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「廃棄原稿を入力しろ」 現役社員が語る文芸社“追い出し部屋”の手口

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文芸社からの退職勧奨を拒否した結果、「追い出し部屋」への異動など、執拗な嫌がらせを受けている小川秀朗さん
 自費出版最大手で、ベストセラー血液型別『自分の説明書』シリーズでも知られる文芸社。その社員で、入社4ヶ月目にトップセールスを達成した営業の小川秀朗さんは、中途入社して2年目の終りとなる2012年2月、理由も告げられず退職を強要された。外部の労組であるユニオンに加入し闘うことを選んだ小川さんに対し、会社は廃棄予定の原稿をひたすら入力する作業を命令。最初の1ヶ月で全ての指が関節炎になり、医師から指を使う作業を禁じられたが、会社はなお指を酷使する廃棄原稿の仕分けを命じ、背後から部長2人で作業を監視、ボーナスも1万円にされた。同僚からも“村八分”を受ける小川さんだが、第2子も生まれ、理不尽な解雇に応じるわけにはいかない。安倍政権で解雇規制の緩和が議論されるなか、こうしたワンマン社長による雇用不安はどう守られるべきなのか。渦中の小川さんに現場の実情を聞いた。
Digest
  • 自費出版最大手・文芸社
  • 営業成績トップを達成したが…
  • 「来季から君の活躍の場はない」
  • ボーナス一人だけ「1万円」
  • 「追い出し部屋」への異動命令
  • 診断書無視しリサイクル作業を命令
  • 無視する同僚たち

自費出版最大手・文芸社

出版にかかる諸々の費用を、著者自身にほぼ全額(場合によっては一部)負担させて書店に流通させる自費出版。この業界で現在、最大手とされるのが、1996年4月に設立された文芸社(本社東京都新宿区・瓜谷綱延社長)だ。

同社では「文芸社出版奨励賞」のほか、「えほん大賞」「闘病記」「社長からのメッセージ」などテーマ別の文学賞コンテストを数多く主催。これらへの応募や、各地で開催する出版相談会などを通じて自費出版を募るビジネスモデルで、従業員数300人足らずながら09年度2月期には売上75億7000万円を達成。

映画化もされた01年刊のホラー小説『リアル鬼ごっこ』、累計700万部を達成した07年のベストセラー血液型別『自分の説明書』シリーズなども、元々は、同社の自費出版企画である。

その文芸社から執拗な退職勧奨を受け、現在闘っているのが小川秀朗さん(41歳)だ。以前は証券会社に勤めていた小川さんは、2010年春にインターネットの求人サイトで文芸社の求人をみつけ、同年5月10日に営業マンとして入社。応募時点では文芸社という会社や自費出版業界についての知識はほとんどなかったものの、出版という未知の業種に興味を覚えたことと、営業インセンティブもあることが応募の動機になったという。

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東京都新宿区新宿1丁目にある文芸社本社(左)と、同5丁目にある日本文学館本社(右)。日本文学館は草思社と同じビルにある。

営業成績トップを達成したが…

営業マンによっては「すばらしい作品だ。可能性を感じる」などと、著者に甘い言葉を囁く者もいた文芸社にあって、入社後の小川さんは証券マン時代からのポリシーを貫き、「自費出版の場合、売れる期待はほとんどの場合は持てません」「最低でも200万円の費用がかかります」と最初に説明するなど、誠実な顧客対応に徹してきたという。

だが、そうした対応は逆に顧客の信頼を掴み、入社4ヶ月目にして営業部のトップセールスを達成するなど、成績は優秀だった。一昨年(2011年)の6月初旬、日本文学館(米本守代表取締役社長 本社東京都新宿区)への出向を命じられたのも、文芸社と日本文学館の間で「数字の作れる」営業マンのトレードをすることになり、文芸社からは小川さんが選ばれたからだった。

同一オーナーである文芸社と日本文学館の関係については、若干の説明が必要になる。2002年に設立された日本文学館は、文芸社同様に「7行ポエム大賞」、「ワンテーマ文学賞」「自分史大賞」などのコンテストを主催し自費出版本を刊行する文芸社と同じビジネスモデルを採用し、活発な人事交流もあるが、登記上は文芸社との間に資本・役員関係ともにない全く別の会社ということになっている(文芸社ホームページでも、「関連会社」とされているのは08年に買収した一般出版社の草思社のみで、日本文学館との深い関連は社外はもちろん社内でも秘密だった)。

だが同社の経理は文芸社の経理部が取り扱っているほか、書店流通に関する業務も文芸社が担当。小川さんの給与明細も保険証も文芸社から発行されており、事実上、一体の関係にある。にもかかわらず日本文学館を全くの別会社のように見せかけている理由について、小川さんは「新風舎対策」だったと語る。

新風舎=文芸社同様のビジネスモデルで、05年には年間出版点数が出版業界全体で1位になったこともある出版社。一方で「虚偽の説明で出版費用を騙し取られた」などの被害を訴える著者が続出し、提訴にも発展して社会問題化した。08年1月に民事再生法適用を申請し、負債総額約20億円で倒産した。

「文芸社がかつても今も一冊200~300万円で自費出版を請け負っているのに対して、末期の新風舎は、1冊100~150万円と割安だったんです。文芸社としては新風舎と価格競争をする必要に迫られましたが、瓜谷社長としては文芸社本体での安売りは避けたかった。そこでわざわざ日本文学館を設立し、安い自費出版はそちらで請け負うことにした。この体制が、新風舎が倒産した後も継続されているのです」

こうした実態は東京都の労働局も把握しており、昨年3月19日には、瓜谷社長と日本文学館における小川さんの上司である小林達也企画部部長と田熊貴行管理部部長、さらに文芸社の原ひろみ総務部長代理と顧問を務めている森本茂樹社労士(森本社会保険労務士事務所 東京都武蔵野市)が呼び出しを受けている。

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とある雑誌に掲載された、文芸社・瓜谷綱延代表取締役社長の写真。

「来季から君の活躍の場はない」

文芸社(と日本文学館)における年度末があと20日と迫っていた2012年2月10日、入社2年目の小川さんは上司から会議室に呼び出され、唐突に「来季から君の活躍の場はない」と言い渡された。

営業マンとして順調なキャリアを築いていた小川さんは、最初その言葉が意味するところが理解できなかった。「それは、異動ということですか?」という小川さんの質問に対し、上司は否定した上でさらにこう続けた。「付き合いのある派遣会社を紹介するから、そこに登録しないか。君のために社長が特別な計らいで紹介してくれるそうだ

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「1万円」のボーナスの支給明細書。控除後の手取り額は8196円。

小川さんの診断書。「病名:両手指関節炎。症状が強いため、手指を使う作業を禁じる」と明記されている。

指を使った作業を禁じられた小川さんが命じられた、「リサイクル作業」の現場。作業場は日本文学館の地下2階倉庫にある。

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st432013/04/06 10:45

なるほどね

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小川秀朗2013/04/21 08:48
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