My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

いじめと自殺の因果関係・予見可能性も認定された名古屋・市邨学園事件から見える「親の防御策」

情報提供
ReportsIMG_J20120918140910.jpg
中学時代に受けたいじめの後遺症によって苦しみ、高校2年生のときに自殺した高橋美桜子(みおこ)さん(当時16歳)
 愛知県岩倉市の高橋美桜子さん(当時16歳)は、中学時代のいじめによって解離性同一性障害などと診断され、2006年、高校2年生のときに自殺した。美桜子さんの母親、典子さん(54)が学校法人市邨学園(名古屋市瑞穂区)や当時の担任らを相手に損害賠償を求めた控訴審(名古屋高裁)が2012年9月10日、結審した。一審では、原告の主張がほぼすべて認められている。継続的で悪質ないじめ、ずさんな学校の対応、その結果として解離性同一性障害になったこと、闘病の末に自殺したこと、そしていじめと自殺の因果関係――。いじめと自殺の因果関係の認定は一般的に難しく、画期的な判決だった。子どものいじめに際し、親は、最悪の事態でなお泣き寝入りしないために、何をしておくべきなのか。本件で役だったのは、母親による録音やメモといった証拠類だ。典子さんに詳細を聞いた。(訴状はPDFダウンロード可)
Digest
  • 一審判決は、原告側の全面勝訴
  • いじめの始まりと学園側の対応
  • ショックな担任の対応
  • 転学しても苦しむ「いじめ後遺症」
  • 解離性同一性障害の発症。そして自殺
  • 求めていたのは加害生徒の反省と謝罪
  • 「私学の自主性」の壁

一審判決は、原告側の全面勝訴

典子さん=愛知県刈谷市に在住=は、美桜子(みおこ)さんが通っていた市邨学園と、その理事長、担任、加害生徒を訴えた。2011年5月20日の一審判決で、名古屋地裁(長谷川恭弘裁判長)は、以下の事実を認定している(時期を記載していないものは、2002年9月から2003年3月までの間に行なわれたものとして)。

a 美桜子を避けたり、仲間はずれにした。

b 毎日のように、教室のロッカーの近くに集まるなどして、美桜子について、「ウザイ」、「キモイ」、「死ね」、「天然パーマ」、「(眉毛が)太すぎなんだよ」、「油ういとるけど」、「毛が濃い」、「毛が濃いのに出さんといて」、「ニキビ」、「汗臭い」、「反吐が出る」などと繰り返し言った。

また、授業中の美桜子の発言に対し、「今日もうざいんだけど」「うるさい」などと言うこともあった。

c 美桜子の机の横に掛けてある鞄を蹴るなどして、スリッパの跡をつけた。

d 授業の合間に、机の上に置いてある美桜子の教科書やノートに、「ウザイ」「キモイ」「死ね」などと書いたり、いすの裏側に「死ね」とチョークで書いたりした。

e 教室を掃除する際、美桜子の机の下にわざとごみを集めて、周囲を汚くした。

f 美桜子が自分のロッカーに貼っていた、アイドルグループ「嵐」の相葉雅紀のポスターを破った。

g 美桜子の教科書を隠したり、美桜子の机だけを教室の外に出すなどした。

h 黒板に美桜子の顔を書いて、それに向かってスリッパを投げつけた。

i 03年3月11日ころ、靴箱に入れてあった美桜子の靴の中に画鋲を入れた。

j 「終了式」のあった03年3月20日、美桜子が登校したところ、「臭いから空気の入れ換えをする」などと言い、教室の窓を開けた。

そして、市邨学園に対しては、以下の義務があった、とした。

1)トラブルに関係した生徒及びその保護者からの情報収集等を通じて、事実関係の把握を正確にかつ迅速に行なう。

2)現場の教員の目の届かないところでいじめが行なわれるのを避けるために、トラブルの当事者以外の生徒からも事情を聴くなどしてその実態を的確に把握する。

3)加害者側の生徒に対し、生徒間での行為でも、いたずらや悪ふざけに名を借りた悪質で見過ごし難いものであり、時として重大な結果が生じるおそれがあることを認識、理解させ、直ちにやめるように厳重な指導を継続する。

4)いじめについてのアンケートの調査を実施したり、道徳の時間やホームルームの時間にいじめの問題を取り上げ、クラスでの討論、発表等を通じて、クラスの生徒全体にいじめに対する指導を行なう。

5)生徒間でのトラブルについて、学年会で指導方法について協議して、複数の教員と意見を交換したりするなど教員相互間の共通理解を図って共同で指導に当たったり、中学校担当副校長や校長に報告して指導を仰ぎ、組織的対応をとる。

その上で、美桜子の精神的負担が累積、増大し、心身に大きなダメージが生じるほか、場合によっては自死という結果を招くおそれがあることを予見することも十分可能であった、とした。

学校法人市邨学園と当時の理事長・校長・学級担任に対し、約1490万円の損害賠償を命じる判決となった。

この判決は、いじめと、それに伴う後遺症である解離性同一性障害、そして自殺との因果関係、さらに自殺予見可能性を認めたものとして画期的といえる。

「絶対に勝つと思っていた」という典子さんは、判決について「裁判の進行協議でも、裁判長が判決を確定させたいという思いがあったと思う。弁護団も、これほど原告に寄り添った内容は、ハンセン病訴訟の判決くらいしか見たことがない、と言っていました」と話している。

しかし、判決不服で学校側は名古屋高裁に控訴。12年9月10日に結審した。控訴審判決は12月25日。

ReportsIMG_I20120918140910.jpg
後遺症によってフラッシュバックをすることが頻繁にあった美桜子さん。そのときに筆談したメモ

いじめの始まりと学園側の対応

美桜子さんはカナダ人の父親と典子さんとの間で生まれた。1歳半のときに両親が離婚。4歳のときに、典子さんと帰国した。小学校は公立に通うが、中学校は私立の市邨学園名古屋経済大学市邨中学に入学した。典子さんは、市邨が運営する短大の准教授だった。

「自分のゼミ生などに市邨出身の学生がいて、みんなおっとりしてて、いい子が多かったんです。受験で苦労させたくないとも思っていました」

市邨での美桜子さんへのいじめを典子さんが知るのは1年生の夏休み、バトンクラブの練習に参加していた頃。二学期になると、さらに顕著になった。「体調が悪い」と言って、美桜子さんが学校に行くのを嫌がった。典子さんはそのとき、甘えているだけだと思った。しかし、美桜子さんはこう叫んだという。

「いじめられてるから行きたくないの!」

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り5,401字/全文7,465字

美桜子さんのこと、また裁判のことなどについてインタビューに答える母親の典子さん。

美桜子さんの遺書。真っ赤なペンで「みんな愛してるよ。でも、くるしいよ」と書かれている。

いじめの後遺症として、解離性同一性障害を発症した美桜子さん。「いつになったら、普通の女の子に戻れるの?」と悩んでいた。

文科省からの文書での回答があった。しかし、「私学の自主性」の壁は大きい。

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

静子2013/02/04 00:34
解体希望2013/01/09 21:51
あおき2013/01/09 21:11
ppm2012/12/24 19:23
2012/10/02 14:37
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本文:全約7700字のうち約5600字が
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい

新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)

企画「その税金、無駄遣い、するな。」トップページへ
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、info@mynewsjapan.comまでご連絡下さい。会員ID(1年分)進呈します。