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私立高の非常勤講師が違法「業務委託」で劣悪待遇 業者に45%ピンハネされる異常格差社会の教育現場

情報提供
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画像1 高井氏の2年目の委託代明細。週16コマ、1コマ月9,000円で月額144,000円。1授業あたり2,250円弱になる計算。
 私立高の講師として働くため都内の派遣会社「イスト」に登録した高井栄子氏(仮名、29歳)は、埼玉県にある正智深谷高校の非常勤講師を「業務委託」で請負う契約をしていた。請負とすることで、学校側が直接雇用する非常勤講師に比べ、高井氏の年収は約2割低く、労災も雇用保険もなし、健康診断も自腹だ。マージンは45%も抜かれる。高井氏は厚労相と東京労働局長に対し、学校が非常勤講師として直接雇用するよう求めたところ、今年9月、国は学校側とイストに対し、違法な“偽装請負”を是正するよう指導を出したが、未だ直接雇用は実現していない。高井氏と学校、イストへの取材に基づき、業務委託講師の虐げられた労働実態を詳報する。(国への申告書、国の指導票、私教連調査結果はPDFダウンロード可)
Digest
  • 「業務委託」の非常勤講師
  • 年収2割減、労災なし、健康診断も自腹
  • 内定後に突然、「更新はしません」
  • 国が違法認め是正指導
  • 「委託と派遣の違いを認識していなかった」校長
  • 「是正はした」イスト
  • 業務委託講師は他に5校27人、私教連調べ

「業務委託」の非常勤講師

高井栄子氏は、都内の私大を卒業後、教員免許を取得するため、科目履修生として大学に2年間通った。その2年目の夏に、私学適正検査を受けた。のちに業務委託で職を得ることになる、そもそものきっかけは、この時だった。

私学適正検査とは、都内にある私立の中学、高校が加盟する「財団法人 東京私立中学高等学校協会」が主催するテストである。このテストの受験の対象者は、「高等学校教諭免許を取得した人、または同免許状を取得見込みの人」で、テストの目的は、「私立中高の教員志望者の、資質と適性の検査」である。

このテストの試験会場で、イストという会社がビラを配っていた。イストとは都内の代々木にある会社で、教育機関に教員を派遣したり、受験生に家庭教師を派遣したりしている会社である。(旧社名は代々木進学会で2010年から社名変更)。イストのビラを高井氏は受け取った。

季節は移り、同年秋ごろ、「私立の場合、自分で教員の職を探すには限界があるので、イストの派遣で、春から私立の学校で働けたら」という気持ちから、高井氏はイストに派遣登録した。

翌2010年3月、高井氏は、イストからメールで、仕事がある、という連絡を受けた。仕事先は埼玉県深谷市にある、「学校法人智香寺学園 正智深谷高等学校」という私立高校だった。

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画像2 高井栄子氏

高井氏は、すぐにイストに電話をして、働きたい、と伝えた。すると担当のO氏は「それでは、学校に面接に行きます」という。

こうして10年3月下旬、O氏と高井氏は、学校に行き、当時の校長と3人で話した。

面接は、なごやかな雰囲気で、校長が、おだやかな口調で、同校の生徒数約1,100人のうち8対2で男子の生徒数が多いことに触れ、「それでも大丈夫かな?」と聞いたり、うちはスポーツが強い、といった話をしながら、スポーツクラスは全員男子生徒で、そこを担当してもらいたい、と言い、「それでも大丈夫?」と聞いてくるなど、面接というより、説明のニュアンスだった。

こうした穏やかな会話の後、高井氏だけ先に帰るように言われた。そして、徒歩約5分のJR深谷駅に着いたときに、担当者O氏から「決まりました」と連絡が入った。

高井氏は後日、契約書にサインをして、10年春の新学期から授業を受け持つことになった。科目は現代社会。出勤は週2回、計10コマ。収入は1コマ当たり月9,000円で、月収90,000円プラス交通費。この契約は、派遣契約ではなく「業務委託契約」だった。

年収2割減、労災なし、健康診断も自腹

こうしてスタートした高井氏の授業は、別段問題なく推移したが、5月にこんなことがあった。教職員の健康診断があったのだが、学校側から、「高井氏は受けられない」と言われ、問診票をもらえなかったのだ。理由は、「会社から来た人だから」というものだった。

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画像3 上は正智深谷高校。下はJR深谷駅

高井氏は自腹で健康診断を受けることを余儀なくされた。他方、学校が直接雇っている非常勤講師は、健康診断を受けることができた。この違いは一体何なのか――。高井氏が自らの待遇に疑問を持ったのは、これがはじまりだった。

さらに疑問がわいたのは、年に5回ある定期テストが始まった時だった。高井氏はテスト問題をつくり、担当した計5クラス約150人分の、採点をして、評価入力といって点数をコンピュータに入力する作業をした。さらに、生徒たちに請われて、放課後にテスト対策のための補習を行ったり、赤点の生徒には後日再試を行い、不合格者には再々試も行った。

高井氏によると、テスト問題の作成には2週間、約10時間を費やしていたという。さらに採点には1クラスにつき1時間で計5時間。成績入力に約2時間。補習や再試、再々試を含めると、一回のテストにつき、授業以外の労働時間は優に20時間を超える。1年間で100時間以上である

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画像4上は都内の代々木にあるイストのあるビル。下はイストと学校、高井氏の3者が交わした業務委託契約書

画像5指導票1ページ目全文は記事末尾からダウンロード可

画像6非常勤講師の勤務実態を調査結果(私教連調べ)。全文は記事末尾からダウンロード可

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