多重債務者に「元利+延滞金一括弁済せよ」と迫る日本学生支援機構の非情回収
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2004年から独立行政法人となった「日本学生支援機構」(旧日本育英会)市谷事務所(東京都新宿区)。理事職は文部(科学)省の天下りポストで年間1600万円以上の高額報酬が払われている。 |
◇ 元本・利息・遅延損害金290万円払え
釧路市の中学校教師の男性Bさんのもとに「支払督促」と題された手紙が裁判所から届いたのは昨年暮れのことだ。数枚つづりの1枚目にはこうあった。
<支払督促>
・当事者の表示、請求の趣旨・原因は別紙のとおり。
・債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に払え。
平成21年12月1日
釧路簡易裁判所
支払督促とは、裁判所を通じて借金を取り立てる、いわゆる「法的措置」である。債権者など金銭の回収を希望する者が裁判所に申し立てを行い、裁判所は相手側に督促通知を出す。通知を受けた相手は2週間以内に異議申し立てをすることが可能で、その場合は訴訟に移行する。もし異議がなければ督促内容が確定し、判決と同様の効力をもつ。財産や給料の差し押さえもできる。
Bさんに支払督促を申し立てた「当事者」は、日本学生支援機構だった。日本学生支援機構とは昔の名を日本育英会という。2004年から独立行政法人となり名前を変更した。学生の奨学金を扱う日本最大の組織である。代理人として田村智幸弁護士の名前もある。札幌弁護士会の所属弁護士だ。
奨学金の督促であることはすぐにわかった。だが、Bさんは次の「別紙」をめくり、そこに書かれた請求額をみて驚いた。
<別紙>
1 155万8069円(元本額金)
2 133万9402円
内訳
①28万6462円(利息)
②105万2940円(確定損害金)
元本・利息があわせて184万円ほど。それに損害金約105万円を加えた合計金額289万7471円を払えというのだ。また、支払督促の手数料9430円と、2009年7月1日以降支払い済みまで元本に対して年10%の遅延損害金を払え、とも書いている。
大学時代に借りた奨学金の返済が滞っていたのは事実だ。だが、まさかこういう形で請求されようとは思ってもみなかった。しかも、損害金(遅延損害金=一般的には延滞金)105万円まで払えというのは心外だった。
不安を抱いたBさんは、以前から相談に乗ってもらっていた釧路弁護士会の今瞭美弁護士に事情を伝えた。今氏はすぐに異議申し立てを行った。そうしなければ支援機構の主張するままに財産を差し押さえられかねないからだ。異議申し立ての内容は後述する。
◇ 「送金可能になったらご連絡を」と言っていたハズが…
Bさんは京都府内の私立大学を1992年に卒業後、出身地の釧路市に戻って中学校教師として就職した。育英会から奨学金を借りたのは大学時代の4年間。無利息の「1種」ではなく最高で年3%の利息がつく「第2種」という枠だった。月4万5000円を4年間借り入れて合計200万円あまり。卒業後分割で返済するはずだった。ところが、家業の資金ぐりのために借金をするうちに多重債務状態となり、50万円ほど払ったところで返済できなくなってしまう。
借金を整理するため、今弁護士のところに相談に行ったのは2002年のことだ。今氏はサラ金など数社あった金融機関と弁済額や支払方法について交渉し、それぞれ和解を取りつけた。
Bさんの負債は最終的に1000万円ほどになった。このほかに奨学金が残っていたが、これは債務整理の対象からはずすことにした。奨学金の支払いについては待ってもらえると判断したからだ。
育英会の契約には、約束どおりの返済ができない場合は年10%の遅延損害金を払う旨の条項がある。しかし、Bさんは育英会と話をした結果、債務整理をしている間は返済を待ち、遅延損害金も免除する、そういうことで話がついたと信じていたのだ。
以後約7年間にわたって、Bさんは奨学金を除く各社の負債を払うことに専念してきた。
育英会が支払いを待ってくれている。また遅延損害金も免除してくれている。そうBさんが信じていたことを裏付ける証拠もある。債務整理をはじめた当時の2003年5月と12月、育英会から手紙が送られてきていて、次のように書かれているのだ。
まず03年5月の1通目――
釧路市の中学校教師の男性Bさんのもとに「支払督促」と題された手紙が裁判所から届いたのは昨年暮れのことだ。数枚つづりの1枚目にはこうあった。
<支払督促>
・当事者の表示、請求の趣旨・原因は別紙のとおり。
・債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に払え。
平成21年12月1日
釧路簡易裁判所
支払督促とは、裁判所を通じて借金を取り立てる、いわゆる「法的措置」である。債権者など金銭の回収を希望する者が裁判所に申し立てを行い、裁判所は相手側に督促通知を出す。通知を受けた相手は2週間以内に異議申し立てをすることが可能で、その場合は訴訟に移行する。もし異議がなければ督促内容が確定し、判決と同様の効力をもつ。財産や給料の差し押さえもできる。
Bさんに支払督促を申し立てた「当事者」は、日本学生支援機構だった。日本学生支援機構とは昔の名を日本育英会という。2004年から独立行政法人となり名前を変更した。学生の奨学金を扱う日本最大の組織である。代理人として田村智幸弁護士の名前もある。札幌弁護士会の所属弁護士だ。
奨学金の督促であることはすぐにわかった。だが、Bさんは次の「別紙」をめくり、そこに書かれた請求額をみて驚いた。
<別紙>
1 155万8069円(元本額金)
2 133万9402円
内訳
①28万6462円(利息)
②105万2940円(確定損害金)
元本・利息があわせて184万円ほど。それに損害金約105万円を加えた合計金額289万7471円を払えというのだ。また、支払督促の手数料9430円と、2009年7月1日以降支払い済みまで元本に対して年10%の遅延損害金を払え、とも書いている。
大学時代に借りた奨学金の返済が滞っていたのは事実だ。だが、まさかこういう形で請求されようとは思ってもみなかった。しかも、損害金(遅延損害金=一般的には延滞金)105万円まで払えというのは心外だった。
不安を抱いたBさんは、以前から相談に乗ってもらっていた釧路弁護士会の今瞭美弁護士に事情を伝えた。今氏はすぐに異議申し立てを行った。そうしなければ支援機構の主張するままに財産を差し押さえられかねないからだ。異議申し立ての内容は後述する。
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多重債務に陥り債務整理をしていたために支払いができなかった男性に対して起こされた「支払督促」の文面。遅延損害金105万円を含めた計約290万円を請求している。男性側は「支払猶予について了承があった」と損害金の免除を求めているが、日本学生支援機構は一歩も譲らない構えだ。![]() |
Bさんは京都府内の私立大学を1992年に卒業後、出身地の釧路市に戻って中学校教師として就職した。育英会から奨学金を借りたのは大学時代の4年間。無利息の「1種」ではなく最高で年3%の利息がつく「第2種」という枠だった。月4万5000円を4年間借り入れて合計200万円あまり。卒業後分割で返済するはずだった。ところが、家業の資金ぐりのために借金をするうちに多重債務状態となり、50万円ほど払ったところで返済できなくなってしまう。
借金を整理するため、今弁護士のところに相談に行ったのは2002年のことだ。今氏はサラ金など数社あった金融機関と弁済額や支払方法について交渉し、それぞれ和解を取りつけた。
Bさんの負債は最終的に1000万円ほどになった。このほかに奨学金が残っていたが、これは債務整理の対象からはずすことにした。奨学金の支払いについては待ってもらえると判断したからだ。
育英会の契約には、約束どおりの返済ができない場合は年10%の遅延損害金を払う旨の条項がある。しかし、Bさんは育英会と話をした結果、債務整理をしている間は返済を待ち、遅延損害金も免除する、そういうことで話がついたと信じていたのだ。
以後約7年間にわたって、Bさんは奨学金を除く各社の負債を払うことに専念してきた。
育英会が支払いを待ってくれている。また遅延損害金も免除してくれている。そうBさんが信じていたことを裏付ける証拠もある。債務整理をはじめた当時の2003年5月と12月、育英会から手紙が送られてきていて、次のように書かれているのだ。
まず03年5月の1通目――
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「回収強化」の掛け声のもとで、督促などの関連業務の多くが外注されている。債権管理回収会社(サービサー)や弁護士などに支払われた「貸与事業業務経費」は年間50億円を超す。その財源として「遅延損害金」収入が当て込まれている可能性は高い。日本学生支援機構市谷事務所に掲示された入札の公告。
昭和21(1946)年当時の大日本育英会のポスター(『創立60周年記念誌』より)。「優秀なる学徒にして経済的理由により修学困難なるものに対し学資の貸与を行いもって国家有用の人材を育成することを目的とす」という大日本育英会第1条の条文が書かれている(上)。有利子貸与制の利用を呼びかける現在の日本学生支援機構のチラシ。月額12万円のものも登場しているが、返済困難になった場合には厳しい取り立てが待っている(下)。
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読者コメント
ご指摘ありがとうございます。勉強になりました。
三宅
ちょっとずれますが、記者様は、あるところで、学費で借金しないで済むのは、防大と防衛医科大だけと嫌味いっぱいに言われてましたが、給料の出る大学校は、この二校だけではないですからね。しっかり取材してくださいね。
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