入社2週間で過労自殺発生の高級パン屋「モンタボー」事件 裁判所が認定した過労自殺ライン
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東京・麻布十番にあるモンタボー本店。Bさんの勤務していた西友光明池店はすでに閉店している。 |
※モンタボーのブランドは現在、株式会社スイートスタイルによって使用されているが、Bさんが入社したのは株式会社モンタボー。両者は別会社である。スイートスタイル社の沿革によると、株式会社モンタボーと別会社が合併してスイートスタイルとなった。記事中の会社名などはすべて当時のもの。
当時23歳、入社18日目に過労で亡くなった社員の労災認定を争った裁判で、原告(遺族)と被告(国)の主な主張は、まとめると以下のとおりだった。
左=原告/右=被告
労働密度:非常に高かった/過密ではなかった
労働時間:超長時間だった/常識の範囲内だった
会社の支援:不十分だった/不十分ではなかった
業務の困難さ:困難だった/困難ではなかった
上司の指導:「ひどいいじめ」だった/社会的に相当だった
心理的負担:強かった/強くなかった
まず、Bさんがどんな働き方をしていたのか見ておきたい。
◇労働密度:忙しさは「半端なものじゃなかった」と店長
光明池店は、Bさんが自殺する10日前の1月16日に新規オープンした店舗だ。プレオープンは15日。Bさんは、同店のオープンスタッフとして前年12月、販売職の正社員に採用され、準備段階の9日から同店で働き始めた。Bさんは専門学校在学中から2年間、飲食店でアルバイトをした経験はあったが、正社員として働くのは初めてで、パン販売の経験はなかった。
新規オープンのパン屋の忙しさは大変なものだそうだ。店長(製造職)によると「普通じゃない忙しさ」で、経験のない社員なら「パニック状態になるというたら変ですけども、それぐらい忙しい」という。
プレオープンした1月15日(月)の来客数は1296人。時間帯による混雑の変化を無視しても1時間平均108人になる。光明池店の営業時間は午前9時から午後9時までの12時間で、セブンイレブン1店舗の平均来客数が1日あたり約1000人というから、セブンイレブンの2倍以上だ。
実際の来店者数は次のとおり。
1月15日(月)…1296人
1月16日(火)…1175人
1月17日(水)…1363人
1月18日(木)…1182人
1月19日(金)…1119人
1月20日(土)……918人
1月21日(日)…1002人
1月22日(月)……831人
1月23日(火)…1047人
1月24日(水)……817人
1月25日(木)……691人
モンタボーの子会社で同店の経営をおこなう株式会社デッセルの副部長は、応援メンバーとして同店に派遣されていた。Bさんの直接の指導担当だ。副部長は、来客が途切れない様子を次のように話している。
「午前9時に開店してから1時間くらいの午前10時くらいまでは、少し、お客さまの入りが落ち着いていましたが、しばらくすると、客が列をなしてひっきりなしの状態になって、そのような状況が午後2時、3時くらいまで続きました。それからちょっと楽になったなと思ったら、夕方になると、また、込みだしました」
そんな忙しさが1週間以上も続いており、副部長にとっても「予想以上の反響」だった。
「通常オープンしてしばらくすれば忙しさは落ち着くのですが、とにかく光明池店は予想以上の反響があって、オープン後もオープン直後のお客様の数が衰えず、なかなか忙しさが一段落するということがありませんでした」
店長も、忙しさは「半端なものじゃなかった」「最初に立てた計画よりも、やっぱりたくさん人が入られまして、大変な日が続いた」と言う。
これが2月になると1日平均615人、3月には550人にまで減少する。売り上げもオープン当初の5日間が平均60万円だったのに対し、2月は約29万円、3月は約24万円に下がっている。
店長は高校を卒業してからパン一筋の人物で、20件ほどの新規オープンにも立ち会った経験がある。経験豊富な店長が、新店の売り上げが予想の2倍ほどになったことは1~2店しかなかった、他店に比べてすぐに辞めていく人が多かった、と話すほどだった。辞めていく人の多さについて裁判所も、「開店時に採用されたパート及びアルバイトの大半が2カ月程度で辞めている」と判決に書いている。
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勤務時間。根拠不明の残業代についても述べている。(判決文から)![]() |
◇労働時間:「2日分の仕事を1日で」 2週間で156時間労働
このような忙しさのなか、Bさんは13日から23日まで11日間の連続勤務をすることになる。オープン後はほぼ毎日、13時間から15時間も働いていた
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判決と事件の概要。(判決文から)
業務上の負担についての裁判所の判断
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"いったい、どのような労働実態が証拠として残されていれば、裁判所は「過労自殺」と判断するのか。3度にわたって労災認定を拒否し続けた国と遺族との攻防を追った"
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読者コメント
Bさんはカッターナイフまで持ち出して暴れまわっていました。パン屋さんについて理解できない方というのは中にはいらっしゃいます。すぐ辞めていただくべきでした。
私は目撃した。Bさんは嫌がらせでわざと店に居座り長時間いただけだ。売り上げもいたって普通の売り上げである。返金求めます。
お気の毒ではあるが、冷静に考えて2週間程度の勤務でうつ病が発症してしまうのか疑問。
記者からの追加情報
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