「電波利用料」1時間660円を104万円で売る放送利権の実態
河野太郎衆議院議員から電波利用料の開示を求められた総務省が河野議員に出した挨拶状。要は「記者クラブに対して行うような便宜供与としては応じない、情報公開法どおりに運用するだけ」と跳ねつけている。利権に切り込む政治家と、対応する官僚の微妙な関係が分かる文書。 |
昨年2月、河野太郎衆議院議員がテレビ局の電波利用料を公表し、ネット上では、限りある公共の電波をタダ同然で使ってきたテレビ局への批判が高まった。総務省が河野議員に渡した資料を改めて整理したところ、放送1時間あたりの電波利用料は660円に過ぎなかった。地方局は、タダ同然で仕入れた電波を1時間104万円でキー局に売り、濡れ手に粟の利権商売を展開している。国の財政が逼迫するなか、国民の財産である電波を入札も行わずタダ同然で特定企業に与え続ける理由はどこにも見当たらない。
- Digest
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- 電波利用料は1局平均年530万円
- 「3億1千万円」は電波法施行令で追加
- 電波利用料は1時間平均660円
- 電波の価値は地方局104万円、キー局314万円
- はじめて分かった30局の実際の電波利用料
- 2010年は1・7倍の負担増
- テレビ局が総務省に出したヘンな意見書
- テレビ朝日「悪意を持って利用される可能性を否定できません」
- 開示文書(PDFで提供)
- ■平成17~19年度電波利用料負担額
- ■河野太郎衆院議員とやりとりした文書
- ■総務省に対しテレビ局から送られてきた意見書
河野太郎衆議院議員がメルマガとブログでテレビ局の電波利用料を公表した記事「本邦初公開?」(2008年2月24日付け)では、営業収益100億円以上の30のテレビ局について書かれているが、河野議員には全128局分が提出されていたことが総務省への行政文書開示請求でわかった。
また、河野議員に開示されたのは、実際に支払われた金額ではなく見込み額だったことも分かった。2005(平成17)年から2007(平成19)年の実際の納付額も開示されたので、詳しい金額は記事末尾のPDFを参照いただきたい。
電波利用料についての説明は、総務省の「電波利用ホームページ」の「電波利用料制度の目的」やウィキペディアの「電波利用料」の項が詳しい。テレビ局の電波利用料が不当に安いという指摘については、ブログ「A Successful Failure」の記事「日本の放送事業者に対する電波利用料は不当に安い」(2007年5月5日付け)が参考になる。
河野議員も同様の問題意識から総務省に情報公開を求め、こう記している。
テレビ局の電波利用料負担は、ここにあげなかった局を含めて総計で34億4700万円にしかならない。一方で営業収益は3兆1150億8200万円。電波を独占して上げる収益に対して利用料が千分の一。低すぎませんか。
電波利用料は1局平均年530万円
総務省が河野議員に出した電波利用料の一覧表。平成22年度の見込み額が出ている資料はこれ以外にないという。 |
今回公開された文書で、まず目立つのは在京キー局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)にNHKを加えた6局と、準キー局(讀賣テレビ、朝日放送、毎日放送、テレビ大阪、関西テレビ)含むその他122局との金額の差が大きいこと。
河野議員に出された文書では128局の「電波利用料負担見込み額」の合計は34億4700万円だが、このうちNHKの負担額が35%と突出して大きく、次に5つの在京キー局が各9%ずつで45%、残りの20%を122局で負担している。
金額にするとNHKが12億1500万円、在京キー局が各局3億1700万円または3億1800万円、その他122局の合計が6億4500万円。122局のなかでも約15倍の開きがある。北海道(北海道放送と札幌テレビ)の約1460万円を最高額に、大阪が1000万円、福岡が550万円、愛知が440万円となっており、最小額は栃木(とちぎテレビ)の100万円。地方122局の平均は、1局あたり530万円で、中央値は500万円だった。
「3億1千万円」は電波法施行令で追加
経済規模とは逆に大阪より北海道のテレビ局の方が電波利用料が高いのは、無線局(送信アンテナ)の周波数と出力と数によって電波利用料が算出されるためで、送信エリアが広く出力が大きかったり、山がちであるなど複雑な地形のためにアンテナを多く設置する必要のあるエリアほど高くなる。
テレビ局の電波利用料は、電波利用ホームページの「無線局免許情報検索」で、目的とするテレビ局の無線局を検索し、無線局の種類と出力に対応する料金を「電波利用料額表」から1つずつ探して算出し、電波法施行令の第十二条の2で定められた金額を加算した額である。在京キー局の電波利用料が3億1700万円ないしは3億1800万円であるのは、追加額3億1000万円が加算されているからだ。
この「追加額」というのは、地デジタル放送への移行に向けて現在のアナログ周波数を別の周波数に変換(アナアナ変換)するための時限措置として2003年に電波法施行令で新たに定められた金額で、額は3億1000万円、8万3000円、620円の3種類。周波数と出力によって6つに区分されている。
大規模局 | 中規模局 | 小規模局 | |
VHF | 50kW以上 | 0.1W以上50kW未満 | 0.1W未満 |
UHF | 10kW以上 | 0.2W以上10kW未満 | 0.2W未満 |
料額 | 310,000,000円 | 83,000円 | 620円 |
アナログ周波数の変更対策費用が追加額の名目とされているが、2004年11月21日付けの総務省の報道資料「放送事業者に対する電波利用料の見直し案に係る意見照会の実施等について」で、「放送事業者の受ける受益に対して負担が小さすぎるという指摘があることを踏まえ」と書かれている。これは、総務省資料「電波利用料制度の現況について」の7ページのグラフで分かるように、携帯電話事業者の負担額が全体の86%を占めていることを指す(2007年)。
さらに、著書『電波利権』(新潮新書、2006年1月)がある池田信夫さんが周波数から電波の利用状況を調査したところ、「携帯」「携帯基地」が使う電波は、電波全体の11%に過ぎない。この調査によると「放送」が使う割合は8%である(RIETI Policy Discussion Paper Series 03-P-003「電波はどう使われているか」の6ページのグラフ)。
つまり、電波の利用状況としては11%と8%で大差はないにもかかわらず、携帯事業者(最終的には携帯ユーザーである生活者)が86%(約560億円)も負担しているのはおかしいということで、キー局が3億1千万円ずつ追加負担することになった。それでも焼け石に水のレベルだ。
この理不尽は、既存の電波利用料の計算式に「無線局の数」が大きく影響することによる。数が多い携帯電話利用者の負担率が高くなる仕組みになっているのだ(事業者が利用者から徴収する)。そして、携帯電話利用者が払う電波利用料の大部分が、デジタル化にともなう「アナアナ変換」の費用に使われることに対し、携帯電話事業者が、それはおかしいと批判したのである。
実際にNTTドコモ、KDDI、Jフォン、ツーカーセルラーの各社は2002年、当時の総務大臣(片山虎之助氏)に対し連名で「電波利用料は重要かつ様々な目的に使われており、使途のバランスに配慮し、特定周波数変更対策業務以外の業務を損なうことのないようご配慮をお願いいたします」など4項目の申し入れをおこなっている(「地上デジタル放送開始に向けたアナログ周波数変更対策に関する申し入れ」)。
河野議員がブログで公表した30局が、実際に納付した電波利用料の一覧。 |
電波利用料は1時間平均660円
地方122局を対象に、放送1時間あたりの電波利用料を算出してみた。1日の放送時間を22時間とすると、1つのテレビ局の年間放送時間は8030時間で、前述した122局の電波利用料の平均530万円で割ると、1時間平均660円となる。この金額が、地方で公共の電波を国から1時間借りるのにかかる金額になる。
納豆ダイエットのデータ偽造が問題になった関西テレビの「発掘!あるある大辞典2」の経費に関して、池田信夫さんはブログの記事「テレビ業界という格差社会」(2007年4月24日付け)で、「(「あるある2」のスポンサーである花王が電通に支払った放送1回分の推定額)1億円から電通の取り分を引いた8500万円のうち、4800万円が電波料として地方局に取られ、関テレ自身も500万円の電波料をとる」と書いている。
この「電波料」とは、池田さんがブログのコメント欄に書いた補足によると、「ある県でネットされると、たとえば視聴者が50万人増えるとすると、それに比例して広告料が増えるので、50万人分の電波料をその県の局に払う」スポンサー広告料だという
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テレビ朝日の意見書。「悪意を持って利用される可能性を否定できません」と書かれている。
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電波利用料は1時間平均660円
テレビ局の電波利用料の詳細が載ってる
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読者コメント
NHKも税金はらってるの?
まさか、こんな実態だったとは。。。まっとうな企業努力することなく、政治活動に専念しさえすればテレビ局は儲かる仕組みなんですね。異常に高い給与水準が維持できる理由の一端を知った気がします。こんな業界あっていいのか?
そもそもキー局制度と言うか、莫大な費用を使う地上デジタルそのものが必要ない。衛星やケーブルを使えばアンテナ(中継局)を立てまくる必要もないし、電波を占有する必要もないし。
これはリーク情報よりも情報公開法で得た情報を基にした記事のほうが良質でありうるという一例になっていますね。結局のところ記者クラブで取れるようなネタはただの一行コメントや政局話のようなニュース・バラエティが流すゴミの成分になるに過ぎないのではないかと。
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