コットンの花は黄色かった オーガニックコットンを求めてインドへ
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インドの大地で育つオーガニックコットン |
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- コットン産業は英国産業革命から
- いざ,インドへ!
- 自殺者が多いインドの綿栽培農家
- バイオダイナミック農法
- 貧しいのに幸せに見える綿農家の家族
- インドの綿栽培と繋がる我々の消費行動
コットン産業は英国産業革命から
昨年から友人に誘われて、2008年3月、オーガニックコットンのベビー服の会社「yuga」 が主催する産地ツアーに参加した。
それまで自分の着ている服(綿製品)がどこで、どうやって出来ているのか、あまり興味を持って考えた事すらなかったが、これを機会にコットンという身近な素材に興味を持ち、オーガニックコットンの生産現場を求めてインドまで行くことになったのである。
コットンの歴史を簡単に調べてみると、綿で作った服というのはイギリスの産業革命のあたりから、労働者階級の人々も綿製品を着れるようになったらしい。それまでは貴族階級しか着れない貴重品だった。
そして需要が増えたコットンを栽培するため、アメリカの南部で奴隷や移民を使って綿を収穫。その後、糸にして縫製するわけだが、これを日本から始まり韓国〜東南アジア〜中国と安い労働力を求めて、製造工場が続々と出来ていったわけである。
それまで田舎の家で農業を手伝わされていた若者、特に女性達は、こぞって縫製工場で働いた。というのも暑くて埃っぽく劣悪と言われる縫製工場での仕事も、農業に比べれば楽だし、なんと言っても現金収入を得られるのが大きいからであった。参照:あなたのTシャツはどこから来たのか? 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実 (東洋経済新報社 )
そうやって日本や世界の国々の発展にも関わってきたコットン。そのコットンという植物がどこで、どうやって作られているのか知りたくて、はるばるインドまでやってきた
いざ,インドへ!
インド大陸の真ん中、やや西寄りにある都市インドールから車で3時間。牛を追い越し、山羊の集団をかき分けながら、やってきたのがビオレ・インディア(Bio-Re INDIA https://www.bioreindia.com/)。
そこはインドらしからぬ洗練された場所で、オーガニックコットンのプロジェクトが行なわれていた。
というのもビオレ・インディアはスイスの会社が関わっていて、ここで作られたオーガニックコットンは、スイスやイタリアのCOOP (生協)など主にヨーロッパに に輸出されているためだ。
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コットンの花は黄色かった![]() |
11月が収穫だと聞いていたコットン。もう収穫が終わって見れないかと思っていたが、僕が訪ねた3月になってもオーガニックコットンは花や綿になって待っていてくれた。
僕は恥ずかしながら、コットンの花が黄色いのをこの瞬間まで知らなかった。ほんと,SOURCE(源)に興味を持って調べてみると面白い。
コットンは、黄色い花が萎んで赤くなり、緑色の実になった後、茶色く枯れて,中に綿ができる。そして、その綿を摘んで糸にした後、その糸を編んで生地にする。いやいや、気の遠くなる様な過程を経て、服になるのである。
そういう過程が分かって服を着ると、ありがたみと言うか、一段とオーガニックコットンの良さを感じる様な気がするから不思議だ。
自殺者が多いインドの綿栽培農家
では、オーガニックコットンとは、普通のコットンと何が違うのだろう?
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牛の糞を使ったバイオダイナミック農法![]() |
オーガニックコットンは農薬や化学肥料を使わないで栽培する代わりに、農家は堆肥作りに励む。生えてくる雑草をむしり、土を混ぜ合わせて空気を入れ、牛の糞や野菜くずなどの堆肥を混ぜて栄養を付けるのだ。
楽な作業ではない。しかし身の回りのものを使うので、借金をして農薬を買うという、マイナスのスタートではない。
ビオレインディアのRaj氏によると、コットンの生産地であるインドでは、1998〜2003年の6年間に10万人の農民が自殺しているそうだ。
参照:https://www.afpbb.com/article/850320https://blog.goo.ne.jp/boope/e/9b2d878694a57be0770765148c090a12
その理由は、コットンにつく害虫を駆除する為に、農家は借金をして農薬を買うからである。しかし最初は、その農薬で防げていた害虫が、次第に農薬に慣れ抗体を身につけてしまい、コットンは害虫により大きな被害を受けてしまう。
すると農家に残るのは借金だけ。そして、コットンの生産もままならず、借金を返せない農家が、それを苦にして自殺してしまう、というのだ。
バイオダイナミック農法
その現状を打破しようと頑張っているのがビオレ・インディアである。現在、8000人の農家と契約し、オーガニックコットンの生産管理を行なっている。
そのやり方は、それぞれの農家の土地の形態や大きさ、ここ数年、何の作物を育てたか、その収穫量、また、どういった肥料や虫除け対策をしているか、そして家族構成など、様々な情報をファイルにして管理する。
コットンは土の栄養分をとても吸収して育つ。だから基本的に1年間コットンを育てた土地では、翌年と2年後は別々の作物を植えて育てている。
例をあげて説明すると、コットンを収穫した土地に翌年は麦を植え、麦を収穫した次の年には豆を植えて育てる。というのも、それぞれの作物によって土から吸収する栄養分が異なるからである。
これは、コットンばかりを同じ土地で続けて育てていると、同じ栄養分ばかりを吸収するので土地が痩せてしまうからだそうだ。
そして肥料も化学肥料を使うかわりに、牛の糞と植物の枯葉を混ぜたバイオ肥料を使っている。なんともダイナミックだ。
そして虫除け対策には、ニームと言う虫が嫌う植物や、ニンニクや唐辛子など匂いのきついハーブをコットンと一緒に植えて害虫が来るのを防いでいる。また、糖分が豊富で虫が好む植物を畑の周囲に植えて虫をそちらにおびき寄せたりしていた。
こういった身近な自然のもので行なう昔ながらの農作方法を「バイオダイナミック農業」というのだ、とMr.Raj は言っていた。ビオレ・インディアでは契約をしている農家達に、この「バイオダイナミック農業」の技術指導を行なっているのである。
貧しいのに幸せに見える綿農家の家族
それでは農薬を使ってコットンを栽培していた農家達は、バイオダイナミック農業を始めて、どう変わったのだろう?その答えを実際に農業をしている人に聞きたくて、実際に綿花を栽培している農家さんに会いに行った。
人里離れた綿花畑の真ん中、土間に人の背丈くらいの高さしかない小さな平屋の家。そこに3世代、家族7人が、羊や牛と一緒に住んでいた。彼らの家は日本の生活水準からみると、貧しいと思える。
Raj 氏 の話では、インドの綿花産地ではこの家のように、わらぶき屋根の小さな小屋に大勢の家族が生活していて、土間に古びた鍋が1個だけ置かれているというのが普通だそうだ。また、女性農業者200人に対して、たった2個のトイレしかないのが現状らしい。
それなのに実際に僕が会った農家の子供達、そして家族みんなが幸せそうな表情をしていた。
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貧しいながらも幸せそうなインドのコットン農家さん![]() |
実際に農作業を行なっているお父さんに話を聞いた。
僕「農薬を使って栽培していた頃と今とでは,何が変わりましたか?」農家さん「農薬を使わなくなって借金をしなくてすむので生活が楽になった」
農家さんの笑顔が印象的だった。オーガニックコットンという物が、本当の意味で生産者に優しいのだなと感じた。
物がいっぱいあっても鬱病が流行っていて、毎年、自殺者が3万人を超える日本。そして、シンプルな暮らしのインドの農家さんの笑顔。幸せって何なのだろう?と考えさせられてしまった。
インドの綿栽培と繋がる我々の消費行動
現地で農家を管理しているビオレ・インディア ではコットンの栽培だけでなく、地域の環境を良くする貢献をしている。広大な地域で学校が少ないので、子供達が通う学校を作ったり、病院もないので、バスを使った移動検診なども行なっているのだ。また、トイレなどサニタリーシステムの設営などもやっている。
良いコットンを作る為には、地域の生活レベルを良くするのが必要である。何しろ、まだまだ日本の暮らしに比べると、インドは大変なのだ。
その地域貢献と間接的に繋がっているのが、実際に日本で服を買う僕たちである。我々、消費者がオーガニックコットンで作られた服を買う事が、地球環境やインドの農家さんたちと繋がっているのである。
ただ、「オーガニックコットンが地球環境や生産者に優しい」というだけでは、オーガニックコットンの利用は増えていかないのが現状である。なによりも「オーガニックコットンは、保温性が高く、その着心地や肌触りの良さが優れている」と言う点をもっとアピールしていかなければならない。
実際にファッション雑誌の VOGUE やロンドン・ファッション・ウィークなどでも取り上げられてきている。また日本のNPOでも大手の衣料メーカーやデパートなどがオーガニックコットンを扱うよう働きかけている。
是非、多くの人がオーガニックコットンの服を着て、その素晴らしさを感じることで、オーガニックコットンの需要が増えて欲しいと思う。そしてオーガニックコットンが広がることで、地球環境やインドの生産者の健康が改善されることになれば素晴らしいではないか。
その為には、今、自分が着ている服が、いったいどこで、どうやって作られているか?ということをイメージすることが大切な気がする。
近い将来、オーガニックコットンが通常のコットンに変わって、メインの繊維になる日もくるかもしれない。そんな期待と希望を感じさせてくれるインドの旅であった。
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