昨年、イギリスやスペインを旅して、
「日本人メリット」についての本を書いてから特に思うのだが、品川はいろんな意味で日本的だ。
駅前の一等地にあった、昭和5年建築のレトロな「京品ホテル」が取り壊されたのは、一昨年のことだった。その理由が、バブル期のリゾートホテル経営などの失敗による多額の債務にあり、債権はリーマンブラザーズ証券の子会社に売却されたとのことだった。
その跡地には、なんとパチンコ店が今年1月にオープンした。武富士など消費者金融亡きあと、グレーゾーン業界の王者として君臨する「パチンコ」である。当局のお目こぼしにより、ニッポンにしか存在していない巨大な産業だ。
カジノが違法なのに、パチンコはグレーで一応合法、という歪んだ市場競争のなかで、駅前の一等地は当然のように「市場の歪み」から儲かってしまうパチンコ屋に買われた(武富士がボロ儲けしてたのと同じ理屈と考えていい)。
ロンドンやマドリッドの駅前一等地は伝統や歴史的風景を徹底的に守るので、こうはいかないだろう。昭和5年から戦争をへて戦後の高度成長を見てきた歴史ある建物を、何の変哲もない真っ白で味気ないパチンコ屋にしてしまった。なにか大事なものが失われたのではないか。
これは、同じく品川区内にある旧正田邸の取り壊しの際にも感じた。結局、「ねむの木の庭」なる何の変哲もない公園にしている。公園内に保存すれば価値が上がって人も呼べるのだから、破壊する必要はなかっただろう。われわれは、日本の歴史的風景の破壊に寛容すぎる。こういうときに買い取ると言い出す財団や、カネ持ちもいない(そういう人が、本当のヒーローなのに)。
しかも、件のパチンコ屋の名前は、「スーパーハリウッド品川」(岡山の会社らしい)である。恥ずかしい。何がハリウッドだ。ここは日本だ。欧米への憧れと、その裏返しのコンプレックスが、日本人の深層心理に根強くある。いかにも開発途上国らしい。去年、マカオのカジノホテルがベネチアをモチーフにしていたり、フィッシャーマンズワーフがローマ風だったりしたのを見た際には笑ってしまったが、日本も全く同じなのだ。
しかも、品川駅の「アトレ品川」が2004年に開業した際のコンセプトは「ニューヨークスタイル」で、レストランなど、ニューヨークのまねごとをしている。ここは日本だ。恥ずかしい。日本ははやく「戦後」を終わらせて、次のステップに進まねばならない。経済成長という役割を終えた「団塊の世代」には引っ込んで貰って、団塊ジュニア世代以降が、世界から尊敬される新しい日本を作らねばならない。
いい加減、欧米崇拝はもうやめて、日本の歴史や日本人としての強みを活かした街づくりを考えたらどうか。このままでは、永遠に欧米へのキャッチアップ過程から抜けられず、負け犬根性のまま、いつまでも日本は成熟国家になれない。日本国憲法の前文には「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」とある。このような街づくりに名誉など感じる日本人はおらず、逆に、精神的な隷従、圧迫と偏狭の見本、というほかない。