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過労死事件で経営者の「個人責任」認定の確定判決 ポイントは「全社的な長時間労働の立証」だった

情報提供
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松丸正弁護士(堺法律事務所)
 従業員3千人規模、東証一部上場企業である居酒屋チェーン「日本海庄や」で起きた過労死事件。その裁判で先月、会社と役員4名に計約7860万円の支払いを命じる判決が確定した。過労死を生み出す制度をつくり、蔓延する長時間残業を放置してきたことが理由だ。画期的だったのは、大企業の役員個人にも賠償責任があることが認定された点で、遺族側代理人を務めた松丸正弁護士によれば、初めてのケースだという。松丸正弁護士は「社内制度が腐っていることを立証できた。腐らせた責任は役員個人にある」と述べる。遺族側は、どのような立証によって、役員の個人責任を認めさせることに成功したのか。労働者の生命と健康を「至高の法益」とうたったこの判決は、どのように生み出されたのか。裁判資料と松丸弁護士の話をもとに、ポイントを整理した。(確定した高裁判決は記事末尾からダウンロード可)

この裁判は、筆者が過労死問題に取り組むきっかけになった事件です。2010年7月にマイニュースジャパンに掲載した以下の記事もお読みください。

入社4カ月で過労死した「日本海庄や」社員の給与明細とタイムカード公開
過労死36協定の違法化「現政権のうちに」「日本海庄や」社員の両親に聞く

 東証一部に上場する大企業の経営者が、過労死を生み出す制度をつくり運用していたとして、役員個人の賠償責任を認めた大阪高裁の判決が、今年9月下旬に確定した。

 この裁判は、居酒屋チェーン「日本海庄や」の新入社員だった吹上元康さん(当時24歳)が、入社5カ月目の07年8月、就寝中に急性心不全をおこして過労死した事件の損害賠償請求訴訟。

 経営会社の「大庄」は、同社のウェブサイトによれば、全国に直営店649店舗(2011年8月末)を展開する従業員数3176名(同)の東証一部上場企業だ。

 遺族は、会社だけでなく、平辰(たいら・たつ)社長、管理本部長、店舗本部長、第一支社長の役員4人にも個人責任があると訴えていた。

 地裁、高裁とも遺族の訴えを認め、会社と役員に計約7860万円の支払いを命じたが、会社側が最高裁に上告していた。その最高裁が会社側の上告を退けた。

支払いが確定したのは、以下4名の個人と会社(大庄)の5者で、5者それぞれに責任があることは認めたが、加害側の支払い額の分担については記されず、全体で7860万円を連帯して払え、ということになっている。

 ・社長…平辰
 ・管理本部長…水野正嗣
 ・店舗本部長…石村公一

・第一支社長…林田泰徳

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「日本海庄や」石山駅店の店内の様子と屋外看板。(2010年6月撮影)

 社長らの個人責任が確定したことを受けて、遺族側代理人を務めた松丸正弁護士(堺法律事務所)は次のように話す。

 「この会社は社内制度そのものが腐っていることを立証できた。腐らせた責任は役員個人にある。役員がそういう体制をつくっているのですから」

 「最高裁までいって判決が確定したことで、道が1つできた。ほかの過労死事件でも役員の個人責任が問われることになっていけば、コンプライアンス重視の労務管理、社内体制が生まれてくるきっかけになる」

 松丸弁護士によれば、過労死の損害賠償をめぐる裁判で、大企業の役員の個人責任が認められた初のケースという。

 これまで、同様の裁判で責任を問われてきたのは会社という「組織」であって、経営者個人は遺族に対して無責任でいられた。だが、これからは違う。

◇労働者の生命・健康は「至高の法益」 確定判決
 役員の個人責任を認めた大阪高裁(坂本倫城裁判長)のロジックは、簡単に言えば以下の通りだ。

 まず、

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新人研修の内容を書き留めた元康さん自筆のノート。月300時間働いたときの残業代の計算式が出ている。

会社の責任を認めた高裁判決の結論部分。「実効性のある改善方策をとってこなかったことこそが安全配慮義務違反の主たる内容」としている。

「日本海庄や」石山駅店の社員らの労働時間表。原告側の裁判書類をもとに作成。

役員の個人責任を認めた高裁判決の結論部分。生命・健康は「労働者の至高の法益」と書いている。

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