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トヨタの人身売買・強制労働問題

情報提供
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目の前にでっかい交番があったり(上)、常時、機動隊車両が待機してたり(中)、自爆テロ自動車が突っ込んできてもいいように車両封鎖する準備してたり(下)。テロ標的国の大使館は警備が大変。

先週、米国大使館政治部の依頼を受け、『トヨタの闇』共著者の林さんとトヨタの人権問題についてヒアリングを受けた。会ったのは、かつての佐藤優氏のような役割のノンキャリ調査官で、米国国務省の現場専門職である。人権問題が専門で、チベットに赴任していたこともあるそうだ。

「政治部」というのがいかにも生々しいが、トヨタのリコールが米国で騒がれているこの時期だから、普通に考えるとトヨタ潰しのネタ探しかと思ったが、純粋に人権問題に絞った話だった。

アメリカというのはお節介な国で、世界に人権を広めるために、毎年、国別の人権報告書を作って、国務長官(今はヒラリー)名で米国連邦議会に提出している。なにしろ国務省に「民主主義・人権・労働局」という組織があるほどだ。

2008年国別人権報告書(抜粋)[米国国務省民主主義・人権・労働局発表]

人権を世界に浸透させることをManifest Destiny(明白なる使命)と信じているのだから「文明の衝突」も必然である。


私はゼミがアメリカの政治だったので「アメリカンセンター」には学生時代に何度も行ったことがあるが、大使館は足を踏み入れたことが一度もなかった。

まず、周辺の警備が厳重である。交番に機動隊、バリケード準備と抜かりがない。事前案内で「館内への、電子・電気機器(カメラ、録音・録画・再生機器、携帯電話、電子辞書、コンピュータ等)やペットボトル入り飲み物などは持込みは不可」。テロを警戒している。

さらに「お車でお越しの場合、館内に駐車をご希望の場合は、車番、車種、色の事前登録が必要となります」ともある。イラクでは自動車爆弾でたくさんやられてるから当然か。

事前に約束のある者のセキュリティチェックは永田町の議員会館や日本国内の空港並みに適当で、靴やベルトは問題なかった(去年訪れたトルコはクルド人独立運動のテロ警戒で空港のゲートが鳴り止まず必ず手動チェックになった)。

 さて内容は、強制労働や人身売買がテーマだ。人権のなかでも特に労働分野についてフォーカスし、「人身売買報告書」として国務省が毎年、発表している。

 まず林さんが「強制労働や人身売買の定義についてどう考えているのか?」を尋ねる。かなり幅広くとらえていた。一通り『 トヨタの闇 』やその後の関連記事についてお話しする。

労使で36協定を結べば過労死ラインを超える残業、つまり強制労働が合法的に可能なことや、日本の労組が企業別組合であるがゆえに経営と一体化し、カネと雇用以外に興味がないことなどを話す。そこから逃げ出すことは地域社会からの抹殺を意味し、トヨタ人だらけの「三河村」では生きていけないこと。

なかでも強調したことは、自動車業界の裾野で幅広く行われている非正規労働者の、事実上の強制労働についてである。

失業率が高い地方からブローカー(人材紹介会社・派遣会社)に騙される形で住宅付きの非正規社員として連れてこられ、寮費などを天引きされるとろくに残らないため貯蓄もできず辞められず、不況になると簡単にクビになって住む場所すらなくなる、という形で、事実上の人身売買と強制労働が行われていること。

林さんが、月収18万円と言われて働きにやって来たら、寮費や弁当代電気代などを引かれて手取りが4万円代になってしまった45歳男性の例などを報告した。

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ナショナル レイバー コミティー という労働者の権利に関わるNGO(アメリカ)から来たレター

今回のインタビューは、トヨタのリコール問題ではなく、米国の市民団体が出した小冊子が取っ掛かりになっているそうだ。「あなたの知らないトヨタ」として日本語版も出ている。そういえば一昨年、取材依頼の文書が来ていた(左記)。そこにはこうある。

「私達は最近になって、労働者の権利を侵害する行為が、トヨタにより頻繁に行われている現状を知りました」

以下、抜粋。
私達は最近になって、労働者の権利を侵害する行為が、トヨタにより頻繁に行われている現状を知りました。特に、正規雇用労働者が直面する長時間労働や過労死はもちろんの事、非正規雇用労働者や下請企業に違法派遣された外国人労働者の悲惨な労働条件等です。私たちは日本における、トヨタ下請企業による、ベトナム人労働者への不当な扱いの事実も耳にしています。また、フィリピンでは、労働組合を結成しようとして、トヨタの地元供給業者(サプライヤー)のフィリピン労働者達が不当に解雇されたそうです。私たちは、トヨタによる搾取的な労働環境の改善を要求する政治運動を支援し、あなた方の力になりたいと、強く願っています。

呆れた事に、アメリカやカナダではこのようなトヨタの不完全な経歴が殆ど知られていません。そのような訳で、私達は、トヨタ労働者の団結を援助することの可能性をはっきりと認識しました。私達が日本を訪れ、あなた方と労働者の皆さんが記録したトヨタの不正行為の実態をを正しく理解し、アメリカに持ち帰る事ができれば、その証拠を許につくるリサーチ、文書、労働者の要求を通して、トヨタに接触し、状況改善の為の圧力をかけていく事ができるでしょう。

まず始めに、アメリカはトヨタにとってとても大切な市場です。トヨタのアメリカ法人は、私達、あなた方とトヨタ労働者が共同で起こした政治運動に対し、何らかの対応を迫られるでしょう。

その上、私達の経験では、トヨタのような大手1社がこのような対応を迫られた場合、他の会社(例えばキャノン)に対する似たようなプレッシャーをかけ易くなります。

どんな運動であれ、私どもナショナル レイバー コミティー(NLC)、あなた方、それと、全トヨタ労働者が共同で行うものになります。NLCの方からあなた方に要求を設定する事はありません。むしろ私どもは、トヨタ労働者の皆さんが定める労働環境改善への要求に厳格に従います。

私達は、日本を訪問し、あなた方とトヨタで働く正規雇用労働者、非正規雇用労働者、派遣労働者の皆様に是非お会いしたいです。あなた方が薦める方々となら、どなたにでもお会いする事もいといません。


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『あなたの知らないトヨタ』発行:The National Labor Committee(A4版70ページ)

私は活動家ではないし知っていることは全て記事に書いているので、このときは現地(愛知県)につなぐだけで、会うことはしなかったが、米国の政策決定ではこういうNGOの調査結果で国務省が動くのだな、と実感した。

米国NGOが日米の実態調査報告(ここでジャーナリストの著作が参考にされる)→米国国務省が動き、日本に調査依頼→日本のジャーナリスト等をヒアリング(これが現在)。この後、本件が国務省に報告され、「人身売買報告書」となり、日本の為政者に圧力がかかる。その力次第で、実際に政策決定が左右されるわけである。


日本が高度成長期以降に自由化(規制緩和)の政策決定を行ううえでは、米国の影響力が大きかった。

 私が専攻していた政策過程論で教科書的な位置づけにあるのが「 決定の本質 」で、アリソンは第1~第3モデル(合理的行為者、組織過程、政府内政治)を提示した。だが、キューバ危機の時代の話なので、国の枠を超えた動きは当時はあまり考慮されていなかった。

日米オレンジ交渉では、当初、日本の小さい商社とカリフォルニアのサンキスト社が流通を独占していた。そこで、もう1つの産地であるフロリダのオレンジ輸出会社が、日本の大手商社と手を握り、これに戦いを挑む。結果、福田内閣時代は輸入数量を増やしただけだったが、約10年後の竹下内閣時に自由化が実現した。

フロリダの会社が、日本の政策決定に大きな役割を果たしたわけである。この政策決定劇においては、米国のアクターが日本のアクターと同じくらい重要な役割を果たし、これはアリソンの第3モデルでは説明できない「相互浸透モデル」である、というのが草野厚氏の博士論文テーマで、「草野モデル」と呼ばれる(私は草野ゼミだった)。

オレンジ交渉は70年代の話だ。グローバル化がさらに進んだ現在では相互浸透しまくり、政策決定はさらに複雑になり、NGOやジャーナリストも取っ掛かりとしてかなり影響しているのだと感じる。

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