就活自殺遺族、青木昭さん。09年7月、一人息子の佑介さんを失った。筆者撮影。
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「あみだくじって、引く時は結果が見えないですよね。でも自殺という結果からたどっていくと、途中は全部、裏目裏目でつながっていた」――。2009年7月に就活自殺した青木佑介さん(当時21)の父、昭さん(65)は、6時間にわたるインタビューの最後でそう話した。「息子の意思を尊重したい」という気持ちすら裏目に出た。「自分が佑介を死なせた」という昭さんの後悔は、09年6月14日、“自殺に至るあみだくじ”を佑介さんに引かせてしまったことから始まった。昭さんは何を考え、どのように行動したのか。同居していた父が失敗のすべてを語った。
【Digest】
◇「まさか死ぬとは思わなかった」
◇決定的なミス 銀行の内定辞退「いいよ」と答えた
◇ひどい落込みの佑介さんに「もう1つ内定を」
◇「覚悟」を言う
◇「自分のことでいっぱいいっぱいだった」
◇欝状態と必ず認識できる? 事情によっては無理
◇就活自殺遺族から就活生の親へのアドバイス
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今からほぼ3年前。関西学院大学4年生だった青木佑介さん(21)が関西アーバン銀行に内定辞退を伝えたのは、2009年6月15日のことだ。地元IT企業の内定はすでに辞退していたから、3つあった内定は、その時点で、入社を決めたインテリア小売大手「ニトリ」1つになった。
父・昭さんによれば、はじめての内定は5月26日、IT企業からだった。6月に入って銀行とニトリの内定を続けてゲット。数日間、悩んだ末とはいえ、最初の内定から3週間足らずでニトリに決めたのは、「辞退が遅くなると会社に迷惑をかけてしまう」と佑介さんが急いだ結果だった。
7月に入ってしばらくすると、佑介さんはニトリの内定を持ちながら就職活動を再開。数社の選考を受けていたさなかの7月23日夕方、自宅マンションのリビングで首を吊って自殺した。1週間前の7月16日夜、佑介さんはミクシーの日記に「なんであの内定蹴ってもーたんや」と書いていた。
今回は、前回の報告と同じ出来事について、父・昭さんが何を考え、どのような対応をしてきたのか報告する。
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自殺する数日前の佑介さん。自宅リビングで昭さん撮影。 |
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◇「まさか死ぬとは思わなかった」
「いっぱいサインが出ていたのに、まさか死ぬとは思わなかった」というのが、昭さんが何度も口にした言葉だった。
就職活動で疲弊した佑介さんは、「しんどい」「死にたい」と何度も言っていた。言うだけにとどまらず、早朝、まだ寝ている昭さんのベッドに乗ってきて、「苦しくて眠れない、苦しくて死にたい」と言いながら「身体を抱いてちょうだい、頭を撫でてちょうだい」と甘えてきたことが2〜3回あったという。21歳の男子大学生が見せる甘え方ではない。
夕方、昭さんがイスに座ってテレビを見ていると、帰宅した佑介さんがイスの背もたれと昭さん間に割り込むように座ってきたことも数回あった。
自殺する1週間ほど前には首吊りの未遂があった。柱時計を掛けていた自宅リビングのフックが伸びていたのは、ヒモに体重を掛けたからだ。「本当に死ぬ気ではなく試しに死にかけた」のだと昭さんは思った。「フックが伸びたから未遂で済んだが、伸びていなければこのときに死んでいたと、あとで人から聞いて分かった」と言う。
「どうしたんだ、そんなことをしちゃダメだ、親より早く死んではダメだ」と佑介さんを諭すと、佑介さんは台所に行き、流しに置いてあった包丁を取って腹に突き立てる格好をした。「本気でやるつもりだったら本気だと受け取ったでしょう。だが真似事をしたと思った。それほど深刻に考えなかった」。
自殺当日の午後6時少し前、死亡推定時刻などからすると決行1時間以内のことと思われるが、「お父さんすぐ帰って来て」と佑介さんが泣き声で電話してきた。「できるだけ早く帰る」と返事をしたものの、「死ぬとは思っていなかったから、電話を切ってしまった」という。
このとき昭さんは、前年秋に脳梗塞で倒れた妻(佑介さんの母)の世話をするため病院にいた。「妻にご飯を食べさせたり歯を磨いたり、顔を拭いて化粧水を塗ってやったり言葉の練習をしたりして、それから電車で帰った」。夜8時過ぎに帰宅すると、佑介さんがTシャツに半ズボン姿で自殺していた。
「いっぱいサインが出ていたのに、まさか死ぬとは思わなかった。死んで初めて、ああ、そんなに苦しんでいたのか、早く気付いてやって、ゆっくり休ませてやればよかったと思った。振り返ると、私がものすごく追いつめていたなと思う」
インタビューのなかで昭さんは、自分の失敗を冷静かつ分析的に語ってくれた。サインがたくさん出ていても「まさか死ぬとは思わなかった」ということが実際にあり得るのだと、注意を呼びかける。
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佑介さんが就職活動中に使っていたカバン。筆者撮影。 |
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◇決定的なミス 銀行の内定辞退「いいよ」と答えた
「あみだくじって引く時は結果が見えないですよね。当たり前ですけど。でも、誰が当たって誰が外れたかを見るときは、逆にたどって行きますよね。自死という結果から逆にたどっていくと、途中が全部、裏目裏目でつながっていて、どこかで裏目が切れていれば自死は免れていたと思う」
「裏目の選択かどうかは結果を見ないと分からない。自分が選択するんじゃなくて、外部の状況がその選択しか残さないということもありますよね、その結果として自死に至ることもありますよね」
では、あみだくじを開いたまま、佑介さんが辿ってきた線を見るとどうなっているか。スタート地点は6月14日、銀行に内定辞退を伝えるか伝えないかの選択だった。佑介さんに相談されて「伝えていいよ」と昭さんが答えたことが、最初の選択を誤らせてしまった.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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佑介さんの遺品1。昭さん撮影。 |
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佑介さんの遺品2。ドラえもんグッズを集めていた。昭さん撮影。 |
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自殺後の佑介さん。昭さん撮影。 |
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