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内側から見た築地

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セリの様子。結構馴れ合いでだらだらやってる。

私は孝行息子なので(ウソ)、新年は実家に帰ってしまった。といってもすることがないので、築地の初荷を見学させてもらうことに。うちの親は無趣味で、家では両親とも、いつもゴロゴロ寝転んでるだけだから、帰っても退屈してしまうのだ。

私は母方の実家が本屋で、父方の実家が鮪仲卸業である。ともに爺さんが会社を作った。

両親とも本を読まない人なのに、なぜか子供は物書きを仕事にしている。私が商売としてジャーナリズムをできているのは、商売人の血が流れているからだろう。延々と仕事をし続けるワーカホリックなところや、勤め人をやる気がないのは、父の影響だと思う。

驚くのは、相変わらず何も変わっていないことだ。母は「楽して生きる」がモットーのようで、家でゴロゴロして空いた時間にちょろっと家事。努力とか進歩とかいう概念は持ち合わせていない。父は毎朝3時ごろ機械のように自動的に起きだして築地に向かい、昼過ぎに帰ってきて事務所へ、夜帰ってきて居間でゴロゴロ。私が物心ついてから今に至るまで、この光景に1ミリの変化もない。相変わらず元気で健康だ。

 「変わらなくていいから、この歳でもやっていけてるんだ」(父)。そのとおりだ。私が生まれる前からなので、職場環境が40年も変わらないというのは幸運としか言いようがない。高橋俊介氏が言うところの「 キャリアショック 」にも見舞われず、自分が変化せずとも、リッチな人生を送れた。一歩間違えば派遣村だったかもしれない。

団塊の世代は、まさにそういう「キャリアショックがない時代」を生きた。その前の時代、明治生まれの父方の爺さんはもともと投網を得意とする漁師を30代までやっていて、それから築地の仲卸を創業したから、職を変えている。

そして団塊ジュニア以降の我々の世代も、ずっと同じ会社で同じ仕事をやり続けるのが困難な時代を生きる運命にある。それは、鮪の仲卸業という業界ごと衰退している築地を見ればよくわかる。会社の寿命も業界の寿命も、いい時代は30年くらいのもの。一方で人間は80年生きるから、多くの人はキャリアチェンジを要する。

■午前3時出勤

1月5日は初荷で、朝はさらに30分以上早い。午前2時半起きで家を出る。朝じゃなくて深夜だ。父は貼り付け型のホカロンを背中に貼り、いったい何枚着るんだよ、というくらい着込む。私は既に今シーズン売り切れ御礼のユニクロ・ヒートテック長袖で十分。

ファックスの注文シートを持って出勤。私は従兄弟の冷凍車で連れて行ってもらう。配達用だ。会社は、父と、父の兄で経営している。従兄弟は、その兄の長男、つまり3代目の次期社長である。車が少ないので10分ほどで着く。

午前3時7分。築地市場の駐車場に到着。氷を扱うので市場は外より寒い。店に向かう。

1店舗あたりは、見た感じ幅5メートル×奥行き7メートル、10坪くらいのもの。場内市場の店舗数は700とも1000とも言われ、東京都がオーナーだ。ほかに場外に400店。テリー伊藤は、兄が場外市場商店街で玉子焼き店を経営しているが、うちは場内のほうである。

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このスペースで1店舗。冷凍庫、電ノコ、捌き台、帳場。

場内1店舗あたりの営業権は、バブル期に2億円前後にも高騰していたが、現在は何と5百万円ほどで取引されているという。確かに地方の商店街のように、いくつか歯抜けで営業していない店もあった。

鮪仲卸業では大手だった『ヨモ七』が去年経営破たんし、店はガラガラ。

とはいえ、場内はまだまだ十分、活気はあると感じた。

うちの会社は90年代に店舗を買い増し、10店舗あまりになった。その買値は、1億8千万円、1億6千万円、7千万円、1200万円と下がっていった。儲かっていたから法人税対策にはなったが、10年余りで価値が10分の1以下になってしまったのだから、愚かな投資だった。仲卸業の盛衰がよくわかる数字だ。

豊洲に移転するにあたって、「都が2千万円で買い取る条件ならみんな喜んで売る」と言っていたが、さすがに共産党が許さないだろう。

場内市場は、商社などを介した市場外取り引きが増えた結果、あまり必要でない機能になりつつあり、従って店舗を持つことの価値も下がっているのだ。

昔と違って店まで毎日品定めに来る寿司屋などは少なく、売上の多くを占めるのは地方の魚屋(「まかない屋」などと呼ばれる、地域の料亭などに魚を運んで回る二次卸)だったり、昔からの付き合いの高級スーパー(三浦屋とか)など、勝手知ったるお客さんだから、電話とファクスで済む。物流も、運送会社に頼めば当日配送の時代になった。

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社内でも、電ノコで指ごと切ってしまった例がある

セリは午前5時開始である。その前は、冷凍庫から商品を出して顧客の注文に合せて切ったり、発送用の箱を用意したり。どこの流通業でもありそうな仕事だ。

箱は近くのうなぎ屋で余ったものを1つ50円で貰ってくるという。商品の冷凍マグロには、価格が自社内でしか分からない暗号で書かれている。

■セリ場へ

セリ場は3つあって、生の本鮪、冷凍の本鮪とインド、冷凍のメバチ、キハダなどと分かれている。

マスコミは例年、バカの1つ覚えのように初セリの価格を横並びで報道するが、一番高い値がつくのは生の本鮪である。

マスコミ用に仕切られた場所に、外国メディアも含め、新聞テレビの主要各社が来ていた。

私は内側から見ていたが、そんなに何十社もで報道する価値があるのかね、と思う。代表取材が2~3社あって、その配信を受ければ済む話じゃないか。

中身は理事長の挨拶と、セリの映像と、競り落とした金額と店。どうせそれだけだ。マスコミがニュースバリューを判断できず、無駄なコストを前例踏襲・横並び体質で使いまくっている。

こいつらを独自ニュースや調査報道に少しでも振り分ければ、日本のニュースは面白くなるのに。

この無駄な混雑がマスコミのダメっぷりを象徴していると思った。

「は~い、マスコミのかた、約束の時間です、退散してください」と報道担当の職員が仕切って、消えていった。

報道によると、この日、大間産の生本マグロが1匹1628万円で落とされ、これは前年比1.7倍の高値だった。

私は親父のセリを見に行くため、メバチのセリ場へ。初荷なのに、こちらは混んでいない。手カギと懐中電灯が、品定めの2つ道具だ。人によって見方は違うらしいが、センスの問題で、ダメな人は上達しないらしい。いいものを安くセリ落とせば、その2倍の価格で売ることも可能というから、かなり付加価値の高い業務だ。ギャンブルの要素もあり、面白みはある仕事である。

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ただいま物色中の親父

手カギで冷凍マグロをコツコツ叩き、ライトを当てて色を見る。コツコツ叩くのは、その感触で脂の厚みを感じ取るためだ。頭のほうから見たときの全体のスタイルのよさをまず見るという。太りすぎているのがダメだとか色々あるそうだが、このあたりは経験に基づく職人技でマニュアル化できないところだろう。

さらに、顧客の注文を頭に入れながら、顧客の要望や好みに合った鮪を競り落とさないと顧客満足度が下がるため、顧客対応とセリは切り離せない。色や脂の多さなど顧客によって好みが異なる。

5時20分、セリが始まる。セリ人が意味不明の絶叫をしながらすごい勢いで進めていく。もっと冷静にやればいいのに、あの威勢のよさは何か意味があるのだろうか。番号順に、価格を上げていって、仲卸人が昔の東京証券取引所みたいに指で価格を示して、高い価格を示した人がセリ落とす。オークションである。

「キロ1300円から入って、1800円で買っちゃった」(親父)

1本あたり80キロとか100キロとかなので、18万円になる。

台の上に載って価格を示す仲卸人は、欲しい鮪のセリが始まると手を挙げだすのだが、自分と関係がない鮪がオークションにかかっているときは無関心そのものでしゃべくってたりするのが面白い。

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通りすがり2010/01/14 23:54
TS2010/01/13 22:55
hibiya2010/01/13 13:21
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