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チェチェンで何が起こっているのか

情報提供
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『春になったら』より(以下同)
 ロシア南部北オセチア共和国で起きた人質事件は、チェチェン戦争を写す鏡である。事件現場の悲惨な映像に「チェチェン」とテロップを入れ替えれば、過去10年間チェチェン内で起きた数々の事件を見ることができる。

 事件の根源は、ロシアによるチェチェン市民への「国家テロ」にある。それも、100万人の人口のうち20万人も殺すという、ベスラン事件の数百倍の規模だ。

 ロシア帝国は16世紀からチェチェン侵略を開始し、住民は徹底抗戦していた。18世紀末からロシアは攻撃を強化し、19世紀前半の50年にわたるカフカス戦争でチェチェンは人口の半分を失う犠牲を出し、1861年ロシア帝国に併合された。

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 帝政時代、ロシア十月革命後もロシアは弾圧を続け、そのつどチェチェン側が抵抗しロシア側がジェノサイドで応えた。とりわけ1994年のスターリンによる民族強制移住では、わずか2日間でほぼ全民族が貨車に詰め込まれてカザフスタンに移送され、人口の約60%が失われたという。

現在の戦争のきっかけは1991年に、チェチェンが連邦からの独立を宣言したこと。独立をつぶすために94年12月にロシア軍が全面侵攻した。96年8月末には停戦協定が結ばれたものの、99年9月にロシアは再侵攻し、全土を占領。今も武力抵抗が続いている。

 最も重要なのは、ロシアの言う「テロリスト掃討作戦」だ。その実態は、ロシア軍が徹底的に家宅捜索して住民を連行、収容所などで拷問して殺害することだからである。収容所体験のある元チェチェン保険大臣のハンビーエフ医師は、逮捕された人の8割が死亡していると証言している。

 拷問で心身障害者となっても運良く生き残っていれば、家族はロシア軍に膨大な金(2000ドル~6000ドル程度)を支払って、返してもらう。また拷問死や裁判なしの処刑の場合も、ロシア軍は遺族に遺体引渡し料を要求するのが普通だ。金を用意できなければ捨てられる。実際、大量の遺棄死体が何度も発見されている。

 こうした中でチェチェンの子どもたちは目の前で肉親や友だちを殺され、回復しがたいほどの心の傷を負っている。心を病み、ひと言も言葉を発せられなくなる子もいるという。

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 国際医療団体の「世界の医療団」(メドゥサン・デュ・モンド)は、子どもたちの治療の一貫として絵を描かせる活動を行なってきた。同団体日本支部広報によると「ひと言も言葉を発せられなかった子が、絵を描くことで、言葉を取り戻すことができました」という。

 ところが2004年夏、ロシア政府は、子どもたちに絵を描くことを禁止し、クレヨンや画用紙を取り上げてしまった。『春になったら』は、難民の子どもたちが描いた膨大な絵を動画(アニメ化)にしたものである。

作者のティムール・オズダミールは1987年生まれ、現在18歳。戦争の最中、チェチェンの首都と田舎、隣国イングーシとアゼルバイジャンを転々とする。

 99年秋、戦争の激化にともない父親の手で隣国イングーシに避難、国内に戻った父親は戦死。2000年春、13歳のときにアゼルバイジャンに逃れた母親の元に行こうと叔母と共にモスクワを経由したところ、チェチェン人であるという理由だけで拘束投獄される。

 その後見ず知らずのロシア人飛行士の機転で救出され、知人たちの手でアゼルバイジャンに送られ母親との再会を果たす。近年はパソコン操作を覚え、初めてとりくんだ作品がこの『春になったら』である。

 演出したティムールの母、ザーラ・イマーエワは、1961年にチェチェンの山村シャトイで生まれた。第2次チェチェン戦争の勃発でアゼルバイジャンに亡命。そこで難民の子どもたちの証言をビデオに記録、「子どもの物語にあらず」(2000年)を制作している。

 母子で来日した際に彼らの存在を知った有志により2004年4月、ティムールのコンピューター・アートの才能を伸ばすための日本留学が実現した。目下、新潟で日本語の特訓を受けている。

■『春になったら』&『子どもの物語にあらず』(4,000円、送料込)は通販あれこれにて発売中。 売上金の一部は、作者に送られます。

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読者コメント

日本人は目覚めて2008/12/22 10:40
河内貞憲2008/02/01 02:51
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