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「東進ビジネススクール」が二重価格表示 大幅割引うたい生徒を不当に勧誘――正規料金に実態なし、景品表示法違反の疑い

情報提供
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元東進生で現役早大生のA君は、「あの59万4000円という価格は、生徒を引きつけるための二重価格表示に違いなくて、自分は不当に誘引されたんだという、騙された気分でいっぱいです」と語った
 株式会社ナガセ(永瀬昭幸社長)が、大学生など向けに運営する東進ビジネススクールの「ビジネス英語講座」で、二重価格表示を行っていることがわかった。同講座パンフでは「一般生価格」59万4000円を示しているが、東進ビジネススクールに通う生徒の8〜9割を占める「東進卒業生」には、卒業生価格として半値近くの31万9680円を提示し、さらに外部生でも体験授業を1回受講するだけで、誰でもこの金額に下がる。つまり実際に正規料金を支払っている生徒は、ほとんど存在しない。にもかかわらずナガセは、東進生に「ビジネススクールの事前申し込みをすれば正規価格から2段階割引がある」などと、実態のない価格を比較対象に“お得感”を演出。景品表示法で禁止された二重価格表示で社会経験の浅い学生を騙し、顧客を不当に誘引していると断定せざるを得ない状況だ。「事前申し込みで21万円のものを約3倍の59万円と定価表示するのはおかしい。不当な勧誘と感じた」と証言する元東進生に話を聞いた。
Digest
  • 大幅割引を喧伝し生徒を勧誘
  • たった1回の体験授業で20万円割引
  • 誰も払っていない「正規料金」
  • お得感を演出し「顧客を不当に誘因」

大幅割引を喧伝し生徒を勧誘

東京都内の東進ハイスクールに通っていたA君(仮名・当時高3生)は2016年10月のある日、校舎スタッフに奇妙な説明会に出席をするように言われた。

A君の「東進学力POS」

「受験も近づいてきた忙しい時期に、何の説明会かと思ったら、東進ビジネススクールの説明会だったのです。TOEICなどの試験対策を中心とした英語教育を受けないか、ということでした。受験生に、大学入学後の話をするなんて、ずいぶん露骨な営業だな、とは最初は警戒しましたが、とりあえず参加することにしました」

東進ビジネススクールとは、大学生や社会人を対象としたナガセの映像講座で、新宿の校舎で行われる。校舎スタッフは、集まった高3生15人ほどを前に、まだ大学受験前にもかかわらず、昨今のシューカツにおける英語の重要性を、滔々と語った。

「ニュースでもグローバル人材がどうとかっていう話は何度も聞いていましたから、校舎スタッフの話には説得力はありました。『大学の授業を受けているだけでは、英語の能力は絶対に身につかない』と言われ、それもそうだな、と思いはじめましたね」

ナガセの永瀬昭幸社長。東進生からの「二重価格で騙された」という声にも無視を決め込み、取材に答えない。

そして、ビジネススクールが提供するという英語講座に、徐々に興味が湧いてきたA君の気持ちを、さらに前のめりにする情報が提示される。

「校舎スタッフに、料金の説明をされたのです。『ビジネス英語講座の正規価格は59万4000円だけれど、東進卒業生には割引があって、31万9680円になる。さらに、この10月中に”事前申し込み”をして、1万800円の予約金を支払えば、総額21万2760円で受講できる。つまり2段階の割引がある』ということでした。59万8000円の正規金額から30万円近くの割引があるというのはずいぶんお得だな、というのが正直な感想でしたね。受験後にキャンセルしても、1万800円は返ってくるというので、とりあえず申し込んでみよう、となりました」

説明会のあった半年後、晴れて大学入学が決定したA君は、在学中の交換留学も視野に英語力を向上させようと、事前申し込みしていた東進ビジネススクールへ“入学”した。元東進生でなおかつ事前申し込みをしたため割引が適用され、定価60万円ほどする講座を20万円程度で受講できるというお得感も、大きな決め手になった。しかし、実際に東京・新宿にある校舎に通い始めたA君は、あることに気づいたという。

「校舎に行って、周りの生徒と話をしてみると、元東進生ばかりでした。ビジネススクールのスタッフに聞いても、生徒のほとんどは東進生だといいます。『あれ?正規金額を支払っている人が誰もいない。事前申し込みで生徒を引き付けるためのエサで、不当な二重表示価格じゃないか』と思いましたね」

たった1回の体験授業で20万円割引

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体験授業を1度受ければ、誰でも東進生価格(31万9680円)と宣伝する東進ビジネススクールのパンフレット。正規料金(59万4000)円を払っている人は存在するのだろうか

ビジネススクールの「正規金額」とされている59万4000円を実際に支払っている人はいない。あの値段は割引によってお得感を演出させ、生徒を勧誘するための、ほとんど架空の設定なのではないか――。

A君が抱いた疑念の真相を確かめるため、記者は東進ビジネススクールに、問い合せをしてみた。実際に正規金額を払っている生徒がいるのかを探りたかったわけだが、そこで浮かび上がってきたのは、さらなる驚愕の事実だった。

以下は、その際に電話で話した内容の抜粋である。

――東進ビジネススクールに入学を検討しています。料金についてお聞きしたいのですが、東進の卒業生でない場合、やはり50万円ほどかかってしまうのでしょうか?

担当者「こちらでですね、いちど体験受講していただきますと、少しお安くはなるのですけど」

――どのくらい安くなるのですかね?

担当者「新宿の校舎で体験受講をしていただきますと、東進の卒業生と同じ価格の31万9600円ということになります」

――20万円くらい安くなるというので、よろしいのでしょうか?

担当者「そうですね」

――ちなみに、(生徒には)東進の卒業生の方が多いのですかね?

担当者「やはり東進生の方が多いのですけど、一般生の方もいらっしゃいますので」

――3割とか4割くらいは、(一般生が)いらっしゃいますかね?

担当者「もうちょっと割合は少ないのですけど」

東進ビジネススクールの担当者は、こともなさげにこう回答するのだったが、話している内容は尋常でない。指摘したいことが2点ある。

第一に、これまで東進ハイスクールと縁もゆかりもなかった一般生でも、たった1回の体験授業を受ければ、20万円以上の割引が適応され、元東進生と同じ授業料で講座を受けられる。

こう言われて、体験授業を受けず、割引が適応されないまま、正規料金を支払って入学する生徒が、果たして存在するだろうか?

しかも、体験授業を受けてから入学の可否を決定してもいいというのだから、なおさらだ。

第二に、担当者はビジネススクールに通う生徒の8〜9割が元東進生であることを示唆している。

それ以外の1〜2割の一般生も、体験授業を受けた上で「元東進生」価格で受講している、ということになると、正規金額として掲げられている59万4000円を支払っている人は、ほぼ存在しない、ということになる。

支払う人がほとんどいないとみられる金額を、正規料金として提示する。これは、実際には存在していない金額を提示した上で、そこからの”特別割引”があると説明し、顧客を欺く、二重価格そのものではないだろうか。

誰も支払っていない金額を「定価」と呼ぶことはできない。もっと言えば、「東進ビジネス英語講座」は、そもそも31万9800円の価値の商品でしかないのに、正規価格を59万4000円と偽り、顧客を不当に呼び込んではいないだろうか。

A君の疑念が、いよいよ真実味を帯びてきた。

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A君が受験生時代に説明会で配布された東進ビジネススクールのパンフレット。東進生で事前申し込みすれば、正規価格から大幅な割引があると説明を受けた

誰も払っていない「正規料金」

消費者の判断を誤らせる不当な価格表示を取り締まるための法律が「景品表示法」だ。商品やサービスを実際よりも良く見せる優良誤認表示や、販売価格や取引条件を実際よりも安く感じさせる有利誤認表示などを禁じている。比較対象に用いる価格について実際と異なる表示をする二重表示価格もその対象だ。

同法律を運用する消費者庁は、「不当な価格表示についての景品法上の考え方」(価格表示ガイドライン)を公開している。そこには、不当な二重価格表示の具体例として、フレームとレンズのセットで「メーカー希望価格の半額」とうたうメガネが、実際にはメーカー希望価格が設定されていなかったケースがあげられている。

繰り返しになるが、東進ビジネススクールの「ビジネス英語講座」では、「元東進生なら20万円以上の割引」「高3時に事前申し込みすればさらに10万円以上割引」としている。しかし、一般生も体験授業を1回受ければ元東進生と同価格まで割引されるようになっており、実際に正規価格を払っている生徒はほぼいないとみられる。

これでは、「59万4000円」という正規価格は、存在してないも同然としかいいようがない。ガイドラインで示されているメガネの例に、勝るとも劣らない不当な価格表示である。教育という公共性の高い事業を手掛ける上場企業が手を染めてはならない行為であることは、言うまでもない。

この点を含めて消費者庁に問い合わせると、担当者は「個別具体の案件については、調査をして見ないとわからないため、回答できない」とした上で、「顧客を不当に誘引しているかどうかがポイントになる」と話した。

前出の元東進生で現役の東進ビジネススクール生のA君は、「自分がビジネススクールへの入学を決めたのは、高3の10月の説明会で、東進生で事前申し込みをした人だけに、2段階の割引が適応され、本来なら59万4000円の価値のある講座が、21万2760円で受講できる、というお得感がおおきかったです」と語る。

その上で、「その正規価格を実際に払っている人がほとんどいない。だとすれば、あの59万4000円という価格は、生徒を引きつけるための二重価格表示に違いなく、不当に誘引されたんだな、という騙された気分でいっぱいです」とした。

お得感を演出し「顧客を不当に誘因」

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消費者庁ホームページに記載されている不当な二重表示価格の例。正規金額からの大幅な割引をうたいながらも、実際には正規価格が存在していなければ、消費者をミスリードする不当な価格表示となる

これまでみてきた通り、東進ビジネススクールの「ビジネス英語講座」の受講料は、二重価格表示による景品表示法違反の疑いが濃厚だ。そして何より、実際の消費者である元東進生で現役のビジネススクール生のA君自身が、「不当に誘引された」と述べている。

また、誰も払っておらずほとんど架空ともいえる正規金額からの大幅な割引をうたい、お得感を演出することによって、ビジネススクールの生徒集めをするという手法は、A君の所属していた東進ハイスクールの校舎で昨年度のみ行われているわけではない。

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東進ハイスクール西新井校の公式ブログでも、「普通の大学生がやったら59万4000円かかります。3分の1の費用でできるんです!」と、ビジネススクールの事前申し込みの勧誘があった。

たとえば、東進ハイスクール西新井校の公式ブログでは、2015年10月3日付で「普通の大学生がやったら59万4000円かかります。3分の1の費用でできるんです!」と、10月中の事前申し込みを呼びかける記事がアップされている。

実態のない「正規金額」からの大幅割引をうたい、ビジネススクールの顧客を誘因する手口、つまり、二重価格表示による景品表示法違反の疑いがある行為が、東進ハイスクール内で組織的に、そして継続的に行われている可能性が高い。

景品表示法違反の事件処理手続は、外部からの情報提供を受けた消費者庁や構成員会、そして都道府県が、調査を行った上で、当否を判断し、指導や措置命令を下すという流れになっているため、消費者庁がしっかり仕事をするかどうかは別問題で、東進と消費者庁を継続的に監視していく必要がある。

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ナガセに送った取材依頼メール。期日までに回答はなかった

仮に事業者が措置命令に違反したと認定された場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される、と定められている。消費者が商品やサービスを選択する上で、最も重要な判断基準となる価格表示をめぐる問題であり、むしろ甘すぎる罰則だろう

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 2017/10/18 23:27
2017/05/30 23:28
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