秘密保護法成立なら闇から闇 ヒゲ隊長・佐藤正久参院議員の“選挙演説”33回に血税から謝礼
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元自衛隊一等陸佐の佐藤正久氏が初出馬した07年、立候補を表明した直前から選挙の公示直前まで62回、自衛隊施設等で講話を行ない、そのうち33回は謝礼金を受け取った。事実上の選挙運動に税金から謝礼を支払うのは問題がある。一連の事実は国政調査権により明らかになったものだが特定秘密保全法成立で、今後は闇から闇へ葬られるだろう。写真は2007年5月24日、国分駐屯地での講話。この日も謝礼が支払われた。 |
- Digest
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- 自衛隊の選挙活動は特定秘密指定の恐れ
- 「何が秘密かは秘密」国会議員も処罰対象
- 意図的に戦闘に巻き込まれようとした
- 「日本という国は棍棒を取り上げようとしている」(佐藤氏)
- 自衛隊が大々的政治活動、田母神氏ら現役幹部7人が政治献金
- 防衛省は情報公開を拒否
- 国政調査権で謝金支払が明らかに
- 日本軍に近づく自衛隊
自衛隊の選挙活動は特定秘密指定の恐れ
掲載した表を見ていただきたい。A4伴5枚からなる2004年11月~2008年9月までの佐藤正久参議院議員の主に自衛隊施設内で行われた講話実績である。イラク派遣の体験などを113か所で話し、そのうち36回の講話に謝金が支払われている。金額は開示されていない。
佐藤氏は07年1月15日、総務省に政治資金団体「さとう正久をささえる会」の設立を届け、1月29 日、自民党比例第62支部長に就任し、正式に参議院選挙への立候補を表明しているので、これ以降の言動は選挙運動を想定すると見るのが相当であり、講話は事実上の選挙演説となる。
この表をもとに、36カ所の場所と日時を特定して、あらたに防衛省に対し情報公開請求すると、佐藤氏の講話に対する謝金支払決定書、履行書、交通費清算、その他イベントの詳細など膨大な資料が出てきたのである。関連資料をいれると400枚以上にはなる。
政治的中立が義務付けられている自衛隊が、組織をあげて特定政党の特定候補を応援し、施設を自由に使わせていることや、納税者から徴収した税金から、特定立候補予定者(選挙が公示されるまでは「予定者」)に謝金が支払われているのは問題であろう。
このような事実がわかったのは、平岡秀夫前衆院議員(民主)が国政調査権という国会議員に課せられた義務であり権利を行使したことで発覚した。社民党の福島みずほ議員も同趣旨の質問趣意書を提出している。まず憲法41条で「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定されている。
その「国権の最高機関」に与えられているのが、国政に関して調査を行う権利であり、これを「国政調査権」という。いろいろな方法があるが、有名なのは証人喚問だ。また、国会法104条に基づいて各議員や委員会が内閣、官公署その他に対し、必要な報告・記録を求めることができる。
ところが特定秘密保護法では国会議員の活動をもしばり、議員の調査情報収集活動の結果を漏えいさせれば最高5年の懲役(同法第22条の2)が科せられる。第10条のイでは、国政調査権に応じて特定秘密を提供することができるとされているが、それを第三者、たとえば有権者や記者に伝えたら処罰されるから、空文である。
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(上)5枚つづりの表には113回にわたる佐藤氏の自衛隊施設内での講話実績が示されている。(下)情報公開請求→拒否→不服申し立て→却下→国政調査権行使→一部資料公開→再び情報公開請求→合計400枚声の応援関連資料が公開される。その資料を映した写真。![]() |
「何が秘密かは秘密」国会議員も処罰対象
つまり、佐藤正久氏と自衛隊の選挙活動を巡る情報が特定秘密に指定されれば、国会議員、議員秘書、情報にアクセスした筆者、墨塗りとはいえ証拠資料を提出した防衛省職員らが逮捕されて処罰される可能性は充分だ。自衛隊組織とその出身立候補者による不適切な選挙運動は闇から闇に葬られる。
その懸念が現実的だとわかったのは、法案が提出される直前の10月21日、参議院議員会館で行われた野党議員による質問集会においてだ。この日は、法案の説明をもとめるために野党議員らが、特定秘密保護法の問題点を追及した。
政府側からは、内閣官房、防衛省、外務省、警察庁、総務省の官僚たちが出席して答弁した。内閣官房調査室の橋場健参事官は法案の核心を次のように説明した。
白昼堂々と衆人環視で独裁政治体制をとると宣言したようなものである。何が秘密かは秘密で一切公表しないのだから、すべての案件が秘密になり、処罰の対象になるのは全市民ということだ。
さて、本稿で追及する国政調査権との絡みはどうか。山田太郎議員(みんなの党)が、およそ以下のような質問をした。
山田 「国会議員の国政調査権は権利というより義務。その結果知り得た内容を有権者に報告した場合、どのような制限を受けるのか」
橋場参事官 「政府内部の役職を務める国会議員が特定秘密を漏えいするような場合には、この法案による処罰の対象となる」
憲法上、国権の最高機関に与えられた国政調査権もほとんど無にすると述べた歴史的瞬間である。これでは三権分立も成り立たず、官僚独裁を呼び起こすからだ。この記事に示した画像やダウンロード資料も特定秘密に指定される可能性は充分にある。
ここでなぜ、元幹部自衛官の佐藤正久氏の選挙活動に注目したかを確認する。第一次安倍政権のときに誕生した国会議員であり、自衛隊の国軍化、日本の軍事国家化をいそぐ政権の思惑とぴったり歩調を合わせる活動を佐藤氏は行なっており、今回の国家安全保障会議創設とセットになる特定秘密保護法制定の流れに位置づけられるからである。
その背景と、税金から謝金が支払われていた事実をつかむまでのプロセスを記録に残しておきたい。
意図的に戦闘に巻き込まれようとした
2007年8月、参議院選挙で当選したばかりの佐藤議員は、TBSの取材に答えて、いわゆる「駆けつけ警護」発言をした。佐藤議員が隊長としてイラクに派遣されていたときに、近くにいるオランダ軍が攻撃された場合について次のように語った。
「情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれるという状況を作り出すことで、憲法に違反しない形で警護するつもりだった。(中略)巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから。眼の前で苦しんでいる仲間がいる。普通に考えて手をさしのべるべきだという時は、行ったと思うんですけどね。その代り、日本の法律で裁かれるのであれば、よろこんで裁かれてやろうと」
要は、攻撃されてもいないのに意図的に戦闘行動に入ることを想定していたということだ。まかり間違えば、命令に従わなければならない彼の部下は、危険にさらされたかもしれなかった。
なおかつ、日本の法律で裁かれるなら「よろこんで裁かれてやろう」と言う。これは違法を承知で法を犯そうとしていたことになる。憲法にも自衛隊法にも抵触する恐れがあり、文民統制を犯すことになりかねない。
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(上)佐藤氏の自衛隊関連施設内における講話、懇親会などの参加実績や謝金の有無などをもとめた情報公開申請書。(下)開示決定通知書。一部は開示するが、最重要である講話謝礼関連は不開示とされた。
2007年1月15日、大分での講話で佐藤氏は初めて謝礼を受け取った。この日は総務省に対に「さとう正久を支える会」(佐藤正久代表)を届け出た。選挙がらみの活動の最初である
2007年2月9日、陸上自衛隊朝霞駐屯地で開催された講話。真ん中の交通費請求書を見ると「日当」の欄に定額と印字されている。講話謝礼意外に日当をとっているのかどうかは不明。どの書類も講話謝礼と交通費請求書がセットになっている。
陸上自衛隊都城駐屯地で2007年5月23日に実施された講話に関する書類。(上)を見ると「各部隊長、各中隊長は別紙「計画」により、人員・装備を差出し、部外講話に参加せよ」と命令している。選挙公示直前に立候補予定者の講話だから、政治活動にあたるだろう。
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"筆者が防衛省に情報公開請求すると不開示決定で資料はゼロだったが、国会が国政調査権を行使すると、選挙直前の講話に謝金が支払われている事実が判明、数百枚の証拠類が出たのだ。"
秘密保護法関係なくても怪しい案件。ヒゲ隊長、胡散臭い。
自衛隊の選挙活動も秘密の恐れ。税金使い選挙干渉、権力犯罪だ。やはり潰そう秘密保護法案。
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読者コメント
佐藤某の頭の中には、戦いたくてムズムズしてる亡者が住み着いているようだ。
この自民党の佐藤正久参院議員が理事をしている国家安全保障に関する特別委員会で秘密保護法が審議されています。
謝礼金も問題ですが、この講演に聞きたくもない隊員達が動員され、自民党に投票を強制されるという政治活動違反(自衛隊法第61条違反)のほうも大事だ。政治的中立を標榜しながら、何十年も堂々とやっているこの腐敗。
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