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入社2週間で過労自殺発生の高級パン屋「モンタボー」事件 裁判所が認定した過労自殺ライン

情報提供
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東京・麻布十番にあるモンタボー本店。Bさんの勤務していた西友光明池店はすでに閉店している。
 10年前の2001年1月26日、全国展開する高級ベーカリー「モンタボー」西友光明池店(大阪府堺市)の男性新入社員、Bさんがうつ病を発症し、自殺した。当時23歳。1月16日に新規オープンした同店で、1月9日から働き始めて18日目の悲劇だった。労災認定を求めた遺族による長きにわたる裁判の結果、過労による自殺と認定されたのは、2009年1月14日(大阪地裁、中村哲裁判長判決)。いったい、どのような労働実態が証拠として残されていれば、裁判所は「過労自殺」と判断するのか。3度にわたって労災認定を拒否し続けた国と遺族との攻防を追った。(判決文は末尾でPDFダウンロード可)

※モンタボーのブランドは現在、株式会社スイートスタイルによって使用されているが、Bさんが入社したのは株式会社モンタボー。両者は別会社である。スイートスタイル社の沿革によると、株式会社モンタボーと別会社が合併してスイートスタイルとなった。記事中の会社名などはすべて当時のもの。

 当時23歳、入社18日目に過労で亡くなった社員の労災認定を争った裁判で、原告(遺族)と被告(国)の主な主張は、まとめると以下のとおりだった。

 左=原告/右=被告

 労働密度:非常に高かった/過密ではなかった
 労働時間:超長時間だった/常識の範囲内だった
 会社の支援:不十分だった/不十分ではなかった
 業務の困難さ:困難だった/困難ではなかった
 上司の指導:「ひどいいじめ」だった/社会的に相当だった
 心理的負担:強かった/強くなかった

 まず、Bさんがどんな働き方をしていたのか見ておきたい。

◇労働密度:忙しさは「半端なものじゃなかった」と店長
 光明池店は、Bさんが自殺する10日前の1月16日に新規オープンした店舗だ。プレオープンは15日。Bさんは、同店のオープンスタッフとして前年12月、販売職の正社員に採用され、準備段階の9日から同店で働き始めた。Bさんは専門学校在学中から2年間、飲食店でアルバイトをした経験はあったが、正社員として働くのは初めてで、パン販売の経験はなかった。

 新規オープンのパン屋の忙しさは大変なものだそうだ。店長(製造職)によると「普通じゃない忙しさ」で、経験のない社員なら「パニック状態になるというたら変ですけども、それぐらい忙しい」という。

 プレオープンした1月15日(月)の来客数は1296人。時間帯による混雑の変化を無視しても1時間平均108人になる。光明池店の営業時間は午前9時から午後9時までの12時間で、セブンイレブン1店舗の平均来客数が1日あたり約1000人というから、セブンイレブンの2倍以上だ。

 実際の来店者数は次のとおり。

1月15日(月)…1296人
1月16日(火)…1175人
1月17日(水)…1363人
1月18日(木)…1182人
1月19日(金)…1119人
1月20日(土)……918人
1月21日(日)…1002人
1月22日(月)……831人
1月23日(火)…1047人
1月24日(水)……817人
1月25日(木)……691人

 モンタボーの子会社で同店の経営をおこなう株式会社デッセルの副部長は、応援メンバーとして同店に派遣されていた。Bさんの直接の指導担当だ。副部長は、来客が途切れない様子を次のように話している。

「午前9時に開店してから1時間くらいの午前10時くらいまでは、少し、お客さまの入りが落ち着いていましたが、しばらくすると、客が列をなしてひっきりなしの状態になって、そのような状況が午後2時、3時くらいまで続きました。それからちょっと楽になったなと思ったら、夕方になると、また、込みだしました」

 そんな忙しさが1週間以上も続いており、副部長にとっても「予想以上の反響」だった。

「通常オープンしてしばらくすれば忙しさは落ち着くのですが、とにかく光明池店は予想以上の反響があって、オープン後もオープン直後のお客様の数が衰えず、なかなか忙しさが一段落するということがありませんでした」

 店長も、忙しさは「半端なものじゃなかった」「最初に立てた計画よりも、やっぱりたくさん人が入られまして、大変な日が続いた」と言う。

 これが2月になると1日平均615人、3月には550人にまで減少する。売り上げもオープン当初の5日間が平均60万円だったのに対し、2月は約29万円、3月は約24万円に下がっている。

 店長は高校を卒業してからパン一筋の人物で、20件ほどの新規オープンにも立ち会った経験がある。経験豊富な店長が、新店の売り上げが予想の2倍ほどになったことは1~2店しかなかった、他店に比べてすぐに辞めていく人が多かった、と話すほどだった。辞めていく人の多さについて裁判所も、「開店時に採用されたパート及びアルバイトの大半が2カ月程度で辞めている」と判決に書いている。

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勤務時間。根拠不明の残業代についても述べている。(判決文から)

◇労働時間:「2日分の仕事を1日で」 2週間で156時間労働
 このような忙しさのなか、Bさんは13日から23日まで11日間の連続勤務をすることになる。オープン後はほぼ毎日、13時間から15時間も働いていた

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判決と事件の概要。(判決文から)

業務上の負担についての裁判所の判断

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jiangmin-alt2011/01/21 15:57

"いったい、どのような労働実態が証拠として残されていれば、裁判所は「過労自殺」と判断するのか。3度にわたって労災認定を拒否し続けた国と遺族との攻防を追った"

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業界主2020/03/21 18:11
業界主2020/03/21 17:37
たたた2011/01/29 15:16
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記者からの追加情報

遺族の代理人弁護士と相談の上、進行中の裁判上の理由等により、記事中にあった個人名を消去しました。記事の内容には変更ありません。(2011/1/25)
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