My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

物証ゼロで「お前が窃盗犯だ!」 1等空尉が告発する警務隊の無法捜査

情報提供
ReportsIMG_J20110215233725.JPG
上司を困らせるためにUSBメモリを盗んだ--物証ゼロのまま窃盗容疑をかけられ、警務隊から自白強要をされた経緯を証言する池田久夫1等空尉。
 航空自衛隊輪島分屯基地に所属する池田久夫1尉(47歳)の身に、その苦難は突如ふりかかってきた。2009年5月、「小松地方警務隊」によって、以前の職場だった小松基地でUSBメモリを盗んだ容疑をかけられたのだ。「任意捜査」とは名ばかりで、20日間にわたる自白強要。「逮捕されたら子どもがいじめられるぞ」などと暴言の連続で脅された。不起訴になって潔白が証明されたが、謝罪はない。そもそも本当に窃盗事件だったのかどうかすら怪しい。警察や検察の捜査の可視化が問題となっているが、自衛隊内の警察組織である「警務隊」の可視化も急務の課題だ。
Digest
  • 土足で家に上がりこんだ警務隊の捜索
  •  不起訴決定でも不利益は続く
  •  USBメモリは本当に「窃盗」されたのか
◇ 「関与する立場にない」と防衛省はいうが
 雪の舞う曇天のどこからか爆音がしている。空気を切り裂くような鋭い独特の音はF15戦闘機が離陸する音だ。爆音は3度立て続けに聞こえるとまた静寂がもどった。

 航空自衛隊小松基地(基地司令・鶴田眞一空将補)のある基地の町・石川県小松市を訪れたのは今年1月6日のことだった。「USBメモリを盗んだ」という窃盗の疑いをかけられた1等空尉・池田久夫氏(47)に会うためである。池田1尉が小松基地の管制隊整備班長だったとき、隣の職場である管制隊管制班に保管してあったUSBメモリ3本を盗んだという疑いだ。だが、盗んだ覚えなどない、濡れ衣だ、警務隊の違法捜査で苦しめられた――彼はそう訴えているという。ぜひ話を聞きたかった。

 「警務隊」とは自衛隊内の犯罪や事件を捜査する自衛隊の警察組織のことだ。刑事訴訟法に基づく捜査権をもっている。この警務隊が無実の隊員に濡れ衣を着ようとしたとなると、自衛隊版の冤罪事件あるいは冤罪未遂事件ということになる。

 待ち合わせた小松駅に池田1尉は軽自動車で現れた。細身で穏やかな感じの人物である。車を出して自宅に向かう道すがら、筆者は「取材について自衛隊から何か言われましたか」と尋ねた。池田1尉はこう答えた。

 「何時にどこで会うのか、内容を報告するように。そう言われているんです」

 妙な話だった。というのも、今回の取材に先立って航空自衛隊幕僚監部(空幕=新宿区市谷本町)広報課を通じて池田1尉のインタビュー取材を申し入れ、断られていたからだ。 空幕広報室に取材を申し入れたのは2010年10月25日。これに対し、10日あまり後の11月8日、空幕広報室の隊員から電話で回答があった。

 「USBメモリ紛失被疑事案は、個人の私生活や個人の見解に関する問題なので、組織として関与する立場になく、インタビューには応じるところではない」

 「では個別に池田1尉を取材することになるかもしれませんが、問題になるようなことはありませんか」

 そう尋ねると隊員は同じ文句を繰り返した。

 「(防衛省は)関与する立場にありませんので」

 防衛省は関与する立場にないと正式に回答しておきながら、取材の日時や場所を聞いたり、内容の報告を求めたりするのはおかしい。別の意味で「関与」しすぎなのではないか。

 報告を求めるだけではない。池田1尉によれば「取材に立ち会わせましょうか」とも言ってきたという。「個人の私生活や個人の見解に関する問題」というのは、取材を断る単なる口実だったのか。そんな印象を抱かざるを得なかった。

 インタビューは小松市内にある池田1尉の自宅で、数時間にわたって行った。その内容をふまえて周辺取材を加え、概ね事件の概要がわかった。以下、もっぱら池田1尉の視点からみた経緯を時系列にたどる。

ReportsIMG_I20110215235336.JPG
事件は、小松市の県税事務所の男子トイレにCDの入った茶封筒が置かれていたことから始まる。県税事務所では落し物と思っていたという。現場検証も聞き込みもなされていない。
◇ 発端は「トイレにCD」事件
 すべては2008年3月19日に起きた「事件」にはじまる。この日早朝、小松市中心部にある県税事務所1階のトイレに茶封筒が置かれていた。中にCD1枚が入っていた。そんな、一見ささいな出来事である。

 県税事務所職員が取材に答えたところによれば当時の状況は次のとおりである。

 ――午前8時ごろ、いつものように清掃員の女性が県税事務所を訪れて掃除にとりかかった。建物は夜間施錠されていて、清掃員が来る直前に警備員が開けている。これもいつもどおりだ。1階にある男子トイレの清掃にとりかかったとき、大便器の脇に大型の茶封筒が壁にたてかけてあるのに気がついた。

 「忘れ物だ――」

 清掃員の女性はそう思って封筒を取り上げて、まもなく出勤してきた職員に渡した。

 県税事務所の建物には一般の人の出入りが頻繁にある。税金の申告はもちろん、パスポートの発券業務を扱う部署もあるからだ。封筒を受け取った職員もやはり「忘れ物だろう」と考えた。

 職員の記憶によれば、封筒はA4版くらい。二つ折りにしてテープで封がしてあった。手で触れた感じから中にCDが1枚入っているのがわかったという。

 封筒には〈航空自衛隊小松基地〉と印刷されていた。住所・電話番号もあった。印刷の字体に不自然さはなく、小松基地の封筒だろうと職員らは思った。自衛隊の人か、あるいは自衛隊に出入りする人が忘れていったに違いない――そう考えて小松基地に電話をかけた。自衛隊に聞けば落とし主がわかるだろうと判断したのである。

 電話をかけてしばらくすると小松基地から2人の隊員がやってきた。小松地方警務隊の隊員だった。封筒の中をあらためようということになり、職員立会いのもとで隊員らは封を切った。出てきたのはCD1枚。

 ウチのものです――。警務隊員はそういった意味のことを言って封筒とCDを引き取り、県税事務所を後にした。落とし主が見つかってよかったとばかり職員らは仕事に戻った。以来、CDの件は忘れかけていた。警務隊からの問い合わせもなかった。指紋採取や現場検証、事情聴取の類も皆無だった。落し主が見つかって一件落着といったところだったのだ。

◇アリバイは完璧だったが…
 県税事務所では「落し物」と信じて疑わなかったCDの件だが、小松基地内では騒動を引き起こしていた。防衛省が公表したところでは、CDに入っていたデータの一部は管制隊管制班にあるUSBメモリの内容と同じものだった。そして管制班の保管庫に保管されているはずのUSBメモリ3本が行方不明になっていることが発覚する。

 池田1尉が盗んだと言われたUSBメモリとは、この管制班からなくなったものである。盗んだメモリのデータをCDにコピーして県税事務所のトイレに置いた。そういう疑いをかけられたのだ

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り5,721字/全文8,153字

池田1尉が20日間、100時間以上にわたって過酷な取り調べを受けた小松地方警務隊取調室付近(上・建物の3階)。「(逮捕されると)子どもがいじめにあうぞ」「奥さんが仕事できなくなるぞ」などと取り調べで警務隊員に言われた内容を記したメモ(下)

盗まれたのか、あるいは紛失か。USBメモリをめぐって揺れる航空自衛隊小松基地。警務隊の捜査のあり方を含めて責任問題にどう決着をつけるのか注目される。

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

プロフィール画像
shaketoba2011/02/24 11:23

強制捜査受ける時には録画が必須だなぁ。ストーリーありきの捜査はやっちゃいかんよ。

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

とち2014/10/02 09:20
振武集団2011/02/24 12:19
支援者A2011/02/24 05:18
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本文:全約8,900字のうち約6,050字が
会員登録をご希望の方は ここでご登録下さい

新着のお知らせをメールで受けたい方は ここでご登録下さい (無料)

企画「納税者の眼」トップページへ