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欄干修理代めぐり女性が自殺 遺族が告発する北海道開発局の猛烈取り立て

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「かいはつ(北海道開発局)は私を死においやった」と書き残された遺書。交通事故で橋の欄干を壊したのが苦悩のはじまりだった。
 自動車事故で壊れた橋の欄干(らんかん=手すりのこと)の修理代150万円を払え――。国土交通省北海道開発局から頻繁な請求を受けていた釧路市内の無職女性(享年32)が、今年1月、これを苦に自殺していたことがわかった。支払い困難を訴える女性に対して、職員数人がかりで自宅を訪問し、「4000円」や「2000円」といった、なけなしの金を集金するなど、悪質なサラ金顔負けの回収ぶりが発覚。遺族は「娘は開発に殺された」と、やり場のない怒りに耐えている。
Digest
  • 「道路付属物等損傷に係る金銭債務」
◇「かいはつ」--遺書に残された言葉の意味
 警察庁によれば、2009年度の自殺者数は前年より596人多い3万2825人。1998年度以降12年連続の3万人台、8年続けて3万2000人を超す事態となった。動機の中で目立つのは前年より937人も増えて8377人を数えた「生活・経済苦」、そして同714人増で5867人の「健康問題」だ(重複あり)。

 政府にとって自殺防止は最重要課題のひとつである。2006年には自殺対策基本法も施行され、国を挙げて取り組んでいるはずだった。

 そのさなかの2010年1月31日、厳冬期の釧路市で、ひとりの女性が首を吊って自殺した。A子さん(享年32歳)。現場の自宅に残された手帳には、乱れた字でこう書き残されていた。
 …開発からお金のせいきゅうくるから
 しんでからそのお金
 ぜんがくいかなくても…
 払うとすっきりしたい
 さいきんは…しんで借金
 へんさいしたい
 うつのげんいんはかいはつ
 うらんじゃうな
  (中略)
 ゆうことをきかず私に請求を
 ゆってきたかいはつは
 わたしを 死に おいやった 
(一部省略・適宜改行した)

 A子さんの両親や夫ら遺族がこの遺書をみたとき、どういう意味なのかまったくわからなかったという。繰り返し出てくる「かいはつ」「開発」という言葉が何を指すのか。「かいはつは私を死に追いやった」とはどういうことなのか。

 「開発」が何者なのかはまもなく判明した。通夜の際、見知らぬ人物から3000円の香典が届けられた。その肩書きが「開発」だったのだ。北海道開発局釧路開発建設部(釧路市)のことである。

 「香典帳に載っていたんだよね。え、うそでしょって。何なのって。何で来たのって。何か事情があるんだねって…」

 両親が振り返る。

 北海道開発局は札幌市にある国土交通省の出先機関である。さらにその末端組織が釧路開発建設部だ。道路や河川、港湾、空港の整備・管理を担う。同開発建設部の2009年度予算額は428億円。

 そんなところと商売の取り引きをしているわけでもなく、A子さんが亡くなった事実を連絡した覚えもなかった。

 いぶかしむ遺族のもとに、約2ヶ月後の今年3月1日、一通の封書が届いた。差出人は「北海道開発局釧路開発建設部」とある。封をあけるとA4版1枚のワープロ打ちの手紙が入っていた。

「道路付属物等損傷に係る金銭債務」

〈突然のお手紙、大変失礼いたします。  ご令室様のご逝去を悼み、心からお悔やみを申し上げます〉

 そうした書き出しで手紙ははじまる。
 〈さて、すでにご承知のことと思いますが、ご令室のA子さまは国に対して道路付属物等損傷に係る金銭債務を負っておられ、この1月まで不定期ですが分割して納付していただいているところです。ご令室様のご逝去により、今後この債務の残額をどのように取り扱うこととするか当方で確認させていただくことが必要となりました。…〉
 「すでにご承知のことと思いますが」とあるが、承知どころかやはり遺族にはわからなかった。どうやらA子さんに借金があったらしいとは想像できたが、何の借金なのか、いくらなのか、見当がつかない。

 法律家の助けが必要だ――そう判断した遺族は弁護士に相談することにした。引き受けたのは釧路弁護士会所属の今瞭美弁護士。釧路市の事務所を拠点に、多重債務問題などを中心に精力的に働くベテラン弁護士だ。今氏は遺族から事情を聴いた後、北海道開発局側に質問状をだして説明を求めた。
 
 おぼろげながらことの輪郭が見えてきたのはこのあたりからである。  

 開発側が今弁護士に説明したところでは、A子さんの国に対する借金は128万4325円。もともと149万5325円あったが、このうち20万円あまりはすでにA子さんが払っているので、128万円はその残りだった。それだけの金銭を相続人である遺族に払ってほしい―ーそれが開発側の言い分だった。
 
 A子さんが請求されている「149万円とは、彼女が起こした交通事故で壊れた橋の欄干の修理費だった。なぜA子さんが払うはめになったのか、いきさつは後述する。

 約150万円のうち20万円あまりを払ってきたA子さんだが、すんなり払えたわけではなさそうだ。A子さんは無職かせいぜいアルバイト程度の仕事にしかついたことがない。

 開発側が開示した入金の記録によれば、支払いは2002年4月30日からはじまっている。

 (2002年)
 ●4月30日 3万円
 ●6月3日  3万円
 ●7月2日  3万円
 ●8月30日 3万円

 毎月1回3万円。4度ほど順調に払ったA子さんだが、8月以降は支払いが途絶える。再び返済をするようになったのは4年以上がすぎた2006年10月25日のことだった。

 (2006年)
 ●10月25日 5000円
 ●12月5日  2000円
 ●12月25日 2000円
 ●…

 5000円、2000円と一回の支払い金額が低くなっている。支払いの時期も一定ではなく、しばしば何ヶ月にもわたって入金が滞っている。その頻度は年を追うごとに高くなり、2009年は1年を通じて4回の入金しか記録されていない。1月8日の1万円、4月30日の4000円、8月4日2000円、10月7日3000円――の4度だけだった。

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国土交通省北海道開発局釧路開発建設部(釧路市)。筆者の取材に対して「個人情報保護」を理由にノーコメントを続けている。
◇サラ金顔負けの猛烈回収

 2000円、3000円という入金の仕方はまるで金策に窮する多重債務者のようだ。どうみても余裕のある者の払い方ではない。尋常ではないものを感じた今弁護士は、請求や回収のやり方についてさらに説明を求めた。

 やがて、開発側から一連の集金や連絡の経緯を記録した文書が送られてきた。

 (2006年)
 ●10月25日(訪問)5000円集金
 ●18年12月5日(訪問)2000円集金
 …

 一見して今弁護士は驚いた

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A子さんが北海道開発局から約150万円の請求を受けるきっかけは、2001年7月の自損事故だった。事故現場で撮影された欄干の損傷部分(遺族提供)。

事故から約9年がたった羅臼町国道334号線熊越橋の現場付近。ブロンズ像をあしらうなど観光客を意識したぜいたくな構造となっている。

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akagami_ext2010/06/04 17:33

ホントに150万円近くするのか…? ちょっとおかしすぎねえか?

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tt2016/04/03 17:18
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