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千鳥ヶ浜海水浴場〝職質″転落死事件 「死人に口なし」で愛知県警ウソつきまくりか

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 妻子や友人とバーべキューにきた海水浴場でチカンと疑われ、警察に任意同行された挙句に建物の2階から落下、首に鉄杭が刺さって死亡した高木勇吾さん。愛知県警は責任がないと主張しているが・・・。
 2008年8月3日の日曜日、愛知県知多半島の海水浴場で、妻子や友人とともにバーベキューを楽しんでいた高木勇吾さん(享年25歳)は、誰もが予想だにしなかった形で命を落とした。知らない男らから「チカンした」と因縁をつけられたのがきっかけで、愛知県警臨時詰所に連れていかれ、その2階から落下、鉄杭が首を貫いたのだ。「職質中に窓から飛び出した。とっさに手を出したが届かなかった」と現場にいた警官は言う。だが筆者が裁判を傍聴し、関係者の証言や解剖調書を検証のうえ、現場の状況を段ボール箱を使った模型と人形で再現したところ、数々の矛盾点が出てきた。愛知県警は「死人に口なし」とばかりに真相を捻じ曲げようとしている--そんな疑惑が濃厚だ。(1審判決文はPDFダウンロード可)
Digest
  • 家族・友人とバーベキューが惨事に
  • 「警官の手が触れたように見えた」と友人目撃
  • 着地地点をめぐる不審
  • 「バランス崩さずベランダ飛び超えた」は本当か
  • 「左足は窓枠にあった」と警官目撃
  •  「死人に口なし」の愛知県警

家族・友人とバーベキューが惨事に

事件の概略を説明しよう。

ことは2008年8月3日(日曜日)の午後、愛知県・知多半島にある千鳥ヶ浜海水浴場で起きた。この日、高木勇吾氏(享年25歳)はゼロ歳の子どもと妻、職場の友達ら計20人ほどで午前中から浜を訪れ、バーベキューを楽しんでいた。天気のよい休日で、多くの海水浴客で混雑していた。約4万5千人の人出があった、と新聞は報じている。

肉を焼いたり食べるのがひと段落すると、高木さんは友人のYさんとともに海浜を歩き出した。Yさんによれば、若い女性のグループに水をかけてからかうなどしながら散歩していたという。この行動があらぬ誤解を招くことになる。

午後3時ごろ、見知らぬ男数人のグループが「俺の女にチカンをした」などと因縁をつけてきた。高木さんは「俺じゃない」と否定した。だが男たちは収まらない。一人が殴りかかってきた。もみあいに発展し、警官がやってくる。

やってきた警官は海水浴場の詰所に配置されていた愛知県警半田署の署員だった。高木さんは50~60メートル離れた県警臨時詰所(2階建て)まで「任意同行」される。

「嫁ときているのに、チカンするはずがない」

詰所に向かう途中、高木さんは興奮して叫び、抗議を繰り返したという。詰所に到着すると、よほど腹に据えかねたのか、サンダルを脱ぎ捨てて裸足で詰所の階段を上り、2階の部屋に入った。一緒にいたYさんのほうは警察に同行を求められることはなかったが、高木さんを追って中に入った。

詰所内部の様子については、Yさんの証言と警察の言い分が食い違う。Yさんによれば、警官数人と高木さんの間で激しい言い合いになった。主に対応したのが角田一郎警部補と西川英利巡査の2人だが、特に角田警部補の態度が乱暴だった。

この点について警察は、乱暴な言動はいっさいなかったと主張している。高木さんの肩を角田警部補がドンと押す場面もあったとYさんはいうが、角田警部補はこれも否定する。

高木さんは詰所の一角の長イスに、座面に足をつけてしゃがむような格好で座った。左隣に西川巡査、机をはさんで正面に角田警部補が着き、名前や住所を繰り返し尋ねた。高木さんの右手はアルミサッシの窓になっていて、開け放たれていた。

そして、入室してからしばらく後、高木さんは右手の窓から外に飛び出した。入室から飛び出すまでの時間もYさんと警察で大きく異なる。Yさんの記憶によれば約20分後。愛知県警は3、4分だったと主張する。

飛び出した瞬間については、警察側の言い分だと角田・西川両警官は、とっさに手を出したが届かなかった、と述べている。一方のYさんは「手が触れたように見えた」と証言する。手は触ったのか触らなかったのか。まったく話が違うのだ。後段で検証するとおり、真相に迫るうえでこれがもっとも重要な部分である。

窓の外はベランダが張り出しており、さらにその外側に鉄製の階段がある。高木さんはベランダ越しに落下し、階段に設置されていた防犯用の鉄杭(太さ1・2センチ)に首を深く貫かれた。首の骨が折れたばかりか頭蓋骨や肋骨も折れ、大出血を引き起こしていた。救急車で病院に運ばれたが翌日に死亡が確認された。

--概略以上のような出来事である。

〈高木さんが死亡した責任の一端は愛知県(警)にある〉

父親の高木義人さんら遺族はそう考えて、昨年2月、愛知県を相手どって名古屋地裁に訴訟を起こした。遺族は裁判所を信頼してあまり公言してこなかったが、判決を聞いて落胆した。1年後の今年3月、原告遺族側の敗訴が言い渡されたのだ。警官の手はいっさい高木勇吾さんの体には触れていない、愛知県にいっさいの責任はない、というものだった。裁判官は長谷川恭弘裁判長、鈴木陽一郎、中畑章生の3人である。

筆者の率直な感想を述べれば、この判決は事実認定を決定的に誤っている。高木さんの墜落状況を見た重要な目撃者であるはずのYさんの証言を一顧だにせず、警察の言い分を丸呑みしたにすぎない。信用すべきはY氏の証言で、これを否定する理由は見当たらない。年度末に向けてやっつけ仕事で判決を書いたのではないか。そんな印象すら受ける手抜き判決だった。

遺族は控訴し、裁判は名古屋高裁で続くことになった。そして「息子の名誉のためだ」と故人の氏名を公表する決意をした。本稿の狙いは、事件を広く知ってもらうことで同高裁に公正かつ慎重な審理を促し、かつ目撃情報の提供を呼びかけることにある。事件について何かご存知の方がいらっしゃったら、ぜひMNJ編集部を通じて筆者まで連絡をいただきたい。

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高木勇吾さんの落下・死亡状況をめぐっては数々の謎がある。警官は「手を出したが届かなかった」といい、目撃者の友人は「手が触れたように見えた」という。現場に花を供える父義人さんと母親。

 ◇「チカン」は言いがかりの可能性大

ところで、読者の中にはこう思った方がいるかもしれない。

〈高木さんはチカンをやったのだろう、だから逃げたのだ〉

無理もない。だがこの見方はまったく見当はずれだ

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高木勇吾さんが死亡した現場の千鳥ヶ浜海水浴場の愛知県警半田署臨時警備詰所。警察の説明どおりベランダを順調に跳び越したとすれば、着地点は鉄杭(矢印の先)より遠くになる計算だ。

高木勇吾さんが飛び出す際に踏み切った窓枠(上)と、ベランダ上部から下を見た光景(下)。写真左手の盛土部分に着地しようとした可能性が高い。

縮尺模型を使ったイメージ(左)。×印が首が刺さった鉄杭。頭を上に飛んだとすれば首が×部分にくるのは不自然だ。右は重力による落下状況を計算した結果。初速度4・4m/sで飛んだ場合、水平移動距離は3メートルを越すとの結果となった。

名古屋地裁による現場検証の写真。原告(遺族)側は、いったんベランダの手すりに足をかけ、そこから再び飛んだと推測している。だが愛知県警はこれを否定、名古屋地裁も同じ判断をした。

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benevoo2012/05/15 20:13

 2008年8月3日の日曜日、愛知県知多半島の海水浴場で、妻子や友人とともにバーベキューを楽しんでいた高木勇吾さん(享年25歳)は、誰もが予想だにしなかった形で命を落とした。知らない男らから「チカンし

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オールアクセプター2012/05/22 16:29会員
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