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「理論上、ワタミ過労死事件は業務上過失致死の典型例」遺族代理人、堤浩一郎弁護士に聞く

情報提供
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堤浩一郎弁護士(横浜みなみ法律事務所)。ワタミ過労自殺事件の遺族代理人の1人でもある。
 入社2カ月で過労自殺に追い込まれたワタミ社員の記事には、「労基署より警察が動いたほうが」「労災次元の話ではなく刑事事件」といった読者コメントも寄せられた。過労死させることが犯罪と認識され、実際に有罪となれば予防効果も大きいはずだが、過労死事件の責任者が業務上過失致死の容疑で逮捕、起訴されたという話はまったく聞かない。だが、ワタミ事件の遺族代理人の1人で、過労死問題に長年取り組んできた堤浩一郎弁護士は、「現実には困難だが、ワタミ事件は理論上、業務上過失致死の典型例ではないか」という。ではなぜ、過労死は現実社会において刑事事件として捜査、立件されないのか。その理由を聞いた。

 入社2カ月で過労自殺したワタミ社員の働き方を報告した今年3月の記事には、「これだけのことをやっておいて殺人扱いにすらならない」「労基が動くより警察が動いたほうがいいんじゃないの?と思われるような案件」「労災とかって次元の話じゃない。刑事事件で殺人事件」などのコメントも寄せられた。経営者や管理監督者が刑法で裁かれるべき事案ではないか、との考えだ。

 労基法の罰則は軽い。残業時間の上限は36条で労使協定によると定められており罰則もあるが、その罰則はというと、「6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(119条)という程度でしかない。しかも、すべての労働者に対して適用されるわけではなく、36条のただし書き、「坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務」に従事する者が「1日について2時間を超えてはならない」という部分にしか係らない。

 一方で、時折ニュースで報じられるように、工事現場の事故やビル火災などで従業員や利用客が死傷すると、業務上過失致死罪で責任者が逮捕、起訴され、有罪判決が出ることもある。業務上過失致死傷罪は刑法211条で次のように定められている。

(業務上過失致死傷等)
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 入社2年目の電通社員が1991年8月に過労自殺した事件で、最高裁は2000年3月24日の判決で、「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである」と書いた。

 従業員が長時間の過重労働をさせられ生命健康を害するということは、業務上必要な注意を怠った経営者や管理監督者に重大な過失があるのではないのか。

 2005年4月25日に起きたJR福知山線の脱線事故でJR西日本の元社長が業務上過失致死傷罪に問われた裁判で、神戸地裁は今年1月11日、「事故を予見できる可能性はなかった」として元社長に無罪判決を下している。争点になった予見可能性は、過労死事件であれば、過労死基準の長時間労働をさせれば従業員が死ぬ可能性があることは経営者や管理監督者は予見できるはずだし、社会常識からすると予見できなければおかしい。

 ならば、過労死を出した経営者や管理監督者を業務上過失致死罪に問えるのではないか。過労死問題に長年取り組み、過労自殺したワタミ社員・森美菜さんの遺族代理人の1人として労災申請にあたった堤浩一郎弁護士(横浜みなみ法律事務所)に、その可能性を聞いた。堤弁護士は、「現実には非常に困難だが、ワタミ事件は理論上、業務上過失致死の典型例ではないか」という。

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「過労死+犯罪」「過労死+殺人」「過労死+刑事罰」「過労死+刑法」「過労死+業務上過失致死」でグーグル検索したヒット数。「過労死+業務上過失致死」では2万4900件しかヒットしなかった。

◇労災認定にまず全力 刑事告訴の余裕なく
ーー今回とくにお聞きしたいのは、過労死を出した管理責任者や経営者を業務上過失致死罪に問えないのかということ。自殺は扱いが違うかもしれないが、脳・心臓疾患による「過労死」のときは、過重労働させたという重大な過失が責任者にあるのではないか。

 面白い発想であることは間違いない。だが、労災認定を取って損害賠償での責任追及に2〜3年、長ければ10年や15年かかる。それが終わって、あらためて刑事責任を追及するという発想は、まずない。

 なぜかというと、労災認定を取ること自体が非常に難しい。1番目として、まず労災認定を取ることが最大目標になるから。そこに全精力を費やす。2番目は損害賠償請求などによる企業責任の追及

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「過労死を出した責任者を業務上過失致死に問えないか?」の考え図。筆者作成。

ワタミ株式会社人材開発部のクレジットが入った「質疑応答」と書かれた資料。採用応募者や内定者からの疑問に回答するための資料と見られる。これを作った者が「犯人」だと堤弁護士は言う。

「質疑応答」の続き。「『成し遂げる』ことが『仕事の終わり』であり『所定時間働く』ことが『仕事の終わり」ではない」との回答もある。

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nakakzs2013/06/01 02:12

おそらく選挙までに、こういうのがごっそり他の政党からも攻撃材料として出されるのだろうなあ。今でさえ不自由しないくらいだし。

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読者コメント

DecentWork2012/09/20 23:17
応援会員X2012/09/01 20:05会員
ポル・ポト2012/05/10 18:59
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