐閣) |
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