キャッシュレス化・電子決済手数料「7円」「0.1%」…理想的なオランダ、銀行利益優先で国民の利便性と国家の生産性が犠牲になる日本
入口で「NO CASH CARDS ONLY」をわかりやすく信号表示するオーガニックスーパー『marqt』 |
- Digest
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- 非接触式、加盟店手数料は金額にかかわらず「5.5セント」
- 支払いサイクルはデビットが翌朝入金、クレジットも翌週
- 非接触デビットで手数料1%未満が最低条件か
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非接触式、加盟店手数料は金額にかかわらず「5.5セント」
「HIER ALLEEN PINNEN」(ここではPIN=デビットのみ)「ONLY PIN&credit card NO CASH」
「NO CASH PIN OR CREDITCARD ONLY」
上から『Vegan Junk Food Bar』『Men Impossible』『Kounosuke』『marqt』。いずれも現金お断りをお客に伝えている。 |
オランダでは、普通に街を歩いていて「NO CASH」をうたう店に出会う。それも近年、新規オープンしたクールな店、若者向けの店に多い。冒頭写真はオランダで18店あるオーガニック系スーパー『marqt』。店舗数を拡大中のファストフードバーガー店『Vegan Junk Food Bar』も現金お断りで、注文時に決済が必要だから、手持ちが現金しかない人は門前払いを食らう。食後払いのレストランでも、ネットの予約ページで予め『PIN only』と明示されていたりする。もはや現金主義者は、ファストフードもレストランもスーパーも、利用しにくくなりつつある。
オランダのデビットつき銀行カード(PIN)。この左下の電波マークが非接触式を示す。 |
PINというのはオランダではデビット(口座即時引落し)払いを指し、日本のSUICAやEDYのように非接触式が普及し、かざすだけで一瞬にして決済が完了するという、超生産性の高いパーフェクトな決済手段だ。25ユーロ以上の決済に限り4桁の暗証番号(PIN code)を打ち込む必要があることからPINと呼ばれ、クレジットカード(こちらもPINは求められるのに…)とは区別して呼ばれる。PIN=「物理的な銀行キャッシュカードと一体化したデビットカード」である。PINが圧倒的に国民の間で普及し、既にデビット決済が全体の6割。最近ではスマホアプリ版も一部で始まっているそうだ。
デビットオンリーの店に対し、筆者は当初、以下のような疑問を持っていた。
②カード決済では店側に手数料もかかる(コスト増)。売上を減らしてコストが増えるのでは、踏んだり蹴ったりでは?
③ファストフードやスーパーはともかく、レストランでは食事を終えたあとの支払い段階になって、トラブルにならないのか。スウェーデンでは「現金を受け取らない」ことが合法化され、店側が正当に現金を拒否できるようになった、と報道されている。つまり、現金しか持たずにレストランで食べて払えなければ食い逃げ(犯罪)だ。オランダでは?
現地で和食店を営む日本人経営者に話を聞いたところ、謎はあっさり氷解した。アムステルダムで、ラーメン店に1年間勤務しつつ、自身の店の開業準備を行い、2017年10月に『Men Impossible』を開業して1年になる石田敦士氏(40)も、支払いはデビットオンリー、を開業当初から掲げていた。
これは筆者が入った中東系の飲食店で使っていた偽札チェッカー。50ユーロ札はもれなく通していた。 |
この店側の手数料の安さは、日本の常識で考えると、驚きである。石田氏の場合、詳細は、以下の通りだという(※利用する決済会社や契約プランで異なる)。
・端末購入費:770ユーロ
▼ランニングコスト▽PIN
・端末使用料:月1.95ユーロ
・手数料:1支払あたり5.5セント(=約7円)
▽クレジットカード・月額課金:2.5ユーロ
・手数料:決済金額×1.4パーセント
5.5セント(7円)にも驚くが、クレジットのほうも1.4%と、日本の3分の1程度だ。支払い方法は、ざっくり言うと、PIN:8割、クレジット:1割、キャッシュ1割、といったイメージで、PIN以外は国外からの観光客の利用が半数超を占めるという。8割がデビットとあって、ほとんど決済手数料に負担感はない。
別の和食店経営者にも確認のため聞いたが、その店も「PINオンリー」をうたっており、デビット決済のみ。ただ、やはりそれでも現金で、という客も15%くらいいてキャッシュでも受け取っており、55%がデビット、30%がクレジット、といった割合だという。
「自分の契約では、デビットの手数料は決済額の0.1%、つまり1000円につき1円なので、ほぼ気にしなくてよい額です。プラス固定費として、年間の決済端末使用料を150ユーロ払っています。別途、(決済端末を通さない)チップの現金収入が1日70~80ユーロありますしね…」(30代日本人経営者)
支払いサイクルはデビットが翌朝入金、クレジットも翌週
オランダでもっともよく見かけたPIN&クレジット兼用の決済端末。デビットは非接触式対応でかざすだけ。 |
2人とも、零細飲食店を新規で開業した際の契約内容だ。大手チェーンなどのボリュームディスカウントも受けていない。それでも、1回7円だったり、0.1%なのである。
石田氏の契約では、単価が100ユーロでも5.5セントの手数料なので、その場合は0.055%。ほぼ無料に近い決済インフラだ。
しかも、オランダのデビット決済は、非接触式でかざすだけで瞬間的に終わる。店員に触らせないから、スキミングの犯罪リスクもなく、実にスピーティーで合理的。カードを盗まれたり、紛失したら、スマホからすぐに止められる。実にクールだ。そして、既にほとんどの店で利用可能。
石田氏の店に貼られているキャッシュレス表示 |
こうなると、国民がこのカードを持たない理由が1つもない。オランダ経済の生産性向上、消費者の利便性向上の効果は計り知れない。賢い国である。
スマホ決済はバッテリー切れで使えなくなるが、物理的なカードには電源が不要だから、その心配もしなくてよい。現時点で、理想的で合理的な、究極の決済手段といえる。
(未来の究極形は、手ぶらのまま、生体認証決済=虹彩・指や手の静脈・顔認証等で支払う、である)
石田氏のお客さんが持っていたカードホルダー |
「うちのお客さんは、財布は持っていなくて、薄いカードホルダーから、ピっとデビットカードを出して決済する人が多いです。このデビットカード(PIN)の維持費は、個人だと月2~3ユーロの固定費を払えば、EU域内の振込手数料は、他行宛ても含め、全て無料。これは10万円でも100万円でも、無料で振込めます。これは僕が口座を持っているABNアムロ銀行だけの話ではなくて他行も同じ。おそらくEU域内への振込に手数料がかかると思っているヨーロッパ人はいないと思います。他行のATMを使う場合も含め、キャッシュを引き出す手数料も、全て無料です」(石田氏)
日本よりも圧倒的に低コストで、金融インフラが優れている。店側としては、手数料が安い代わりに、何か不便なことはあるのだろうか。
「店の経営で使用する銀行のビジネスアカウント(個人事業主向け口座)のほうは、固定費が月10~20ユーロ(日本の法人口座とほぼ同じ)と少し上がりますが、振込手数料やATMからの出金手数料が全て無料なのは個人口座と同じです。支払いサイクルは、決済会社からの入金が、僕が契約しているところだと、PINの売上は翌営業日の朝に入金され、クレジット決済分は当該週分が翌週の水曜に入金されます」(同)
不便さや割高感を感じたことは特にないという。
欧州の銀行は、月額の維持費さえ払えば振込みも引き出しも無料で使い放題、という「定額制」に特徴があるようだ。日本のように、「このATMは他行だから手数料が高い」といった、くだらない銀行の垣根がない。
実にクールな金融インフラができている。他行のATMから1千円引き出すだけで216円の手数料をとられたり、他行宛の振込手数料が3万円以上で432円もとられる日本とは、大違いである。クレジット決済にしても、たとえばMyNewsJapanで10月に決済した売上が入金されるのは2か月後(12月20日)だから、2か月分の運転資金の融資を受ける必要がある(翌週水曜なら不要だ)。日本の金融インフラ(いわゆる『全銀システム』)が、いかに割高で銀行(とNTTデータはじめITベンダー)ばかりが肥え太るものとなっているか、がよくわかる。
非接触デビットで手数料1%未満が最低条件か
話は、単純だった。日本でキャッシュレス決済が普及しない原因は、「決済手数料が店側からみて気にならないほど安い、非接触式のデビット払い(カード/アプリ/QRコード)が存在しないから」。キャッシュレス化が進むか否かは、すべてこれで説明できる
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0.3%にとどまる日本のデビット決済比率。全体でもキャッシュレス決済は20%
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読者コメント
アダム・スミスは『 国富論』(1776)で18 世紀末のオランダ について、こう書いている。「オランダの 労働賃金は英国より高いといわれて いる。そしてオランダ人は、ほかのヨーロッパ のどこよりも低いマージンで貿易を行っていることはよく知られている」(紺野登、幸せな小国オランダの智慧、PHP研究所) →現代のデビット決済手数料0.1%に通じるものがあるな、と思った。経済繁栄の基本ですね。
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