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踊るフジ・メディアHD株主総会が問う“会社法違反” 解雇された労組委員長が乗り込んだ!

情報提供
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株主総会ひな壇全景。千人以上収容の会場のうち、写真に写っている部分と撮影位置から少し後ろまでの株主たちは会社提案に拍手をしていた。しかし、その後ろに着席した株主らは、採決時に拍手をしない人が非常に多かった。
 労組を結成したため解雇された「反リストラ産経労」の松沢弘委員長が、フジ・メディア・ホールディングス株主総会に出席したのは、6月下旬のことだった。年収1憶7100万円の日枝久・同社会長と極貧を強いられる解雇記者との対決を見守るため、筆者は総会に赴いた。本稿はそのルポである。反リストラ産経労が、フジテレビ・産経新聞グループによる不当労働行為を容認した中央労働委員会の命令取消を求め東京地裁に提訴した行政訴訟(被告=国)の判決を9月30日に控え、これまでの経緯とともに報告する。(会社作成の総会議事録、および松沢氏の事前質問状26項目はPDFダウンロード可)
Digest
  • 解雇された労組委員長が株主総会に乗り込む
  • 松沢氏が全治5日間の暴行受けた08年株主総会
  • フジHD社員が“ヤラセ質問のリハーサル”を内部告発
  • 株主には撮影・録音禁止、フジ側は株主をカメラ撮
  • 配当金大幅減、役員報酬1億円超2人
  • 株主は拍手要員なのか?
  • 松沢委員長 ヤラセ総会リハなど追及
  • 教科書3億円疑惑と不祥事オンパレード
  • 修正動議を提出「役員賞与3千万円をゼロにせよ」と松沢氏
  • 議長解任動議を松沢氏が提出

解雇された労組委員長が株主総会に乗り込む

フジ・メディア・ホールディングス(以下フジHD)の株主総会会場に設置された役員席は、千人以上収容の株主席を見下ろす巨大な“ひな壇”であった。裁判所の裁判官席を巨大化し、さらに高さを増した感じで、一般株主席からは仰ぎ見るような雰囲気である。

強いライトに照らされた役員席の白が強調され、議長席に座る日枝久会長をはじめ、ダーク系のスーツを着た役員らの姿が浮かび上がる。

総会会場外では、争議の早期解決をもとめて反リストラ産経労と支援者らがビラまきや演説をした。08年総会時には救急車が出動する騒ぎだった。

2010年6月29日、総会会場に筆者は赴いた。

筆者が同社の株主総会を取材したのは、メディア界にとって重要な労働争議を抱えているからである。1994年、産経新聞社系列の日本工業新聞(現紙名=フジサンケイ・ビジネスアイ)内に真っ当な労働組合を結成したために解雇された松沢弘委員長が、株主として総会に出席する、と聞いたからである。

となれば、年収1憶7100 万円の“メディア王”日枝久フジHD会長と、“極貧ジャーナリスト”を強いられている松沢弘氏の直接対決となるはずだ。高齢の母と長年通院する実兄、妻と幼い子供ふたりを抱える松沢氏は、解雇されて以来17年近くも、闘い続けている。

しかも今年は、フジテレビ・産経新聞グループによる不当労働行為を容認した中央労働委員会の命令取消を求めて「反リストラ産経労」が提訴した行政訴訟(被告=国=中労委)の判決が、9月30日に東京地裁で控えている。

反リストラ産経労・松沢弘委員長解雇事件の経緯

1994年 1月10日 新組合「反リストラ産経労」結成
1994年 2月 4日 反リストラ産経労が東京都労働委員会に不当労働行為救済申立て
1994年 2月 8日 松沢弘委員長、実態がほとんどない千葉支局(支局員1名)に新設された選任支局長職へ配転
          役員から松沢委員長に「脅迫状」まがいの文書
1994年 9月16日、19日~22日 産経グループとして34年ぶりにスト
1994年 9月22日 松沢氏、懲戒解雇
1996年 5月 8日 懲戒解雇の無効などを求め松沢弘委員長が東京地裁に会社を提訴
2002年 5月31日 東京地裁、松沢弘委員長全面勝訴の判決
2003年 2月25日 東京高裁が逆転判決
2005年12月 6日 最高裁が高裁判決を追認
2006年12月 6日 東京都労働委員会が、反リストラ産経労による不当労働行為救済申立を棄却する命令を交付
2008年 5月23日 中央労働委員会が反リストラ産経労の再審査申立てを棄却する命令を交付
2008年11月18日 中労委の命令取消を求め国を相手取って、東京地裁に行政訴訟を提起
2010年 9月30日 判決予定

このような経過があるため、ここ数年の株主総会は波乱含みである。総会に絡む経緯をまとめてみた。

松沢氏が全治5日間の暴行受けた08年株主総会

解雇された松沢氏は、フジHDの株主となり、総会に出席し、グループ内の不祥事や自ら関わる争議の早期解決について質問しようと思った。2008年6月27日、今回の総会と同じ会場に松沢氏は向かった。

ゆりかごめ(モノレール)の台場駅から会場のホテルへ通じる通路に到着した松沢氏は、組合旗を掲げて、支援者たちとともにビラまきや、かけつける株主たちにアピールしようとしていた。すると、ゆりかごめ職員10人ほどに突き飛ばされ、救急車が現場にかけつける騒ぎとなり、松沢氏は全治5日間の打撲傷(翌日の診断)を負った。

このときは、ゆりかごめ職員ばかりか、「フジテレビスタッフ」という名札を掲げた黒服の屈強な男たち、ホテル警備員、加えて湾岸署から20人の警察官が出動して松沢氏らのビラまき活動を暴力的に制したのである。

異様なほどの警戒だ。株主総会開始前の活動を封じられ怪我を負った松沢氏だが、なんとか総会会場内に入ることができ、総会開始直前の暴力行為について質問した。すると、太田英昭専務は次のように答えたのである。

「総会の目的は、経営方針を審議して承認してもらうことにある。総会は大事な場だ。会場内のみでなく、外でも大きな混乱が生じるなら必要な措置を講ずる。違法行為があれば必要な措置をとる」

総会前の暴力的な排除を指揮したことを示唆している。しかし、実際に「大きな混乱を生じ」させたのは取り締まる側であり、「違法行為」などは存在しなかった。

フジHD社員が“ヤラセ質問のリハーサル”を内部告発

 暴行事件の翌年(2009年)の総会では、絵に描いたようなヤラセ質問と事前リハーサルの実態が明るみに出た。きっかけは、フジHD社員による内部告発が反リストラ産経労に届けられたこと。松沢委員長によると、告発の概略は次のとおりだった。
≪総務部から4月21日9時56分、39人宛に社内メールが送られた。そのメールには、5月7日株主総会会場のホテル見学があり、全体をみたあと分科会に分かれて各所を確認することなどが書かれている。また、5月19日午後3時から午後5時まで、オフィスタワー22階の大会議場でやらせリハーサルが行われ、ここには200名以上の社員株主が休暇届けも出さずに強制参加させられた≫

さらに総会前日の6月25日には、“リハーサル”を伝える情報が反リストラ産経労に届けられた。それによると、社員株主のうち、自分で質問する者は一人もおらず、総務部が全員に質問を指定している。こうして一般株主の発言を封じ込める。あらかじめ決められた質疑応答のリハーサルが社員株主200名によってなされたが、その日程は、5月7日見学会(総会会場見学)、5月19日、6月15日、6月19日、6月25日の5回。

このうち6月15日に、総務部が用意した質問内容を、社員株主一人ひとりに割り当てる作業が行われたという。

一連の情報を受けた反リストラ産経労は、4月21日付で39名にメール送信した人物を特定した。その結果、松沢委員長は「発信者が実在の人物であることなどから、それなりに信頼しうる内部告発の可能性が高い」と判断したのである。

あらかじめ質問事項がわかっている社員株主ばかりが発言するなかで、何度も質問を要求して、ようやく質問にたてた松沢氏は、“やらせ総会・やらせ質疑応答リハーサル”について聞いた。役員や社員スタッフたちは、一瞬凍りつくようだったという。

すると日枝久議長に指名された太田英昭専務が、「適法の範囲でリハーサルを行っている」と、内部告発による情報の概要が事実であることをあっさりと認めた

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(上)ひな壇上部に設置されたカメラ。このカメラは松沢弘委員長とその支援者をずっと撮影していた。(下)株主は一方的に撮影されるが、カメラ・ビデオ・録音は禁止された。

事前に提出された27ページに及ぶ質問状(上)と総会で質問する反リストラ産経労・松沢弘員長(下)

総会後自宅に帰り、紙袋の中をみると撮影や録音などを禁止する紙が入っていた。

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テレビ人間2010/10/09 13:53
編集部2010/10/07 09:15会員
さらちゃん2010/10/05 18:36
イエスマン2010/09/30 18:41
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