たいへん楽しそうな職場。
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私は出会い系サイト大手の1社で、最近まで1年半ほど「サクラ」をやっていました。女性のフリをして、ひたすら男性からのメールに返信するバイトです。当初そのつもりはなかったのですが、求人広告に騙されたのがきっかけ。周りには、この仕事にはまっていく人が沢山いるのですが、彼らは将来のニート予備軍になりますから、この広告には疑問を感じています。
【Digest】
◇サクラの8割が男
◇5つのキャラを並行して操る
◇サクラの返信が95%超
◇地理に詳しくなる
◇学がなくても活躍できる
◇漫喫・着メロ・エログ・ヨガ…
◇「オレにとっては天職だ!」
私がこの仕事を始めたきっかけは、ネット上の人材募集サイトでした。探したのは2年ほど前になりますが、確か「Find Job」(現ミクシィが運営)でした。他にも似たような広告を各社が載せていて、それは今でも変わっていません。
実際の広告は、例えば「アルバイトJAPAN
」「バイトルドットコム
」「ワークゲート
」「
Q-JiN
」などです。紙媒体では、フリーペーパーの「
パド
」「
ティンクル
」「
クリエイト
」などが、同じ広告を掲載しています。「タウンワーク」(リクルート)にも以前は載っていましたが、最近は厳しくチェックしているようで、見かけません。
求人を出す際の企業名はコロコロ変えていくし、一社で10くらいのサイトを運営するのも当り前。元締めの大手企業として有名なのは、「
スタービーチ
」「
D.W.
」「
マッチファインダー
」「
ピュアアイ
」などです。私が働いていたのも、このなかの1社で、規模では、業界で3本の指に入る大手でした。
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職種は「データ入力」「キーパンチャー」となっているが…
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広告の典型例が、これら(右上下)です。
「データ入力」「未経験歓迎」「服装髪型自由」「やる気」「高収入」といったものがキーワードで、一見、夢のような仕事に見える。自分は以前に自己流でプログラミング的な仕事をしていて、データ入力の仕事をしながらもっとプログラムを学びたかったし、昼間のバンド活動とも両立できるので、最適だと思ったのです。実際、音楽や演劇関係者は周りに多かった。
でも、よくよく考えてみると、本物のデータ入力の仕事なら「エクセル」や「ワード」といったスキルは必須のはずだし、なぜデータ入力をわざわざ深夜にやる必要があるのか、なぜこんなに時給が高いのかも不自然なので、分かる人には、すぐに分かる。でも最初は、疑問にも思いませんでした。
しかも、採用面接も、仕事場ではない小さい部屋で行われて、あまり仕事内容の説明はない。データ入力の中身について聞くと、「お客さんからメールが来るので、返信する仕事ですよ」と言われる。会社自体も、都内の普通のオフィスビルの3フロアを借りていて「意外にデカい会社だな」と思うほどで、まったく怪しくないのです。
◇サクラの8割が男
だから、私も含め、バイトは皆、初日に実態を知って驚くんです。まず、仕事場に案内されると、大部屋にパソコンが200台近くも並べてあり、圧倒されます。ヒップホップ系などイマドキのBGMが流れ、カタカタカタカタ…とキーボードを打つ音が響く。男女比は、おおよそ8:2で男性が圧倒的に多く、年齢は20代前半が多い。あまり若すぎても話が合わずにマズいようなのです。
自分は深夜シフトで、パソコンに向かっているのは常時30~50人ほどでした。もちろん茶髪の人も普通にいて服装は自由です。“データ入力”のはずの仕事内容は、実際には「出会い系専門のメールオペレーター」ということが分かり、客(男性)からのメールに、ひたすら返信をし続ける。それを知って、初日の休憩時間中にいなくなった人もいますし、1日で辞めた人も、かなり知っています。1~2ヶ月で辞める人も多いから人の出入りは激しい。
最初は時給1,200円からで、夜のシフトは22時~翌朝8時まで。1晩で最低12,000円稼げます。休憩は1時間ごとに5分です。返信が早い人や長く続けられる人は、時給1,600円くらいで働いています。時給はノルマの達成度などでも変動しますが、業界では「稼げる人材には時給2500円出す」と言われています。
最低限のノルマがあり、例えば22~23時のピークの時間帯では1時間に40通くらいくるので、1人で30通の返信をしないと時給を減らされたりします。キャンペーン期間中は、目標の返信数を達成すると追加ボーナスが1万円出たりもする。メールオペレーターの組織内で、担当サイトごとに5人ずつ配置して競争させ報酬にリンクさせるなど、管理も巧みです。
こうした成果主義が導入されているのは、お客さんが、返信メールを1通読むと200円(=20ポイント)払う、といった仕組みだからです。支払い方法はいろいろあり、「ビットキャッシュ」などコンビニで支払うプリペイド方式や、銀行振込み、クレジットカードなど。写真を見るにもカネがかかるし、とにかく従量制ですから、いかにメールのやりとり数を増やすかが、会社にとって儲かるカギとなります。
◇5つのキャラを並行して操る
そのためのマニュアル類もしっかりしています。トラフィックを増やすためには、余計なことは書かない、顔文字や絵文字を使う、情に訴える…。一般登録の女性はそっけないのが普通で、お客が「会おう」と言っても「いや」で終わってしまう。だから、サクラの男性がいないと成り立たない商売なんです。男の気持ちが分かるから、優しいメールを送れる。それで盛り上がっていく。
返信用のテンプレートも用意されています。たとえば、一度待ち合わせて会わないで、「昨日はゴメン、家庭の事情で、誰かが倒れて」とか。自分で仮想のストーリーをどんどん作り上げてなり切る。このあたりは「オレオレ詐欺」集団と同じで、メール上での演技力がモノをいう。
だいたい、1人で5つくらいのキャラを並行して操ります。それぞれ名前と年齢と写真を登録する。病気がちの設定にしたり、怖がりでウブな女の子に設定したり。お客が出会い系サイトでメールを送ると、ウラでは掲示板みたいになっていて、こちらからは、話の流れを画面上で一覧できるから、それを見ながら、口調も、キャラによって合わせます。
ロールプレイの力、話の流れを読む力は身につく。何手も先を読まないと、会話が終わってしまいますから。だんだん「ここでこれだけ(トラフィックを)稼げるな」というのが分かってきます。
お客は、ひきこもりがちな人が多い。人生相談みたいなメールも来ます。「会社で嫌なことがあって」「自分はダメな男だ」とか。そういうのには、「そんなことないよ」といった慰めのメールを送ると、トラフィックを稼げます。メールだからこそ本心をぶつけられるようで、向こうもホントのことを言ってくる。
メールが奥さんにバレて、「もうウチのダンナにはメールしないで下さい。どういうつもりですか?」といったメールが来たこともあります。それがきっかけで離婚してしまったこともあって、そういうときは、さすがに罪悪感を感じました。
◇サクラの返信が95%超
出会い系といっても、実際にサクラでない一般の女性と出会える比率は.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
