「政務官のサトウです」と連呼 防衛省敷地内で部下に投票を“お願い”する「ヒゲの隊長」の公私混同選挙
陸上自衛隊十条駐屯地正門前の自衛隊敷地内で選挙運動を行う佐藤正久参議院議員候補(防衛大臣政務官)に対して、他の隊員が大勢いるなかで公然と握手をして激励する第8師団長の堀口英利陸将(制服を着用した左側の人物。7月18日午後6時)。「政治的活動に関与せず」と宣誓しているはずの自衛隊員だが・・・。 |
- Digest
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- 防衛省正門前から隊員へ改憲叫ぶ
- 陸自幹部約100人が公然と支持表明
- 防衛省敷地内で握手求めた佐藤氏
- 十条駐屯地でも露骨な部下に対する投票依頼
- 自衛隊法違反の疑い濃厚
- 2007年の防衛省ぐるみ選挙
防衛省正門前から隊員へ改憲叫ぶ
奇妙な出陣式だった。エジプトで軍事クーデターがおきた翌日の7月4日、参議院選挙が公示され、立候補を届け出た佐藤正久氏は、出馬後の第一声を東京都新宿区の防衛省正門前で行った。
正門前の歩道上に置いたビール箱の上に立った佐藤候補は、市街地とは逆の防衛省のほう(北)に向かって、「防衛省職員のみなさん、防衛大臣政務官の佐藤正久です」と自己紹介したうえで、「憲法改正」「自衛隊の軍隊化」などの政策を絶叫した。
佐藤氏の周辺には支援者が100人ほどの支援者が集まっていた。元陸幕長で政治団体「佐藤正久後援会」代表の森勉氏(三菱電機顧問)や額賀福志郎元防衛庁長官もいた。支援者たちがいるのは歩道上と正門前の空き地部分(防衛省敷地)、つまり佐藤氏の両脇で、なぜか正面には人がほとんどいなかった。というのも、佐藤氏が話しかけている相手とは、「防衛省」そのものだったのだ。
「防衛省」に向け、佐藤氏は拡声器の大音量で次のように絶叫した。
〈今回の参議院選挙でねじれをなんとかして、直していただく。一番日本の根幹中の根幹、憲法。この憲法を取り戻して、しっかりと自衛隊が、まさに将来の責任をしっかりはたせるようにする。誇りをもって結果を出せる。そういう自衛隊を、しっかりと軍隊として、身分と処遇も、そして誇りの持てる、そういうあたり前の国にしなきゃいけない…〉
役所の幹部でもある立候補者が、自分の勤める役所に向かって、投票を呼びかける。筆者は新聞記者の時代からいくつもの選挙を取材してきたが、こんな出陣式をみるのははじめてだった。
陸自幹部約100人が公然と支持表明
防衛省正門前で防衛省職員に向かって選挙演説を行う佐藤正久氏(上)。改憲と自衛隊の軍隊化などを叫んだ。下は拍手を送る陸自幹部ら(7月4日)。 |
防衛大臣政務官を名乗りながら防衛省に向かって選挙演説をする佐藤氏。その姿とあわせて、防衛省の反応も異様に思えた。
佐藤氏が絶叫する先の正門奥をよくみると、制服を着た自衛官およそ100人が並んで立っていることに気がついた。偶然通りかかった、といった様子ではない。佐藤氏の演説を聴くために集まっていることは明らかだった。誰かが呼びかけたものか、自主的に集まったのかはわからない。少なくとも彼らが、事前に佐藤氏の出陣式に関する情報を得ていたことは確かだ。
3佐、1佐、2佐――階級章をみると、ほとんどが佐官クラスの陸自幹部だった。佐藤氏の演説中は神妙な顔で聞いていた幹部らだったが、出陣式の終盤で、反応があった。
「勝つぞ、勝つぞ、勝つぞ」
佐藤氏の支援者が一斉に声を上げ、防衛省に向かって拳を上げた。3度目の「勝つぞ」の後で、支援者らが拍手をした。すると、正門奥にいる陸自幹部たちも、それにあわせて拍手をしたのである。
これを筆者が異様だと感じたのは、自衛隊員の政治活動というのは厳しく制限されている、といろんな自衛官から聞いていたからだ。「服務の宣誓」にもこうある。
「政治活動に関与せず」と宣誓している自衛官、しかも佐官という幹部自衛官多数が、防衛省のど真ん中に集まり、公然と佐藤候補の演説を聞き、拍手で支持を表明した。しかも佐藤氏の演説内容には「憲法改正」が入っていた
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佐藤正久氏を政治的に支援する中心人物のひとりに元陸上幕僚長の森勉氏(三菱電機顧問・「佐藤正久後援会」代表)がいる(写真上の右の人物)。2007年の初当選のときから、自衛隊ぐるみの違法選挙活動である疑いが濃厚だった。下は、防衛省正門前の防衛省敷地内に入って支援者に握手を求める佐藤氏(7月4日)。
陸自十条駐屯地正門前の自衛隊敷地内で、佐藤氏を激励する空自補給部長の吉岡秀之空将(右)。官用車を降りてしばらく立ち話をしていた(7月18日午後6時15分)。
十条駐屯地正門の通用門前の自衛隊敷地内に立ち、退庁する隊員に支持を呼びかける佐藤正久氏。「防衛大臣政務官の佐藤です」と連呼していた。
佐藤氏の選挙運動が公然と行われ、自衛隊幹部もそれを支持する光景が繰り広げられるのを横目に、正門の内側では隊員らが警備についていた(7月18日午後6時15分ごろ、陸自十条駐屯地)。
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隊友会を間に入れていると称する、ヒゲの佐藤氏と自衛隊の繋がりも、実際の選挙運動の場面では、かなり際どいことをやっている印象。自民党がどの口で「教育の中立性調査」などというのだろうか。
そういえばTXの池上さん特番でこの方の選挙活動を見てたけどその辺への言及はなかったなぁ。録画があればその辺だけでも白黒はつけられるんだけど。
事実ならおおごとだが…さて。
事実ならば問題だろう。
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読者コメント
モモさん。ありがとうございます。『自衛隊員が泣いている』は部数と頁数の関係で1600円となってしまいました。部数が伸びれば安くできるのですが。恐縮です。
三宅さんの本、面白いけど、高いです。花伝社等取り寄せて購入しています。もうちょっと安くしてください。お願いします。
ログインせずにコメントしたので再度投稿します。前の分は消去願います。
昨日防衛省大臣記者会見でこの件を質したのですが、大臣はご存じなかったということで夕方広報から連絡がありました。敷地内でもゲートのそとだったら問題ないとのことでした。回答を文書で要求したのですが、拒否されました。文書で残したくない内容だったのでしょう。
自衛隊法はもちろん、公職選挙法等、関連法規を詳細に検討し、佐藤正久氏の行動を調査すべき。それはそうと、6年前の選挙で、事実上の演説に対する”御礼”として自衛隊は私たちの税金から「謝礼」を支払っている。少なくとも33回も。この点についてもいくら税金から出したのか明らかにしてもらいたい。
なんというか、ここまで落ちたか……。日本。
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