国民を犠牲にしても、自分と家族だけは守る役人たち
いつも官僚視点のPR記事をトップに据える新聞だが、珍しく生活者・有権者の視点でニュースの価値判断をしている。久しぶりに購入。 |
企業利益を優先し、一般国民の生命は犠牲にするが、自らとその家族にだけは被害が及ばぬよう、公務員の宿舎と職場だけは、ちゃっかり安全にしていたことが分かった。
記事によれば、国有建物全般の発注を所管する旧建設省の官庁営繕部は1987年9月、各省庁の庁舎や公務員宿舎など国有建物の「建材の非石綿化を進める」方針を決定。その後は、同方針に基づき、石綿製品の使用を排除した。
営繕部は「当時は石綿が社会問題化しており、発注権限のある建物なら、非石綿化が可能と考えた」と説明しているという。
アスベスト(石綿)は発がん性の強い猛毒。クボタの旧神崎工場では、石綿管製造従事者の約5割が疾病にかかり、亡くなったか治療中である。
30年以上の潜伏期間があるため因果関係が証明しにくいが、日本の男性の死因でもっとも多いのは癌、そのなかでも肺癌が増え続け95年から最大の死因となっている一因と考えられる。
タバコの煙とは異なり「閾値」がない(つまり、このくらいまでなら安全、という範囲がない)ことで知られ、実際に仕事で扱っていた作業者だけでなく、その家族や周辺住民など一般人からも死者が出ており、少量でも危険であることが分かっている。旧労働省は78年に、少量でも中皮腫(悪性の癌)が発生する可能性を指摘していた(7月26日日経新聞)。欧州諸国では80年代から禁止措置を講じた。米国でも90年には既に、日本の10分の1程度の使用量 に激減している。米国ではアスベストが使用されている建物は「少量でも健康リスクがある」ことから資産価値が10~15%下がっているという。一橋大学教授でM&A専門家の佐山展生氏は『報道ステーション』で1990年ごろの状況を語り、「M&Aで企業の資産査定をする際、最大の留意事項がアスベストリスクだった」と述べている。つまり役人は、規制の遅れで命だけでなく国民の財産も減らしたことになる。
日本においては、危険性を認識した建設省は、87年にまず自分たちの身の回りだけをいち早く安全化。一般国民向けについては、企業が代替品の開発を進める時間を考慮して規制せず、被害を拡大させた。薬害エイズ事件と全く同じ構図で、日本のお家芸ともいえる「国民の命より企業利益優先」を見事に実践してみせた。
代替品の販売にめどが立ったことから、昨年10月に製造等を原則禁止したものの、企業が損をしないよう、在庫品は対象外とする抜け道まで用意してあげたために建材メーカーが販売を続け、45万枚あったスレート板などの大半を売り切っていたことが分かった(07月26日asahi.com)。批判を受けた厚労省は7月26日、「行政指導」で売却をやっと禁止している。
90年に利用のピークを迎えていた日本では、目に見える被害はこれから。今なお、ビルの解体現場や、マンションの壁裏、そして老朽化した駅のホーム屋根から飛散する目に見えない粉塵により、国民は着実に殺され続けている。リスク管理の専門家である早稲田大学の村山武彦教授によると、男性に限定しても、今後40年で最低でも10万人の死者が出る見通しだ(週刊『東洋経済』7月30日号)。
もし役人向けと同時期に、国民が利用するものに対しても同様に禁止しておけば、少なく見積もっても何万人かの命は助かった可能性が高い。
役人は、国民の命よりも企業の利益を優先し、さらに自分とその家族だけは助かりたいという、倫理観ゼロの犯罪的行為を行っていた。政治家も、市民団体の意を受けて国会で質問した中村敦夫・参議院議員 を除き、ほとんど何もしていない。
10万人を殺しても、立法の責任者である政治家も含め、政治・行政、そして企業も、誰も責任をとらないままに、終わろうとしている。イラク戦争の死者数など、かわいいものだ。
合法的に殺人が行われる、すごい国なのである。
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読者コメント
問題は責任の所在を明確にし、断固責任を取らす事だと思う。いくら騒いだところで責任を追及し処罰しなければ当事者たちは痛くも痒くも有りません。ほとぼりが冷めるまでおとなしくしていれば熱しやすく冷め易い日本人です、すぐに忘れてしまうでしょう。役人はそれがわかっているから腐敗体質が変わらないのです。断固責任を追及すべきです。
アスベストの危険性はかなり昔から言われていたのに対処しないのは怠慢と言って良い。根は血友病HIVと同じ。たばこも同じだね。儲かれば良いってことか。危険性が疑われた時点で手を打つべき。
結局、だれか訴訟をしないと流されていくんでしょうか?それにしても、相変わらず、マスゴミは流行の追いかけばかりで救いようがない。定期的な購読を止めないと、永久に情報毒の垂れ流し!
「発がん性の強い猛毒」であることは既に何十年も昔から分かっていたこと。あまりに無知過ぎるコメントは無意味なので消します。日々、死人が増えているというのに、誰も責任をとらないで収束に向かっています。恐ろしい国です。
細かい点に関しては、全ての分野を専門家並みに知っている人間など1人も存在しませんし、単なる世間知らずの方の言う稚拙な批判に過ぎないと思います。むろん、記者の方は、記事を書く際には、必要があれば、専門家に話を聞きに行く等の対応や工夫をされているはずです。
以下に「アスベスト(石綿)は発がん性の強い猛毒」とした筆者の姿勢にも疑問は残る。と書いている方がおられますが、石綿が毒性が強く発癌性を含むことは、一般常識に近い話です。小学生でも、理科の実験でフラスコを温める時に石綿付き金網を使う際、教師から注意を受けて知っていますよ。
同じく日経で珍しく石綿使用を長引かせた事について、対策をしていない企業への配慮(んなもん企業からの圧力と同義でしょ)をした護送船団方式のせいだ。とされてましたね。良くも悪くも企業より官を悪者にしてまとめる日経にしては珍しく企業を追求した記事だったので、今年は例年より記者の方々もまともなのかも
まったく、社会主義国日本だね。
権力の監視役であるマスコミを通じて、広く国民に知らしめる必要性があり、わかりやすく事実関係や意見を記述した左記のニュースは、必要善であると敬服致します。
人命に関わる危険性を十分に予見しておきながら、対応を怠り、多くのガンで亡くなられた方が実際に出てしまった許されざる事件ですね。その責任は厳しく問われるべきだと思います。その失態形態においては、薬害エイズ事件と似ていますが、当事者が、病院長ならばともかく、中央官庁やその役人となると、非を認めさせるのは、そう簡単ではないでしょう。
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